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オルガ

第一話 首輪の少女

 ←最終話 最後のお仕置き画 →第二話 躾の成果
          
「私は行かんぞ」

 幼馴染のヴォルフ侯爵から、またサロンへの招待状が届いていると執事に聞かされて、フォスター卿は鼻白んで手袋を脱いだ。

「しかし、旦那様・・・」

 執事が言いたいことはわかっている。

 この種の招待を何度も断るには、少々言い訳が尽きてきた。

「あいつの悪趣味は、学生の頃からお前も知っているだろう、モートン」

「はあ・・・しかし・・・」

「何が貴族趣味か! 蛮行・愚考の極みだ。平民の娘を・・・しかも子供を! ペットとして飼うとは。古代人の愚劣な王か、あいつは!」

 彼のサロンは、そのペットを披露して集まった人々で弄ぶ為に催されているのは、周知の事実。

 だからこそ、なんだかんだと理由をつけて、招待を蹴っていたのだが。

ため息。

 執事に八つ当たりしても、どうにもならないのはわかっているのだ。

「わかった! 今回限りだ。サロンに出向いて、今後のご招待は丁重にお断りする旨、直接お伝えしよう」





 類は友を呼ぶ。

 サロンに介した面々の、特権階級意識の匂いは、フォスターの胸を悪くさせた。

――――まるで安っぽい香水のたまり場だな。

「やあ! 懐かしき級友よ。やっと招待に応じてくれたな」

 かつての学友ヴォルフは、両手を広げてフォスターの来訪に喜びを表現した。が、フォスターは表情を堅くしたまま、招待状を差し出した。

「これを伝えにきたんだ。今後一切、私にこのサロンの招待状は・・・」

 最後まで言い終わらぬ内に、けたたましいファンファーレ。

 つい視線を送ると、可愛らしい純白のドレスに身を包んだ13~14歳の少女が、執事に手を引かれて、サロンの中央にやってきた。

 まるでお人形のような顔立ち。

 流れるようなみどりの黒髪に、赤い花の髪飾りが映える。

 ただ・・・その大きな瞳は、どこか無機質。

 それが一層、陶器のお人形のような印象を与えるのだ。

 淡い桜色の唇。

 首には、髪飾りと揃いの赤いチョーカー・・・、いや、あれは、首輪!

「話は後だ、フォスター。ショーが始まる。楽しんでいってくれたまえ」

「おい・・・!」

 サロンの真ん中に突っ立っている少女に歩み寄ったヴォルフは、注目するサロンの客を見渡すと、やおら、少女を包む純白のドレスを引き裂いた。

「・・・・・・!!」

 フォスターは愕然とした。

 ガーターストッキングと首輪だけの、丸裸にされた少女は、むしろ、うっとりとするように、歓声を上げる客達に、四つん這いになって見せ、尻を高々と上げて、自らその秘部を晒したのだ。

 そんな少女に客たちが群がる。

 男も女も。

 そして、少女は次から次へと、彼らの肉体の一部を受け入れ、異物を受け入れ・・・・・・。

 フォスターは込み上げてくる吐き気を何とか抑え、少女が上げる妖艶な声に背を向けた。

――――見ていられない・・・! だから来たくなかったんだ!

「どうしたね? いいペットだろう? あれだけ仕込むのに、3年もかかったんだぞ」

 いつの間にか戻ってきていたヴォルフが、ニヤニヤとワインを仰いで言った。

「下町の小娘だったが、むしろ磨き甲斐があった。何でも言うことを聞くぞ? 尻を出せと言えば尻を、股を開けと言えば股を・・・」

「やめろ!」

「なんだ、相変わらずお堅いな」

「可哀相だと思わないのか・・・!」

「可哀相? どうせ売女でもしなきゃ生きていけない貧家の娘だぞ。親も喜んで売ってくれたさ。それに、最初と違って、アレはもうああされることに悦びを感じてる」

 フォスターは開きかけた口を閉じた。

 何故なら、高らかに上がる少女の喘ぎが、ヴォルフの言葉を証明していたからだ。

「・・・余程、非道を強いてきたのだろうな」

 皮肉のつもりだったが、ヴォルフにはその言葉が賞賛に聞こえるようだ。

 少女を仕込んできた日々を思い出したか、口端に笑みをなぞらえた。ただ、その笑みも、悦び狂うような少女の声に失笑に変わった。

「まあ・・・、仕上がってしまえば面白味も失せたがな」

 ――――低俗な蛮人め。幼い娘の人格を捻じ曲げておいて・・・!

「だから、今日は試食を兼ねた競売会だ。あの雌犬を欲しいヤツにくれて・・・」

「――――買った」

 ヴォルフと同時に、そう言った当人のフォスターまでもが、目を瞬いた。

「・・・本気か?」

――――本気か?

 ヴォルフの問いを、自らに問う。

 あの娘を買って・・・、いや、低俗な貴族趣味の連中から救い出して、それで、どうしようというのだ。

 親元に返す? 

否。またヴォルフのような男に売られるか、自ら喜んで客を拾う売女になるのがオチだ。

 通称・仕置き館に送って、再教育を受けさせるか?

 否。自らの意志でこうなってしまった訳でもないのに、あそこはさすがに厳しすぎるか・・・。

 どうせ再教育を施し、全うな社会生活を送れるようにするならば・・・。

「本気だ。あの娘は、我が家で引き取る」

 勢いとは言え、何を言い出すのか、自分は。

 モートンがどんな顔をするだろうと考えたら、少々頭が痛かった。





「だ、旦那様!?」

 モートンはフォスターが幼い頃から屋敷に仕える、彼がもっとも信頼する人物だ。

 故に、この反応は正しい・・・。

 車のシートカバーに包んだ幼い少女を抱き連れ帰ったフォスターに、「お帰りなさいませ」などと冷静に言われたら、自分はもしやモートンに、そういう人間だと思われていたのかと、ショックだ。

 シートカバーの中の少女は全裸だった。

 あの悪趣味なヴォルフが少女を引き渡す時、素っ裸の彼女に四つん這いで歩かせて、挙句、例の赤い首輪から伸びるリードを引いてきたのだ。

もぎ取るようにリードを掴み、少女を立たせ、首輪を外すと、その首輪をヴォルフに突き返してやった。

「これはこれは気が利かずにすまんね。新しい飼い主のものになるからには、古い首輪はいらなかったな」

 思い出すだけで、はらわたがどうにかなりそうだ・・・。

 さすがに全裸のまま屋敷に連れ帰るわけにもいかず、フォスター家の運転手に、座席のシートカバーを外させた次第である。

「事情は後だ。とにかく、この娘の服を急ぎあつらえさせてくれ」

 唖然としていたモートンだが、主の指示とあらば迅速で、メイド頭を呼び、少女のサイズを測らせて、何着かの服を。そして、指示にはなかった下着類も、数着揃えさせた。

 メイド頭に別室で少女の着替えを任せ、その間に、モートンにヴォルフ家での顛末を説明する。

「・・・可哀相に・・・。あんな幼い少女が・・・」

 呟くように言ったモートン。この反応も正しい。

「しかし、あの娘をこれからどうなさるおつもりです?」

 これも正論。

「引き取る。ここで、あの子にちゃんとした教育を受けさせるよ」

「ご養子に!? また、ご結婚が遠のくではありませんか」

 生真面目すぎるフォスターは、社交界の花々がどうも不得手で、家柄・容貌・人格共に申し分ない身でありながら、30の声をきく今も、独身を通しているのだ。

「こう申し上げては何ですが、ご学友のヴォルフ様が独身でいらっしゃるのは、そのお人柄が影響しているところ間違いないとして、旦那様の場合とは違うのですよ」

「その人格破綻者のサロンに行けと言ったのは、お前だろう」

「・・・・・・」

 フォスターはかぶりを振ってモートンを見た。

「すまない」

「いえ」

 短いその返事が、少女の養子承諾であると、フォスターにはわかっていたので、今度は、彼の肩を叩くことで、もう一度「すまない」という素振りをした。

「――――きゃあ! あなた! いけません! そのような格好を・・・!」

 メイド頭の悲鳴に近い声。

 「あなた」とは、おそらくあの少女。

 慌てて廊下に出ると、可愛らしいエプロンドレス姿の少女が、スカートの裾を邪魔そうにしながら、四つん這いで歩いていた。

「なっ・・・」

 咄嗟に浮かんだヴォルフの顔。

――――あいつめ・・・! この娘に日々、こういう歩き方を課していたな・・・!

頭痛がする。

これはどうも、大変な買い物をしてしまったようだ・・・。







 少女はまともに言葉を話せなかった。

 返事はする。ただし、すべて「はい」だけだ。

 どんなことも「はい」と受け入れるよう、調教されてきたらしい。

 だからだろうか。意志の力を感じない、ガラス玉のような瞳は・・・。

 名前も取り上げられたらしい少女に、フォスターは『オルガ』という名をつけた。

「オルガ、いいかい? 今日から、四つん這いで歩かなくていいんだ。それに、「はい」以外の言葉も・・・オルガ!」

 オルガと名付けられた少女は、珍しげにスカートの裾をいじっていたのだが、めくりすぎて、下着も丸見えになっている。

「ダーメ! それはしてはいけないことだよ」

 顔をしかめて見せたが、オルガはキョトンとした顔で、「はい」と言うと、またスカートを引っ張り始める。

 やがて、服がうっとおしいと言わんばかりに、脱ごうともがき始めた。

「オルガ!」

 思わず声を上げると、オルガはビクンと動きを止めて、フォスターの足元に這い蹲り、背中を向けた。

――――メイド頭の話では、背中に薄っすらとだが、いくつもの鞭痕が交差していたらしい。

 ヴォルフを怒らせた時の罰だったのだろう・・・。

 吐息。

 フォスターは自らも跪いて、オルガを抱き起こした。

「やめなさい。そういうことは、もうしなくていいんだ・・・」

 オルガは小首を傾げていたが、何かを思いついたように、フォスターのズボンをまさぐり始めた。

「おい! オルガ!?」

 オルガはフォスターのベルトを外すと、ズボンのジッパーを引き下ろそうと・・・。

「やめなさい!」

 オルガをズボンから引き剥がすべく小脇に抱えると、スカート越しに少々きつくお尻を叩く。

「あん!」

 しまった・・・。手を上げるつもりはなかったのに・・・。

「すまない、オルガ」

 小脇から下ろすと、フォスターはオルガの目線まで屈んで、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「オルガ、もう、そういうことはしなくていいし、しちゃいけないことなんだ。私はお前にそんなことを求めない。ヴォルフ家に行く前の自分を、早く取り戻すんだよ」

 仔猫のように首を傾げていたオルガは、お尻を擦り、おそらくは理解していないだろう様子で、ヴォルフ家で覚えた「はい」と言った。





 

 その晩、何やらゴソゴソとするベッドの気配に目を覚ましたフォスターは、ハッとしてシーツを剥ぎ取った。

「オルガ!!」

フォスターの股座に、顔を埋めるようにしている、丸裸のオルガ。

「寝間着はどうした!?」

 言ってしまってから、間の抜けた質問だと気付く。

 そうではなくて・・・。

「やめなさいと言っただろう」

 オルガは股間から引き離され、キョトンとして座りこんでいたが、今度は自ら大きく開脚し、その秘部を曝け出す。

「違う!」

 オルガはムクリと起き上がると、今度は四つん這いになり、フォスターに向けたお尻を高々と・・・。

「――――オルガ!!」

 差し出されたお尻を思い切り引っぱたくと、オルガは驚いて四つん這いを潰した。

 ヤレヤレと首を振ったフォスターは、ベッドの端に腰掛、ガリガリと髪を掻き回した。

 またぶってしまった。

 不本意だ。実に不本意だ。

 とにかく冷静に。この子に悪気はないのだから・・・。

 立ち上がり、椅子にかけてあったシルクのガウンをオルガに着せる。

「今すぐ、自分の部屋に戻りなさい。レディが男性の寝室に潜り込むのは、いけないことだよ」

 オルガは「戻れ」という言葉は理解できるらしく、床に四つん這いになると、ドアに向かって・・・。

「それもダメ! 足だけで歩きなさい!」

 つい大きな声。

 ビクリとしたオルガは、どこかヨタヨタしながら立ち上がり、大きなガウンをズルズル引きずりながら出て行った。

「ヤレヤレ・・・、足だけで歩けなんて言葉を使うハメになるとはな・・・」

 ともあれ、課題山積みの前途に思いを巡らせながら、再びベッドに入る。

 考え事のせいで、なかなか寝付けない。

 何度目かの寝返りを打った時、モートンの悲鳴に近い呼び声が聞こえて飛び起きる。

 廊下に出ると、普段からは想像できないほど泡を食ったモートンが、こけつまろびつ、フォスターに駆け寄ってきた。

「何事だ」

「オ、オ、オルガ様が・・・!」

「オルガがどうした?! 怪我でも・・・!」

「い、いえ・・・」

 モートンの冷や汗を拭う仕草で、フォスターは事態を把握する。

 今度は、モートンのベッドに潜り込んだのだろう・・・。





「あーーーん! あーーーん!」

 やはりモートンの部屋で捕獲されたオルガを、フォスターは即座に小脇に抱え、自分が着せてやったガウンの裾を捲り上げ、ピシャリピシャリと丸出しになったお尻に平手を据えた。

 背中に鞭の恐怖で調教された哀れな少女に、手を上げるのは非常にためらわれたが、言葉で言っても通じないオルガを躾けなおすのは、これしか思い浮かばなかった。

 もちろん手加減はしているが、それでもオルガの小さなお尻は、どんどん赤くなっていく。

「いけないことだと言っただろう。いけないことをしたら、こうなるからね。よく覚えておきなさい!」

「やーーーん! 痛い! 痛い! お許しください! お許しください!」

 眩暈。

 初めてまともに聞いた「はい」以外の言葉が、「痛い」と「お許しください」とは・・・。

「お許しくださいではない! こういう時は、「ごめんなさい」と言うんだ」

 一際きつく平手を据えると、オルガは両足をバタバタとさせながら泣きじゃくり「ごめんなさいーーー!」と叫んだ。

 その声に、小脇から下ろしたオルガを抱き寄せ、しゃくり上げてお尻を擦る彼女の黒髪を撫でる。

「痛かったな。もう、あんなこと、するんじゃないよ」

 何度も頷くオルガ。

 なんだか、ため息。

 ヴォルフの課した調教と、自分がしていることと、どこに差があるのだろうという思いにかられるフォスターであった。


つづく

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