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フォスター家【オルガ番外編】

モートンと厳しいお仕置き

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「ひん! ぅう! んっ! んン! あ! ぇーん、いっ、たっ、あぁ!」
 フォスター、九歳。貴族やブルジョア階級の子弟が通うスクール初等科の、三年生である。
 そんな彼には四歳終盤の頃から、一人の守役の従僕がいた。
 貴族の子息には必ず最低一人、そういう側仕えがつくのが習わしである。
 それは遊び相手を兼ねた年の近い者であったり、第一線を離れた家令であったりと様々であるが、フォスターについた守役は、二十ほど年長の父親代わりのような人であった。
 その名を。
「モートン、ごめんなさいぃ! うぅっ、モートン、ごめんなさいぃ!」
 モートンはたいそう穏やかで物腰の柔らかな青年である。
 そんな彼がこんなに厳しい面持ちでお仕置きに望むのを、フォスターは初めて経験した。
「うー! うー! ん! あ!」
 ペシャンと地面に潰れると、モートンが黙って彼の腹をすくい上げるように四つん這いの姿勢に直させる。
「~~~ぅぅ」
 いつもなら、こうして四つん這いにさせられたお仕置きの最中に姿勢が崩れても、フォスターが自分で戻るまでいつまでも待ってくれるのに。
 いや、それ以前に。
 普段ならこんな屋外などでなく、城の一室に設えられたお仕置き部屋に連れて行かれるのに、果樹園で作業に勤しむ領民たちの前でなど、初めてだ。
 しかも、道具で。
 パン。パン。と音がする度に、領民たちが気の毒そうにこちらを見遣る。
「ふぇ! あーん! あーん!」
 丸出しのお尻を手の平で厳しく叩かれた時の方が余程痛いくらいで、パドルに似たそれはズボンの上を弾いていく程度ではあったが、やはり、こうたんとお仕置きが続くとジワジワとヒリヒリとしてきて痛痒くて、なのにお尻をさする間を与えてもらえなくて。
「モートン、もうやだぁ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
 先ほどから、幾度もそう言っているのに。
 モートンはお仕置きの手は止めてくれるけれど、道具をお尻にあてがったまま言うのだ。
「何にごめんなさいなのでございますか?」
「ぅう。うう・・・。た、食べ物を、粗末にしました・・・。ごめんなさい・・・」
 それも、こうして尋ねられる度に幾度も言った。
「・・・・・・それだけ?」
 すると、こう返される。
「~~~」
 また、答えられない。だって、それ以外に何を謝ればいいのか、わからない。
 モートンの吐息が聞こえて、お尻にあてがわれていたそれが離れたかと思うと、おもむろにサスペンダーの留め具が外された。
「え? や、やだぁ!」
 これはきっとズボンも下着も捲られてお尻を丸出しにされてしまう。
 そう察したフォスターが果樹園の領民たちの目を恐れて体を起こし、ズボンを守るように両手で掴んだ。
「・・・手をどけて、四つん這いにお戻りなさい」
「嫌! 皆が見ている。恥ずかしいよぉ・・・」
「ですからここでお仕置きしておるのです。いい加減、お気付きくださいませ、坊ちゃま」
「やだぁ! わかんない!」
「坊ちゃまは、もっと恥ずかしいことをなさったのでございますよ」
 モートンがお仕置き道具としていたクリケットバットで、ピシャンと自分の手の平を打った。



 王都でならば治安や往来の車や馬車の圧倒的な数もあり、坊ちゃまの外出とあらば、必ず付き従う。
 けれど、領地であれば一人で遊びに行かせることも多かった。
「モートンや、クリケットバットを持っていく。麓の村の子と試合するのだ」
「はい、只今ご用意致します」
「皆ね、クリケットをやったことがないのだって。だから僕がルールを教えてあげるのだよ」
「それはそれは。道具はモートンがお運びしなくても?」
「何、お前の手を借りるまでもないさ。いってくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
 はつらつと駆け出していくフォスターの背中を見送って、モートンは目を細めていた。
 幼かった体つきもすっかり少年らしくなった。
 後ろ手を組んで悠々とモートンの前を歩く姿などは、小さな紳士だ。
 先ほどまで傍にあった主の頭の天辺を思い出し、そこに添えた手の平をそっと自分の体に引き寄せてみる。
「ふふ、胸の下まで来たか」
 出会ったばかりの頃は、腰までもなかったのに。
 大きくなった。
 嬉しいような、残念なような。
 残念と言えば。
 今はどこも収穫祭前の繁忙期だ。
 このフォスター領は国内でも就学率の高い領地だが、それでもどこの村でも学校から戻った子供たちも駆り出されての収穫期であろう。
「こりゃあ、早めに時間潰しのお付き合いに参じねばならんな」
 そうして粗方の仕事を片付けて、フォスターの出向いた山の麓の村までやってきたモートンが視界に捉えたのは、忙しなく収穫作業に勤しむリンゴ農家の大人と子供。
 農村出身のモートンには望郷の光景であった。
「おやまあ、やはり」
 見れば果樹園の外で一人、つまらなさそうにクリケットバットを振っているフォスターの姿。
 これから小半時もすれば、フォスターと年近の子供たちから下の子は農作業を解放されて、彼に駆け寄ってくることだろう。
 それまで話し相手でも。
 そう微笑んで傍まで歩み寄ったモートンは、フォスターが振ったクリケットバットから弾けた飛沫に思わず手をかざした。
「あー、もう。また割れちゃった」
 モートンは足元に飛んできた破片を摘み上げて眉をひそめたのだった。



「も、もうしない。モートン、もうしません・・・」
 曰く。
 つまらなく思いながら、一人でクリケットのボール打って遊んでいたそうだ。
 それが幾度目かで思いのほか勢い良く飛んで、ボールが行方知れずとなってしまった。
 そこで、ボールのように真ん丸ではないが、手頃な大きさで歪ながら丸いそれがたわわに実っているのが目に入る。
「それをちょうだい」
 果樹園に入ってくる領主様の御子息が差し出した手に、リンゴ農家の領民は苦笑して繰り返し手渡すしかなかったのだ。
 黙って自分の手の平を打ち続けるモートンに、フォスターはお尻を庇ったままベソベソと涙声で繰り返した。
「・・・何をもうしないのかお伺いしておるのです」
「~~~だからぁ・・・、もう、食べ物、粗末に、しないぃ・・・」
「・・・四つん這いにお戻りなさい。ズボンと下着を下ろして、お尻を出して頂きます」
「~~~!」
 必死で首を横に振ったフォスターだったが、クリケットバットで手を打ち続けながら押し黙るモートンを見上げ、やがて鼻をすすり上げておずおずと四つん這いの姿勢へと戻った。
「あ!」
 あっという間に赤く染まったお尻を晒されて、フォスターは頬を紅潮させて顔を垂れ下げる。
 パン!
「んーーー!」
 やはりズボン越しより鋭くなった痛み。
「顔を下げない。目を瞑らない。前を見る」
 お尻を叩くクリケットバットより、遥かに鋭いモートンの声。
 けれど顔を上げたら、果樹園で作業している領民たちと否応なしに目が合ってしまう。
 四つん這いの姿勢を取らされて、丸出しにされたお尻を叩かれて、泣きべそをかいている情けない姿を。
 リンゴの収穫作業をしている彼らが見て・・・。
「・・・・・・あ」
 涙で歪んだ視界の向こうで、そりゃあたまにはチラとこちらに視線は向けるが、実際はせっせともいだリンゴをカゴに詰めていく果樹園の領民たち。
「痛っ! 痛いぃ・・・」
 よくよく見れば、皆汗だく。
 カゴいっぱいになったら、今度はそれを木箱に詰めて、重そうな木箱を荷車まで運んで。
「待って!」
 フォスターは振り上がったクリケットバットの気配を察して声を高くした。
「見ているから、待って!」
 今度こそモートンはクリケットバットを垂れ下げた。そして、恥ずかしいと言っていた格好のままでじっと領民たちの働く姿を見つめているフォスターを、じっと見守る。
「・・・モートンや。僕らが領地を出立する頃、あのリンゴの木はいつも裸だよね」
「はい、左様にございますね。あの赤いリンゴが跡形もなく」
「なのに、次に来た時はまたリンゴの木になっている」
「・・・はい。彼らがああやって汗を流して世話をしてくれるお陰で」
「僕は、そのリンゴをボールの代わりにして遊んでいたの?」
 モートンの手から、クリケットバットが落ちた。
 そして、自らは四つん這いの姿勢を崩そうとしなくなったフォスターの体を抱き上げて、すっかり赤く染まってしまったお尻にズボンを戻してやる。
「~~~ごめんなさい・・・。ごめんなさい。ごめんなさいぃ・・・」
「はい。はい、坊ちゃま。痛かったですね、ごめんなさい。モートンと領民の方々に謝りに参りましょうね」
 コクンと頷いたフォスターを抱いたまま、モートンは果樹園へと向けて歩き始めた。



 領地の城の家令専用の自室で、ゆったりと椅子に身を委ねてその報告を受けたスフォールドは、立ち尽くすモートンが俯き加減で握り締めているクリケットバットを流し見た。
「・・・申し訳ございません。お仕置きはお仕置き部屋でとのお言いつけを破りました」
「モートン。私が何故、お仕置きはお仕置き部屋でとお前に言ったのか、わかっている?」
「は。叱る側こそ冷静さを、そこまでの道程に取り戻す為・・・と」
 スフォールドは天井を仰いで深く息をつくと、モートンからクリケットバットを取り上げた。
 それを合図のように、覚悟を決めた様子のモートンが膝を掴むようにお尻を差し出す。
「・・・何?」
「あの。あなたの言いつけに背いたお仕置きを・・・」
 ガリガリと髪を掻き回したスフォールドはクリケットバットで自分の手の平をピシャピシャと叩いて宙を仰いだ。
「あのね、モートン。お前に任せた坊ちゃまはたいそう心健やかにお育ちだ。そのお前がその場で叱ることを是としたならば、私はもう口出ししないよ。ただ・・・」
 モートンが膝についていた手を掴んで引き寄せたスフォールドは、その手の平に目を落とす。
「坊ちゃまはご夕食の際にお尻をもじもじとなさるくらいだったが、お前の給仕は酷かったぞ。プラッターを卓上に落っことしやしないかと、ヒヤヒヤした」
「~~~申し訳ございません」
「お尻叩きのお仕置きに道具を使う際、私も威嚇の振りで手の平を叩いて見せて、道具の力の加減を測る」
 指の節々まで痛々しく腫れて青くなっていたモートンの手の平に、スフォールドは深い吐息をついた。
「それだけでもお尻よりずっと薄い手の平には堪えるものを、わざときつく幾つも据えたね」
 ますます手を引き寄せられて近くなった顔に見据えられ、モートンは押し黙って俯き、やがておずおずとスフォールドに上目遣いを向けた。
「さて、お仕置きの時間だよ、モートン。今から氷のうを作ってきてあげるから、それまでに自分の罪状を言えるように考えておきなさい」
 それを覚悟でスフォールドの部屋を訪ねたとは言え、やはりゴクリと息をのむ。
 前もって氷のうを準備など、一体どれほど厳しくお仕置きされるのだろうか。
 やがて氷のうを手にして戻ってきたスフォールドが椅子に腰を下ろすと、再びモートンの手を取った。
「さあ、時間はあげた。答えたまえ」
「・・・あなたのお言いつけを破りました」
「誤答。それは口出しせぬと言ったよね」
「え? あ、不調法な給仕を致しました」
「・・・この手で粗相しなかったことは、むしろ賞賛に値するね」
 返答に窮したモートンはふと、自分の腫れた手の平をそっと撫でさすっているスフォールドの仕草に気付いた。
 部下にやらせれば良いものを自ら氷を砕いてきたのか、労るように腫れたモートンの手をさする彼の手がヒンヤリとして心地いい。
「はい、これを持って」
 その手に握らされて、氷のうはこの為に作ってきてくれたのだと理解した。
「~~~~~~自分を、痛めつけた、お仕置きです・・・」
「よく出来ました。坊ちゃまを厳しく叱らねばならない辛さはわかるよ。躾の至らなさのせいで坊ちゃまに痛い思いをさせる自分を責めたい気持ちもわかる。だが・・・」
 スフォールドは握っていたモートンの片手を庇うように、彼の体を膝の上に引き寄せた。
「悪い子だ。こんなことはしちゃいけません」
 膝の上に腹ばいにされたモートンは、慌てて顔をねじ上げる。
「ちょっと、スフォールド! お仕置きならばきちんと受けます。自分でお尻を差し出せます!」
「うん、お前は立派な大人だものね。それが小さな子供のようにお膝でお尻ぺんぺんされるなど、自ら差し出したお尻に道具を据えられるより、余程きついお仕置きになるだろう?」
 手早くサスペンダーの留め具が外されたかと思うと、丸出しにされてしまったお尻にモートンは首まで真っ赤になっていた。
「めっ。悪い子だ」
 痛くも痒くもない平手をペチンペチンと振り下ろされて、熱くなるのは顔ばかり。
「ほら、お尻ぺんぺんされる悪い子は、何て言うの? 言わないと、百叩きでは終わってあげないよ」
 要するに、百叩きは決定しているのではないか。
「~~~ごめんなさい。もう、しません」
「本当に、もうしないよ?」
 その口調まで小さな子供に言い聞かせるようにするスフォールドを、モートンが睨んだ。
「い、意地悪」
「・・・意地悪?」
 スフォールドの眉がピクリと震えたのを見て、モートンはギクリと口を覆う。
「いいかね、モートン。これでも相当怒りを抑えているのだよ。~~~頼むから、自分を痛めつけるような真似はしてくれるな。そんな思いをさせる為に、坊ちゃまの守役に任じたのではない」
 モートンはハッとしてねじ上げていた顔を伏せた。
 少し潤んだ師の瞳は、見てはいけないもののような気がして。
 その視線の先には、無意識に握り締めてした氷のうの心地よい冷たさ。
「そんなに、怒ってくださっているのですか? 私の為に、そんなに?」
 黙りこくっているスフォールドに、モートンが小さく口を開いた。
「・・・ごめんなさい。もうしません」
 スフォールドはそれからもう何も言わずにペチペチと平手を下ろし続け、モートンもその言葉を繰り返したのだった。



 スフォールドのベッドに俯せたモートンは、丸出しのままになっている赤いお尻をそろそろとさすって顔をしかめた。
「スフォールド! 後半、頻繁に飛び上がるほど痛いのがありましたけど!?」
「だって私がどれだけ怒っているのか、知りたそうにしていたから」
「言葉でご説明ください~・・・」
「口で言うより身に沁みたろ?」
 モートンの傍らに腰を下ろしていたスフォールドは、立ち上がりざまにピシャリと赤いお尻に平手を落とした。
「ぎゃん!」
「お尻用の氷のうもこさえてきてあげるから、大人しくしておいで」
 ヒラヒラと手を振って部屋を出て行く彼の後ろ姿を眺めながら頬を膨らませていたモートンは、水の度合いが増した片手の氷のうをお尻に乗せた。
「ふう・・・」
 熱々のお尻で氷のうの氷はすぐに溶けてしまうだろうが、どうせあのお小言のことだ。
 手の平用の氷も、一緒に砕いてきてくれるに違いないのだから。






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~ Comment ~

これは!

いつぞやの会話に出てきていた林檎クリケットのお話がまさかここで読めるとは(笑)
モートンの親心、スk…スフォールドの師としての思い何かがひしひしと伝わってきますね。
そしてちゃんと何が悪かったのか、本質的な意味で理解できるアーサーはとっても良い子。
大人になってからの師弟や主従を超えた素敵な関係はこうして培われて来たのだなぁと思うと感慨深いです(*´∇`*)

たびたび失礼します。
クリケットとりんごのお話にこんな続きがあったのですね。
厳しく罰を与えるモートンの心中を垣間見ることができ、モートンの真面目で本当に優しい人柄に惚れなおしました。そして、スフォールドが彼の師で本当によかった。全てを分かり、モートン自身を大切に想ってくれていて。おしおきは相変わらず厳しいですが^^;この師弟関係がとても愛おしいです。

サラさま

はい、作者もどの話だったか覚えていないのですが( ̄▽ ̄;)
どこかで書いたリンゴクリケットのエピソードです。
覚えてくださっていて感謝致します。
最近、登場人物たちの若い頃エピソードにはまっています(;^_^A

コメントありがとうございましたm(_ _)m

ゆっきーさま

少し厳しすぎたかな?と思いつつつけたタイトルでございます。
惚れ直すなどとありがたいお言葉を頂き、感謝致します。
スフォールドは坊ちゃまはもちろん、自分と真逆のタイプの弟子が可愛くて仕方ないみたいですね。

コメントありがとうございましたm(_ _)m
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