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ラ・ヴィアン・ローズ・朱雀の章

紅蓮朱雀3

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-朱煌 6歳-


 明日、村の子供たち同様に、朱煌はスクールバスで学校なるものに護送される。
「護送って、姫さん・・・」
 その愚痴に付き合っていたクロスも、さすがに苦笑した。
「行きたくもないところへやられるんだ。護送と言って何が悪い」
 畑仕事の汗を拭き拭き、クロスはやれやれと空を仰いだ。
 今夜にはマジェスティーも自分も任地へ赴くというのに、こんな調子でこのTom boy(じゃじゃ馬)が大人しく初めての護送・・・いやいや、通学に応じるのかどうか、どうにも怪しい。
 儚げな貴族出の姫君であるレーヌひとりに、この娘のお守りは少々荷が重いように思われる。
 妻のデラを手伝いがてらマジェスティー邸に送り込んでおこうと、クロスは心のメモ帳に書きとめたのだった。



 夜明け前にマジェスティー邸へと集結したラ・ヴィアン・ローズの傭兵たちは、輸送トラックに乗り込んで、一路、米軍基地へと向かった。
 今回の依頼主は米国。
 彼らは米国が軍事支援を行う中米の内戦で、捕虜を奪還しつつ、敵拠点に打撃を与えよと依頼を受けたのだ。
 数ヶ月前からマジェスティー邸で綿密な計画が練られてはいるが、百戦錬磨の傭兵たちとて緊張を隠せない大仕事であった。
 だから尚更かもしれない。
 勘の鋭い傭兵たちが、トラックに身を潜める珍客の存在に気づくことなく米軍基地まで到達し、輸送機への侵入まで許してしまったのは・・・。



 部隊はパラシュート降下にて、敵陣の只中へ。
 数秒間隔で輸送機から飛び出していく傭兵たち。
 そして、隊長たるマジェスティーがいよいよしんがりで降下しようとした、その時。
 その傍らを駆け抜けた小さな影が、何の躊躇いもなく、輸送機から1500フィートの大空へと飛び出したのである。
「――――煌!?」
 あまりのことに目を疑う。
 いや、それ以前にパラシュートは人数分しか搭載していなかったはずなのに!
 ともあれ降下するしかなく、マジェスティーは舌打ちと共に機体を飛び出した。
 遥か下に、訓練用にしつらえてやった戦闘服姿の朱煌が、風を受けて降りていくのが見えた。
 やはりパラシュートなど着けていない。
 一体どうする気なのかと、マジェスティーは顔色を失った。
 すると朱煌の前に降下した隊員が、パラシュートを開いた。
 それを待ち受けていたように、朱煌は小鳥のように自在に体勢を修正し、フワリとそのパラシュートの上に降り立ったのだ。
 なるほど。朱煌ほど小さく軽ければ、パラシュートのバランスは何ら変化しないということか。
 地上が近付くと、朱煌はパラシュートの上に片膝をつき、じっと間合いを計るように目をつむった。そして、隊員が地上に転がった瞬間、パラシュートを蹴って朱煌は再び空を舞った。
 下で唖然としながら、その様子を見上げていたクロスが、とっさに両手を広げる。
 その腕の中に朱煌が飛び込む。
 さすがに勢い余ってよろめきつつも、クロスはなんとか朱煌を抱きとめることに成功する。
 そこへやっと降下したマジェスティーは、とりあえずマニュアル通りにパラシュートを処理し、クロスの陰に隠れてしまった朱煌を睨んだ。
 ああ・・・、今にも半径数キロにも轟くであろう怒声を張り上げてしまいそうだ。
「マジェスティー隊長、お怒りはごもっともだ。しかし、ここでモメている時間はありませんぜ」
 その通りだった。
 今更引き返す訳にもいかず、前線基地に寄っている時間もない。
 朱煌を送る為に人員を割くことも、綿密な計画が意味をなさなくなってしまう。
 ひっぱたいてやりたい。
 お尻を。
 思いっきり。
 ・・・が、こんな所で泣かれては困るのだ。
 マジェスティーはとりあえずクロスから朱煌を引っぺがし、ピシャンと一発だけお尻に平手を据えた。
「痛いッ」
「作戦終了後は、もっと痛い目に合わせてやる。覚悟しておけよ」
 むくれる朱煌にため息。
 それもこれも、この子が生き残れたらの話であるが・・・・・・。


 クロスが日々課してきた訓練の成果は、朱煌・・・暗号名『朱雀』に如実に現れていた。
「私の訓練・・・というより、実戦に強いタイプなんだと思いますぜ」
 火の番をするクロスが焚き火に薪をくべて、傍らで毛布に包まって眠る朱煌を眺めやり、苦笑混じりに言った。
 そもそも輸送機からパラシュートもなく飛び出す度胸。
 突然増えた朱煌の食料などないと言えば、ジャングルから適当に食べられるものを調達してくるサバイバルセンス。
 大の大人でもハードな行軍に、いくら装備なしの身一つとはいえ、ペースも乱さずついてくる。
 むしろ生き生きとして見えるくらいで、感心するのを通り越してあきれるくらいだ。
「まったく、末恐ろしい子だよ、このお姫さんは」
 毛布を掛け直してやろうとした時、ふと朱煌が目を覚ました。
「朱雀、どうした。オシッコか?」
 朱煌は黙ったまま、再び地面に頬を寄せる。
 また寝入るのかと思いきや体を起こし、地図を見せろと言い出した。
 マジェスティーとクロスは顔を見合わせたが、とりあえず地図を広げてやった。
「・・・やっぱり、か。ね、捕虜奪還後の逃走ルートは、このアバル山脈を越えるんだったね」
 マジェスティーは額を押さえる。
 会議に立ち会わせたことのない朱煌が、何故それを知っているのか。
 つまり、盗み聞いていたということ。
 それにすら気付けなかったなど、新生傭兵部隊の隊長など、辞めたくなってきた。
「・・・山脈越えは険しい道程だが、米軍陣地への最短コースだからな」
「すぐに皆を起こして、ルート修正して」
 再び顔を見合わせたマジェスティーとクロスを、朱煌は至極真面目に見据えた。
「今、地震があったのに気付かなかったの?」
「地震? それで起きたのか」
「ほら、また」
 神経を集中させてみたが、揺れなどまるで感じない。
「アバル山脈は火山帯だよ。しかも間もなく噴火しようとしてる」
「朱雀よ、確かにアバルは火山だが、もう活動を停止して百年以上の死火山なんだ。だからこそ、民族解放戦線がその拠点を麓に置いてる」
「死火山? それは誰が決めたの。人間の判断で自然を定義づけしただけの話だろ」
「朱雀、初めての戦地で神経過敏になるのはわかるが、そんなことじゃ・・・」
 苦笑するクロスの横っ面を、朱煌はやおらひっぱたいた。
「――――我に従え。さもなくば・・・・・・死ね」
 圧倒的な気迫。
 凛とした声。
 それはギルド壊滅の時にも見た、朱煌のもうひとつの姿であった。







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