ラ・ヴィアン・ローズ

第19話【帰投】

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       ―1991年―


「米ほか多国籍軍の戦果は圧倒的であった。
 紅蓮朱雀こと朱煌の指揮によるルマダ通信施設・飛行場の無力化を成功させ、制空権を確保。
 それにより、多国籍軍側は地上戦も極めて容易に展開したのである。
「まだ戦いは終結しておりません。ここで撤収など…」
 1989/2/24。多国籍軍による地上軍が投入された朝、ラ・ヴィアン・ローズ朱雀主力部隊に、本陣より撤収命令が下った。
 通信画像のマジェスティー将軍に敬礼した朱煌は、撤収命令の撤回を要求したのだが…。
『もはやルマダのザイエン撤退は目前だ。我ら傭兵に武勲など要らぬ』
「それはそうですが、契約はザイエン奪回です」
『分隊を残留させれば十分だ』
「……では、前線基地のドクター・アイフェンを回収して…」
『彼は従軍医師だ、最後まで残る。殺すのは途中でやめられるが、人命救助を放棄する訳にはいくまい?』
 朱煌はしばし顔色を失った。
 朱煌絶対擁護派のアイフェンが残留。
 ということは、孤立無援の本陣帰投……。
「……私も分隊指揮に残留します」
 画像の向こうでマジェスティーが肩をすくめた。
『それでもかまわんが……多国籍軍の前で恥をかくぞ。本陣待機の将官たちが、そちらに乗り込むと息巻いているからな』
 ウッと言葉につまる。
「……了解。これより朱雀艦隊、湾岸より撤収します……」
 画像が切れると、朱煌は思い切り舌を出してやった。
 ブリッジにクスクスと笑いが起こる。
 朱煌は少々ふてくされ気味に片手を振り上げた。
「朱雀艦隊、撤収せよ。これよりラ・ヴィアン・ローズ本陣に帰投する!」
 



 大昔のように、航海に何ヶ月もかかればいいのに……。
 そんな願いもただ虚しく、現実は厳しかった。
 いっそ愛機のティットで米軍基地にでも逃げてしまおうかと思ったが、それこそ捕まったらただではすまないだろう。
 アイフェンが一緒なら庇ってもらえるが、それを見越した上での残留命令に違いない。
「閣下、本陣見えました。入港命令を」
 部下の言葉が恨めしい。
 入港してすぐ、港にズラリと顔を揃えているラ・ヴィアン・ローズの将校陣の姿が見えて、うんざり。
 朱煌は半ば開き直ったようなヤケクソの気分になり、甲板からヒラヒラと彼らに手を振った。
「よう、お歴々がお揃いで。凱旋祝いでもしていただけるのかな」
 一斉にジロリと睨まれ、さすがに怯む。
「サッサと降りてきな、煌姫」
 六フィートを越す褐色の肌の大男、ラ・ヴィアン・ローズの古株傭兵クロスが言った。
 最近、叱られるといっても養父のマジェスティーか、養母の『レーヌ・ド・ローズ』からくらいで、仲間たちのこんな怒り心頭ぶりは数年振り。
 それがなおさら、朱煌を拗ねた子供の気分にさせた。
 とりあえず艦を降りたものの、当然のように彼らの前を素通りする。
「こら、待たんか」
「疲れてるんだ。そんな仏頂面に付き合ってられるか」
「それが四ヶ月も行方をくらまして、心配かけたヤツの言うことか」
「それが大きな戦果を挙げて戻った、凱旋の将への態度かよ」
 クロス達の堪忍袋の緒が切れた音が、ハッキリ聞こえた気がした。
 慌てて逃げ出したものの、クロスの号令一過で取り押さえられ、黒い巨体の前に引きずり戻される。
 何しろ六フィート強…二メートル越す長身の上に鍛えられた恰幅のよい肉体の持ち主だから、上から見下ろされ睨まれると、恐ろしく威圧感。
 それでも朱煌は負けじと胸を張り、クロス以下の将校たちを見渡した。
「これが総領姫にやることか。不敬罪で軍法会議にかけてやってもいいんだぜ」
「そうとも、あなたは我々の大事な総領姫だ」
 言うが早いか、クロスはヒョイと朱煌を小脇に抱えた。
「だから皆、こうして怒ってるんだろう」
――――ピシャアァァァァンッッッ!!
 大きな手が、朱煌のお尻をひっぱたいた。戦闘服の厚手の生地にもかかわらず、お尻の形が変わってしまうんじゃないかと思うほど……。
「痛あぁぁーーーーーいぃぃッ!!」
 その音と悲鳴に、他の将校たちはつい目をつむって首をすくめる。
 そして苦笑する顔を見合わせ、肩をすくめた。
「じゃ、クロス閣下。後はお任せしますよ」
「こ、こら――――! 誰かひとりくらい恩情見せて助けんか―――!!」
 見ていられないとばかりに引き上げて行く将校たちに罵声を浴びせた朱煌のお尻に、再び強烈な平手が振り下ろされた。
「痛い痛い痛いーーーーッッッ!!」
「姫さん、恩情受けたきゃ、それなりの反省ってもんを見せるもんだろ」
 呆れたようなクロスが、またゆっくりと手を振り上げたのを見て、朱煌は慌てて首を振った。
「だって仕方ないだろ! アイフェンに聞けよッ。あたしが悪いんじゃない~~~!!」
「ああ、聞いてるよ。記憶喪失だったって?」
「知ってるなら、なんでそんなに怒るのさ!」
「あのな…、元はと言やぁ、あなたが米軍との合同演習から黙って消えたりしたせいでしょうが」
 言葉につまる。
 愛機ティットでフラリと旗艦を出たのは確か。
 高城との約束の日、ほんの少しあの公園を覗いて、戻るつもりだったのだ。
 それが……、いるはずないと思っていた高城が、待っていた。
 会いたい。でも、会えない。
 相反する二つの心の葛藤は、高城が気付いてくれた嬉しさが、ほんの少し上回って……自分が紅蓮朱雀であることを、封じ込めた。
 ――――ピシャアァァァン!!
 みっつめの平手に、朱煌はたまらず悲鳴を上げた。
「だからぁ! すぐ戻るつもりだったんだ~!」
「うるさい、このTomboy―じゃじゃ馬娘―!! 下手すりゃ敵前逃亡で軍法会議ものだったんだぞ、わかってるのか?!」
「痛いよ、痛いよ、痛いよ~~~~~!!」
「ここのところ、しっかりしてきたと安心しとったのに、また心配かけおって!」
「痛い痛い痛ぁいッッッ! ごめんなさぁいッ、もうしません、もうしません!」
「そうやって端からしおらしく謝まりゃ、恩情も受けられたってもんだ。それが何だ、あの態度は?!」
 泣いても喚いても、もはや後の祭り。
 戦いにおける判断力は他の追随を許さない朱煌だが、こと公を離れた途端、いつも後悔先に立たず…という言葉を思い知るはめになるのである。




 酷い目にあった。
 朱煌はヒリヒリするお尻を擦って顔をしかめると、次の難関が待ち受ける執務室のドアの前に立った。
「朱雀中将、入ります」
 あくまで朱雀で押し通し、おしおきを切り抜ける構え…。
 執務室に入り、デスクに座すマジェスティー将軍に向けて敬礼。
「朱雀艦隊、只今湾岸より帰投いたしました」
「うむ、ご苦労。今しがた米より入電があった。本日2/28、ルマダがザイエンより無条件全面撤退を宣言したそうだ」
 『朱雀』に言ったマジェスティーは、優しい笑みを浮かべて『煌姫』に歩み寄った。
「クロスにこっ酷くやられたそうだな。ま、私まで叱りつけるのは、勘弁してやろう」
 心底ホッとする。
 その途端、拗ねたふくれ面。
「だったら一週間の甲板掃除も免除するよう、クロスに言ってよ。どこの世界に将官に旗艦の甲板掃除させる軍隊があるのさ」
 ぽんとお尻を叩かれて、朱煌はますますむくれた。
「そういうこと言ってると、今回の一件、ママンに言いつけるぞ」
 思わずギクリとする。
 そういえば、朱煌の悪戯にはいつだって一もニもなく素っ飛んでくるレーヌ・ド・ローズと、まだ顔を合わせていないのだ。
「あの…ママン・レーヌは?」
「渡英中だ。例の貴族の姫君方のマナー講師にな。彼女は何も知らんよ。ペンタゴンで作戦会議だったことにしてある」
 ドッと脱力して大仰に息を吐いた朱煌に、マジェスティーは苦笑した。
「だから。おとなしくクロスに従うこと。わかったな」
 渋々頷くと、マジェスティーは頭を撫でてくれた。
 心地よい時。
 しかし、マジェスティーを見つめるうちに、なんだかこう…モヤモヤしてきた。
 どうしてこんなに似ているのか。マジェスティーと、あの人…高城善積。
 まるで鏡に写し取ったよう。
 マジェスティーの方が引き締まった体躯で、表情の作り方のせいか凛々しく見えるが、こうしてやわらかく笑うと、まるきり高城ではないか。
 せっかく彼への想いを振り切って戻ってきたのに、マジェスティーを見ていると、高城と過ごした日々が脳裏に鮮明に…………。
 やおら朱煌は頭を撫でるマジェスティーの手を振り払い、思い切りアカンベとした。
「パパなんか、だ~~~~~~~いっ嫌い!!!」
 そのまま執務室を駆け出した朱煌。
 その背中を、とばっちりのマジェスティーは呆然と見送っていた。




「もう一週間だぞ、一週間! 絶対に避けられてるッ。俺がいくら話しかけても生返事ばかりで、顔も見ようとしないんだ。俺が何かしたか?! 心当たりないぞッ」
 シャワーを浴びて出てきたアイフェンは、ハイテンションに喚く弟を、うんざりして一瞥した。
 戦地からやっと今朝戻ったばかりだというのに、いきなりマシンガンのように愚痴を聞かされたら、疲れが倍増だ。
「顔だろ」
 とにかく眠いので、必要以上にぶっきら棒。
「姫さまは、お前の顔がお気に召さないんだ。覆面でも被ってろ」
 アイフェンの弟、ラ・ヴィアン・ローズ将軍マジェスティーは、頭から湯気を噴かんばかりに顔を真っ赤にした。
「要するに、あの『約束の人』とかいう高城善積のせいか~~~~!! なんでそんな男の為に、俺が被害をこうむらなくちゃならんのだッッ!!」
「うるさい。40手前の男がキーキー喚くな。それ以上、私の休息時間を邪魔すると…」
 ケロイドに埋もれかけた鋭い眼光に、マジェスティーはギクリと後退った。
 見た目は恐ろしく若く、姫護役で二十歳と偽ってもバレなかったアイフェンだが、実年齢はあの高城よりもずっと上なのだ。
 マジェスティーは高城と変わらない年で、まあ年相応の外見だから、余程の古株でない限り、ラ・ヴィアン・ローズ内でも彼らが兄弟で、しかもマジェスティーが弟だと知っている者は一握りでしかない。
 マジェスティーがこんなくだけた接し方をするのが兄弟二人きりか、せいぜい古参のクロスの前だけなので尚更である。
「寝る。出て行け」
 さわらぬ神に祟りなし…。マジェスティーはすごすごとアイフェンの診療所を後にした。




 私邸の書斎に戻ると、クロスが書類の整理をしながら二階から聞こえるピアノの旋律に耳を傾けていた。
「ああ、お帰りなさい…て、なんて顔なさってるんです、閣下」
 仏頂面でデスクにかけたマジェスティーに、クロスは苦笑した。
「そらそら、姫さまのピアノでも聴いて、和んだ和んだ」
 ……いい音だ。
 以前と明らかに違う朱煌の旋律。
 しっとりとして、心に響く。
 これは技術面の向上ではない。
「……こんな音を出せるなんてねぇ。例の『約束の人』が、本気で好きなんでしょうなぁ」
 核心をつくクロスの発言に、マジェスティーは思わず胸を押さえた。
 その様子に、クロスは彼の仏頂面の意味を悟ったらしく、同情半分、からかい半分で肩を叩いた。
 そこへ、ノックと共に美しい金髪の女性が現れて、マジェスティーにうやうやしく頭を下げた。
「只今、英国より戻りました」
 彼女が朱煌の養母であり教育係でもある、レーヌ・ド・ローズ。ラ・ヴィアン・ローズの薔薇の女王と称され、外交面を担うマジェスティーの片腕である。
 ただし、戦闘には一切参加しない、本当の華。
 戦士集団のラ・ヴィアン・ローズにおいて、異色の存在である。
「此度の大勝利、まずはお祝い申し上げます。英国女王陛下におかれましても、大変お喜びにございますわ」
 淑女の鏡のようなレーヌが、朱煌がもっとも苦手としつつ愛し慕う母なのだ。
「それにしても、帰国早々嬉しゅうございますわ。あの姫さまが私が口うるさく申さずともピアノに向かって下さるなど、初めてですわね。それに、なんと良い音でしょう。恋でもなさったのかしら」
 何の事情も知らないレーヌまで……。
 マジェスティーはへなへなとデスクに突っ伏した。




 久しく家族が揃った夕食。
 少し奇妙な家族ではあるが。
 養父母のマジェスティーとレーヌは夫婦ではなく、ラ・ヴィアン・ローズの上官と副官のようなものだし、その愛娘の朱煌はふたりと血が繋がっていない訳で、戸籍が存在するなら、全員が他人なのだ。
 夕食が済んで朱煌が自室に戻ると、レーヌがマジェスティーに紅茶を運んで苦笑した。
「私の渡英中に、何かありましたの? 姫さまが一度も閣下と目を合わせようとなさらないなんて」
 朱煌はレーヌには普段通りだった。
 つまり、やはり原因は高城善積。
 マジェスティーと同じ顔の男……。
 マジェスティーは大きなため息ひとつ。
 そしてレーヌの紅茶を一息に煽ると、スックと立ち上がった。
「煌と話してくる。少し二人だけにしてくれ」
 レーヌはやんわりと微笑むと、黙ってこうべを垂れた。



 
 呼吸を整えノック。
 ドアを開けると、窓辺に腰掛けた朱煌が黙って外を見ていた。
「煌、レーヌが食後のデザートにフルーツのタルトを作ってくれたぞ。ほら、食べるだろう」
 会話のきっかけにと、レーヌが持たせてくれたタルトと紅茶をテーブルに置く。
「なあ、煌…?」
「後で食べる」
 無愛想極まりない返答に、マジェスティーは窒息しそうだ。
「煌、話をする時は、パパの顔を見なさい」
「話なんかない。用が済んだら出てって」
 さすがにカチンときて傍らに歩を進めると、窓にマジェスティーの姿が映った途端、朱煌は壁を向いてしまう。
「煌」
「何」
「煌」
「だから何だよ」
「こっちを見なさい」
 苛立ちもあっていささか乱暴に朱煌の肩をつかんで向き直らせると、その手を振り払って、朱煌はベッドに潜り込んだ。
「あんたの顔は嫌いだ。あたしと目が合わせたかったら、整形でもするんだな」
 頭からシーツを被って丸まった朱煌の毒に、マジェスティーはそろそろ忍耐の限界を感じていた。
「パパに向かって、『あんた』とは何だ」
「け。赤の他人が父親面か」
 シーツ越しのくぐもった声。
 言葉は荒いが声のトーンは普段の甘えた色なので、マジェスティーは少しホッとした。と、同時に、やはりナメられているのがわかり、ため息。
「あのな、パパだって怒る時は怒るぞ」
 シーツの膨らみが、モゾモゾとマジェスティーから離れていく。
「煌。パパ自身への反抗なら、私も自分を見直すことを優先するよ。だが、お前のそれは、単なる八つ当たりだろう?」
 シーツをめくると、朱煌は拗ねた視線をマジェスティーに向けた。
 ああ、やっと愛娘の瞳を見ることができた……。
 ベッドに腰掛けたマジェスティーは、膝をポンポンと叩いた。
 朱煌はさらにズルズルと後退る。
 毎度のこととはいえ、往生際が悪い。
「抱っこ」
「お仕置きが済んだらね」
「やだ…。あんたの…痛いんだもん」
「また『あんた』って言う。ちゃんとパパと呼びなさい」
 朱煌の視線が逃走ルートを模索しているのが手に取るようにわかるから、マジェスティーはすかさず彼女の腕を引いて、膝の上に腹這いにした。
「やだーーーー!! パパの馬鹿―――!!」
「やっとパパと呼んだと思えば、今度は馬鹿か。悪い子だ」
 パアアァァァンッッ!!と、ズボンの上からきつい一発。
 朱煌は背中を仰け反らせ、大きな悲鳴を上げた。
 それからズボンごと下着を引き下ろすと、剥き出しになった白いお尻に、見事な手形が赤く浮かび上がっていた。
「やだやだやだやだーーーーー!!」
 子供の頃と変わらない暴れっぷりに、苦笑。
 逃がさないよう、腰に回した手に力を込める。
 マジェスティーは振り上げた手を先ほどよりさらにきつめに振り下ろした。
 立て続けに十回。
 一発目の手形は見る間に紛れてわからなくなる。
「痛いッ、痛い痛い痛い~~~~~!! もういやぁッ! 痛いよぉーーー!!」
 マジェスティーは甘い父親として定評のある男である。
 普段なら朱煌が小首を傾げて「ニコリ」とすると、怒っていたのに次第に表情が軟化し、結局、ほんの少しお説教して済ませてしまう姿を、ラ・ヴィアン・ローズ勢に幾度も目撃されているのだった。
 だからこそなのか、お仕置きする時は容赦ない。
「痛いってば、痛い~~~~!! もうやだ、やだやだやだーーーー!!」
「ヤダじゃない。パパは怒ってるの」
 すでにまんべんなく赤く染まったお尻を庇おうと伸ばした手は、無情にも背中に押さえ込まれる。
 もがけばもがく程に平手の強さが増すので、朱煌はとうとう泣くしか手段がなくなっていた。
 泣いて、泣いて、子供のように大声で。
 その内に声がかれて、平手打ちの瞬間にビクリと反応するだけの嗚咽となった。
 それを見計らったように、マジェスティーは平手を納め、そっとズボンを戻してやった。
「……いっぱい泣いて、少しは気が済んだか?」
 ベッドにうつ伏せに寝かされた朱煌は、顔を埋めたままお尻を擦り、こくんと頷いた。
「―――――お兄ちゃん…、善積さん…、あなた…、あなた……!」
 シーツを掴み、朱煌は小刻みに肩を震わせた。
「パパの顔は見たくない! 思い出しちゃう! 善積さんを思い出す! 忘れなきゃいけないのに……、忘れてしまいたいのに……!」
 マジェスティーはベッドにかけたまま、朱煌の頭をくしゃくしゃと撫でた。
 こんな精神状態で、よくもあの戦場での気丈な指揮を遂行したものだ。
 ラ・ヴィアン・ローズの紅蓮朱雀として、完璧に責務をまっとうした。
 マジェスティーは愛しい娘の不憫なまでの天賦の気質に、つい目頭を押さえた。
「愛してるよ、煌。パパは、お前に幸せになってほしい……」
 朱煌の首は横に振られた。
 いつも。
 いつも、そうだ。
 朱煌は平凡な幸せを拒絶する。
 それはすべて、朱煌という命を生み出した、ひとりの女性の為に……。
                        





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