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ラ・ヴィアン・ローズ・朱雀の章

紅蓮朱雀2

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             ―朱煌六歳―

 米国の片田舎にマジェスティーが購入した家が、しばらくの間、ラ・ヴィアン・ローズの拠点となった。
 普段は朱煌とマジェスティー、そしてレーヌの三人住まい。
 その程近くに、アイフェンが小さいながら診療所を構えている。
 丘を越えた辺りにはクロスとその細君が昔から定住しており、言うなれば、ここはマジェスティーが少年時代を過ごした土地なのだ。
 ラ・ヴィアン・ローズの契約傭兵たちは、普段各国に散らばっており、仕事の時だけマジェスティー邸に寄って作戦指示を受けるのだ。



「学校!?」
 夕食中のレーヌの提案に、朱煌は目を丸くした。
「ええ、姫さまも六歳。本来学校に通ってらっしゃるお年ですもの。でしょう、マジェスティー様」
 にっこりと微笑んで同意を求められ、マジェスティーは苦笑して朱煌の顔色をうかがった。
「英国のセントポール女学院など、どうかと思いますの」
「セントポール? あそこは寄宿学校ではなかったか」
「そうですわ。良家の令嬢や貴族の姫君方と生活を共にすれば、煌姫さまも大変勉強になりましてよ」
 見る見る顔色を変えていく朱煌を、マジェスティーはハラハラと流し見た。
「それは…やめた方がいい。あそこは規律正しく躾けに厳しいことで有名な学校だろう。そんなところにこの子をやったら、問題を起こしてくれと言っているようなものじゃないかな」
 さすがはマジェスティー。
 もしそんな学校に入れられたら、徹底的に問題を巻き起こして、退学してやろうと目論んでいた朱煌である。
「では、町の学校なら?」
「ああ、それなら・・・」
 レーヌの目がキラリと光った。
 それでハッとする。
 やられた。
 これは初歩的な心理誘導だ。始めに難関を口にしておいて、次に本来の目的を伝える。
 難しいことを言われた分、目的が安易に思えて了承を得られやすいということだ。
「それでは、さっそく手続きを…」
「あたし、行かないぜ! 学校なんか!」
「姫さま、またそのようなはしたない言葉を…」
「行かねぇったら行かねぇよ! 勉強なんて大ッ嫌いだ!」
「好き嫌いの問題ではありません。マジェスティー様からも、ちゃんとおっしゃってください」
 間に挟まれて、すっかり弱ってしまったマジェスティーは、助けを求めるように食事にきていたアイフェンを見た。
 しかし、彼は我関せずと食事に集中している。
「レーヌの馬鹿! あたしは絶ッッッッ対に行かないからな!!」
 とうとうダイニングを飛び出していってしまった朱煌に、マジェスティーはやれやれとため息をついた。



 ノックをしても無反応。
 それでもマジェスティーは構わず朱煌の部屋に入った。
「朱煌…」
「その顔で朱煌って呼ぶな。何度言わせる」
「じゃあ、キラ」
 不機嫌オーラを部屋中に充満させていた朱煌も、思わず脱力する。
「安直。縮めただけじゃないか」
「じゃあ何て呼ぶんだ。ジョセフィーヌか、マイーザか、アマリアか、キャスリンか」
 ちなみにこれらは各地に点在するマジェスティーの恋人の名であるが。
 どうもこの手の顔は、女にやたらと縁があるらしい。
「…煌でいいよ。で、何しに来た。学校の話なら聞かないぞ」
「手続きしようと思ってる」
 朱煌は振り向きざまに、手近にあった電気スタンドを彼に投げつけた。
「こら」
 それを受け止め苦笑するマジェスティーに、朱煌はさらに手当たり次第に物を投げ続ける。
「聞かないって言ってんだろう! それ即ち、行く気はないってこった! ンなこともわかんねぇのか!?」
 さすがに受け止めきれずに下に落ちた物を拾い、それをテーブルに置いたマジェスティーは、窓辺の朱煌に子供にするよう(子供だが)顔をしかめて見せた。
「聞き分けのない子はお仕置きだぞ」
 朱煌はサッと両手でお尻を庇い、壁に張り付いた。
「イヤだろ。なら、話を聞きなさい」
 むくれている朱煌の前に屈み、視線を合わせる。
「学校は大事だ。勉強より、友達がね」
「そんなもん、いらねぇよ」
「ダぁメ」
 マジェスティーはどうも語調が優しいので、朱煌お得意の毒舌ペースに巻き込みにくい。
「……だって、せっかく友達作ったって、戦場行って休みがちじゃ、意味ないじゃん」
「戦場へはまだ出さないよ」
「!? ――――約束を違える気か!!」
「まだ…と言っただろう。訓練を重ねて、完璧な状態に仕上げて、十八歳くらいだな」
「あたしの目的は知ってるはずだろ!?」
「母親への送金は、ギルドからの前金でまかなえる」
「それだけじゃない! あたしは……」
「もう一人殺した!」
 マジェスティーは苦々しげに、初めて声を上げた。
「……後は、もっと大人になってからだ。いいね」
「……」
「返事をなさい」
「……わかったよ」
 やっと柔和な表情に戻ったマジェスティーは、うつむき加減の朱煌の頭をクシャクシャと撫でた。

 

 翌朝、絹を裂くような悲鳴がマジェスティー邸に響き渡った。
 ダイニングで新聞を読みふけっていたマジェスティーは、何事かと立ち上がり、すぐに腰を下ろした。
「あ・・・煌だな」
 朱煌と言いそうになって、本人もいないのに律儀に言い直す。
 律義者の予感は的中しており、悲鳴の主レーヌが、真っ青になって置手紙をもってやってきた。
『そういうことならお前に用無し』
 ……もう少し可愛げのあることは書けないのか。
 置手紙に顔をしかめたマジェスティーは、両手に顔を埋めて泣き濡れているレーヌの肩を労わるように叩いた。
「安心しろ。あ…煌はすぐ連れ戻せるから」
「でも……」
「この辺りで黄色人種は目立つんだ。村の人にも東洋人の子供がフラフラしてたら確保するように昨日のうちに伝えてある。多分、今頃……」
 マジェスティーが言い終えない内に、ドクター・アイフェンが寝癖のついた髪をかき回しながらやってきた。
「ジェス、村から苦情がきてるぞ。あのおチビが捕獲先の家を半壊させたとさ」
「~~~~~」
 さすがに、そこまでは予想していなかった…………。



 大工道具一式を抱えたクロスを伴って、マジェスティーは朱煌の身柄を引き取りに村に下りた。
「おお、こりゃすげえ」
 クロスののんきな発言に額を押さえる。
 窓は割られ、カーテンは破れ、ドアも外れ、中に入れば家具は倒れ、食器から何から床に散乱し、『半壊』は大げさだったにしても、惨状そのものはひどいものだった。
「ちょいとジェス! あんた、子供に一体どういう躾けをしてるんだい!!」
 家主のおかみさんが、ぴりぴりと青筋立てて喚く。
 これはもう、平謝りするほかなし。
「あんただって大したガキ大将だったがね、ここまでじゃなかったよ!」
「悪かったよ、おばさん。後でちゃんと言い聞かせるから。修繕はおじさんが一通りやってくれるよ」
 クロスのことを久しぶりにおじさんなどと呼んで、マジェスティーは少々照れくさくなってしまう。
「当たり前さね! ……ほら、こっちだよ。ああ暴れられちゃ、納戸に閉じ込めるのも一苦労だよ、まったく」
 ブツブツ言いながらも見捨てずに、朱煌を止めておいてくれたおかみさんに感謝。



「さてと。ここにおいで」
 椅子にかけたマジェスティーの言う「ここ」とは膝のことで、朱煌はお尻を擦って首を横に振った。
「さっき、あのおばさん家で散々叩いたじゃないか!」
「お前がすぐおばさんに謝らないからだ」
 捕獲先の家でマジェスティーに捕まってすぐ、イヤというほどお尻をひっぱたかれたのだ。
 ジーパン越しでも十分痛くて、まだお尻が火照ってヒリヒリしている。
「大体、汚ねぇんだよ! 先に手を回しておくなんて、あたしをこれっぽっちも信用してないんじゃないか!」
「正解だったろ?」
 そう言われると、一言もない。
「……でも、そもそも、どうして、あんた達に拘束されなきゃならないんだよ」
「だってお前は私の娘だろう」
 さも意外そうに言うから、朱煌の方が驚いてしまう。
「ほ、本気!? だって、こんなだよ?」
「うむ、こんな…だな」
 だから早くと言うように、マジェスティーが再び膝を叩く。
「……もういい」
「で、済むと思うか」
 思いたいが。
「まったく」
 少し腰を浮かして手を伸ばしたマジェスティーに腕を引かれ、あっという間に膝の上でお尻をむかれてしまった。
「いやあぁぁぁぁぁ!!」
「ごめんなさいだろ」
 まだ先ほどの赤みが引かないお尻を今度は丸出しの状態でひっぱたかれて、朱煌は盛大に悲鳴を上げて背中をのけ反らせた。
「ひッ、や…あっ、い…た…、う~、うぅ~、痛い~~~~~!!」
 とうとう大声を上げて泣き出した朱煌に、マジェスティーも手を休めて真っ赤に腫れた小さなお尻を擦ってやった。
「……あの手紙、本気だったのか」
「う…、う…、て、が、み…?」
 しゃくり上げて首を傾げる。
「置手紙。『そういうことならお前に用無し』」
 泣きすぎてボーッとした頭の中でも、返答次第でおしおきの度合いが変化することはわかる。
「違う…、ただ、悔し紛れに、書いた、だけ…」
 書いた時は本気だったが。
「書いた時は本気だったろ」
「~~~~」
「まあ、今回は許す。だが、今度あんなこと言ったり書いたりしたら、容赦しないからそのつもりで」
 ということは、これで容赦しているのか。
 朱煌は顔をねじ向け腫れたお尻を見て、ゴクリと喉をならすと慌てて何度も頷いてしまった。
「念の為、容赦しないお仕置きを、お尻に教えておくぞ」
「え゛ッ、嘘ッ、ちょっと待っ……ぎゃーーーーーーー!!」
 たった一発だけであったが、『容赦しない』平手というヤツで、さすがの朱煌も当分は大人しくしていようと、固く心に誓ったのであった。

                                




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