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フォスター家【オルガ番外編】

スフォールド学院2

 ←ローランドの道化師2 →俯瞰と仰望の道化師


 スフォールド学院の給食は農耕科の学生が栽培した野菜や穀物を使い、調理科の学生が調理し、それらは陶工科の学生が焼いた皿に盛り付けられて供出される。
 ちなみに、農耕科や陶工科の作業着も調理科のコックコートも、デザイン・型紙、裁断・縫製まで、すべて被服科の学生の手によるものだ。
「近々、材料の買い付けなんかもやらせてあげたいねぇ。座学で原価率を弾くより、身に付くことも多いだろうし」
 クラウンが料理を行儀悪く口に含んだまま言った。
 その様子を元執事であるスフォールドが怪訝な面持ちで眺めやりながら、ワンプレートに盛られた料理の一品である肉料理にナイフを入れる。
「・・・・・・ああ、なるほど、それで。うむ、学院の作付面積では学生や職員すべての食事量は賄えない分を業者から仕入れているのだし、何より目利きの勉強にもなろう」
 道化師と呼ばれ、おふざけを常としてきたクラウンであるが、幼い頃に爺やから躾けられたお行儀は完璧である。
 だから元執事のスフォールドも、車の後部座席で寝そべって足を窓や運転席のシートに置くようなお行儀も、演技と知っているから黙殺してきた。
 そんな彼が道化る必要性のなくなった今現在、食事を頬張ったまま喋るわけがないのだ。
「ね? 思うわけだよ。自分で仕入れた肉や魚なら、もうちょっと愛着ある火加減になるかなぁって」
 食べられないのが当たり前という環境から、食べられることが当たり前の生活をさせてやりたかった。
 だからこそ立ち上げに同意した職業訓練校。
「・・・だな」
「・・・・・・・・・でしょ?」
 噛み砕けずにいた肉をどうにかこうにか飲み込んだクラウンが、咳き込んでナフキンで口を拭う。
「味は良いよ。これは賛美に値するレベル。でもさぁ・・・」
「同感だ。・・・少々お仕置きが必要かな。罰として、夕食抜きにでも・・・」
「・・・スフォールド」
 チラと送られた視線に、スフォールドは苦笑を浮かべた。
 まったく、すっかり立派な老紳士となっても、子犬のような上目遣いに仕草が様になるのだから、この弟君は。
「わかった、わかった。もうあの子達にひもじい思いはさせたくないよな」
 火の入り過ぎで硬くなった肉を再びナイフで切り分けることに挑みながら、スフォールドは吐息を漏らす。
「人という生き物は存外、豊かさに鈍感になるのが早いらしい・・・」



 スラリと背も伸びた十七歳のオブシディアンが、むくれたご面相をぶら下げて厨房の床にモップを掛けている後ろ姿を戸口にもたれて眺めていたファビオは、板に付いた優美な所作で壁をノックした。
「モップが床をこする回数より、手がお尻をさすっている回数の方が多いぞ、オブ」
まるで気配を感じさせなかった彼の発声に、オブシディアンが飛び上がらんばかりに振り返る。
「び、びっくりするだろ! いつからいたんだよ!」
「うん? そうさな、お前がお尻をさするのを、十回は見たかな」
 無意識の仕草であるからそれが何分と換算はできないが、なかなか前からいたであろうことは察することができた。
「~~~悪趣味な野郎だぜ。理不尽なお仕置きを受けた哀れな姿を見物かよ」
「そりゃ、スコールドのお仕置きなんて身震いするほど哀れと思うがね・・・」
 これまた洗練された仕草ですくめられた肩。
「スフォールドが理不尽なお仕置きなんかするはずないだろう」
「出された飯が不味いからお仕置きなんざ、理不尽極まりねぇだろうが! ~~~ぎゃ!」
 今度こそオブシディアンは飛び上がった。
 ピシャリとやられたお尻を両手で覆い、そのまま床に蹲ってしまったオブシディアンと、軽く振っただけの手の平を交互に見遣ったファビオがやれやれと息をつく。
「そういうこと言っているから、そんなにポンポンに腫れるまで引っ叩かれた上に罰掃除までさせられるんだ」
 手の平の感触と熱っぽさで、ズボン越しでも気の毒なお尻の具合が見て取れた。
「スフォールドは本来、そんな可哀想なお尻のまま罰掃除なんてさせないぞ」
 お尻を抱えたまま立ち上がれないでいるオブシディアンの前を横切り、厨房の流し台の手押しポンプで井戸水を汲み上げる。
「・・・うっせー。肉が硬いくらい我慢しろってんだ。食いモンにケチつける贅沢モンの方が悪い」
「ふ~ん?」
 キョロキョロと辺りを見回したファビオは棚にタオルを見つけて数枚を手に取ると、桶に汲んだ水に浸した。
「・・・ちょっと火加減をしくじっただけじゃないか」
「ふーん?」
「元々、安い肉なんだぞ! お貴族様やら上級使用人やらが日頃食ってるみたいな、上等な肉じゃねーんだからよ!」
「ふむふむ」
「ちょっと気を抜くと、すぐに硬くなっちまうんだよ! ・・・・・・あ」
 お尻に当てていた手を慌てて口に回したオブシディアンが、バツ悪そうに床に伏していた顔をファビオに向けた。
 そんな彼を見下ろして一枚のタオルを絞ったファビオは桶を持って歩み寄ると、その傍らに胡座をかいた。
「はい、何でお小言を食ったかわかっているくせに、素直に反省を述べられずに子供のお仕置きまで食らう羽目になった可哀想なお尻を勞ってしんぜよう」
「え。わ。や、やめ・・・。よせバカーーー!」
 床にうつ伏せていた体をヒョイとファビオの膝の上に移されてしまったオブシディアンは、情けない呻き声を上げた。
「ほら、じっとしてないから。暴れると痛いんだろ?」
「やーめーろ~~~・・・」
「早めに冷やしておかないと、長引くぞ」
「掃除終わらせないと、またバシバシやられて、もっと長引かされるだろ!」
「反省できているようなら罰掃除免除の上でお尻を冷やしてやってくれと、スコールドに頼まれてきたんだよ」
 胡座の上で腹這いにされて盛り上がったお尻からズボンを捲られ、オブシディアンが悔しげな唸り声をこぼす。
 決して顔を見せようとしないが、丸出しになったお尻と変わらないくらい真っ赤になっているのは、蒸気している耳を見れば一目瞭然だった。
 絞ったタオルを広げながら、ファビオは宙を仰いだ。
 そりゃまあ、十七にもなって丸々と腫れ上がったお尻を晒されて冷やされるなど、恥ずかしいことこの上ないだろうことはファビオも経験上知っているが、放置して数日も長引く痛みより若干マシなのも知っている。
「もう生徒はみんな寮に帰っていないから、安心おし。ほら、冷たくて気持ちいいだろ?」
「・・・・・・一瞬だけな」
 すっかり熟れきった桃のようなお尻に、濡れタオルなど焼け石に水であろう。やはり、数枚を桶に突っ込んできて正解だった。
 すぐに熱を吸って熱くなるタオルを交換しながら、ファビオは呆れたように肩をすくめる。
「同じ調理当番の班員は、お小言だけで済んだんだろ? 案件初犯でここまでコッテリやられるなんて、何で叱られたかわかっているのなら、つまらない片意地張るものじゃないよ」
「・・・うっせー」
「膝の上でさっきみたいなのを喚いたら、こうなるに決まっているだろ? ちゃんと素直にごめんなさいするの。食べ物の有り難みを失念していました、ごめんなさい。次からは食材の扱いを軽んじたりしません、ごめんなさい」
「あー。うっせー、うっせー、うっせー」
 せっかくタオルが熱を帯びる間隔が空いてきたお尻に、手首を利かせた平手をピシャリ。
「いっっっ・・・てぇ・・・。手当てになってない!」
「誰が悪いの?」
「・・・おめぇがスコールドのレプリカみたいなお小言垂れ流すからだ」
「さて、もう何発か・・・」
「はいはい、ごめんなさい。オイラが悪ぅございました。これで満足か?」
「・・・・・・・・・」
 胡座の中央にあったオブシディアンの腰にそっと手が添えられ、お尻に乗っていたタオルが外された。



「おや、よく眠ってらっしゃいますね」
 遊び疲れて校長室のソファでスヤスヤと寝息を立てる孫の掛布をそっとかけ直したお付の従僕殿の手の平を見遣り、クラウンが大袈裟に小首を傾げた。
「ありゃ? ありゃりゃ? 右の手の平、真っ赤っか」
 その声に執務机で書類作成に勤しんでいたスフォールドが顔を上げる。
「ファビオ、私はオブのお尻の手当てを頼んだはずなのだが・・・」
「はい、しましたよ? けど、あいつが挑発するようなことばかり言うから」
 赤い右手をヒラヒラと冷ますように振って、ファビオが鼻を鳴らした。
「そう。困ったものだね」
「まったくです」
「いや、お前が」
 呆れたようにペンを置いたスフォールドは、ブロッターを紙面で揺らしながら肩をすくめた。
「挑発だとわかっていて、乗るんじゃないよ、お前は」
「いえ、乗った訳では・・・。あくまでもお仕置きの範疇ですよ」
「そう? モートンなら、あのお尻に追い打ちを掛けることなどしないと思うけれど。罰掃除の再開は命じただろうがね」
 ブロッターを掛け終えた用紙を書類箱に避け、スフォールドは便箋を手元に引き寄せた。
「おいで。手、見せてごらん」
 おずおずとスフォールドの執務机の前に進んだファビオが、更におずおずとヒリつく右手を差し出す。
 赤く染まったその手の平をしげしげと見つめたスフォールドは、少し腫れている指の付け根をつついた。
「この手の平の具合からすると、三十はぶったね」
 ご名答。
「~~~だって。あいつがちっとも謝らないの、ご存知でしょう?」
 スフォールドは何も答えずに再びペンを取ると、サラサラと紙面にペン先を走らせた。そうして、それにもブロッターを掛けて折りたたみ、所在無さげなファビオに差し出す。
「モートンにお使いを頼む」
「え・・・。あの、何て書いて・・・」
 滑るペン先が起こした文章は、ひどく短なものだったのだけはわかる。
「小姓時代に手紙の内容をいちいち確認するようなことをしていたかね?」
「は、運ぶだけですけれど・・・」
「なら、そうしたまえ」
 託された手紙を携えて渋々と校長室を出て行くファビオの一礼を見送って、クラウンが頭を掻いた。
「で? 何て書いたのさ」
「判断を任せる、と書いた」
「それだけ?」
「それだけ」
 愛弟子がそれだけ読めば、手紙を差し出したファビオの顔色から察して何があったか問うことなど容易に想像がつくと、スフォールドは言った。
「私がわざわざお尻を冷やしに人をやるなど、余程きつくお仕置きを据えたのだとモートンならわかるだろう。そのお尻を更にぶったのが、果たしてファビオの言うところのお仕置きの範疇かどうか、判断するだろうさ。・・・いや」
 頬を掻いて、スフォールドは天井を仰いだ。
「あいつはファビオに自ら判断を委ねるだろうなぁ。きっとこう言うんだ。なるほど、自分が振った手の平が決して怒りに任せたものでないと胸を張れるなら、スフォールドの前に戻りなさい、とね」
「胸を張れない場合は、今度はファビオがお膝の上かい」
「いいや。モートンはすべてファビオに委ねるさ。あの静かな眼差しで、こう言うだろう。そこに立ち尽くしているということは、そういうことと捉えて良いかね? そしてこうだ。あのスコールドにきつく据えられたお尻に、感情任せの三十は平手でもさぞや痛かったことだろうね」
 弟子の身振りを真似て、スフォールドが続ける。
「今のお前のお尻に私が平手を三十据えたとして、十分な反省ができると思えるのならば、ここに両手をついて、お尻を出しなさい」
「・・・あのぉ。なんか、聞いている僕までお尻がムズムズしてくるのだけれど」
 堪りかねてお尻をさすり始めたクラウンに、スフォールドが弟子の特徴をよく捉えた咳払いの真似をして聞かせる。
「スコールドのきついお仕置きの後に怒りの平手三十の気持ちを知りたければ、あそこにあるよ」
「あるよって・・・いや、何がとかは言わずもがなだから聞かないけどさ。モートンって、ハムラビ法典型だっけ?」
 ようやく物真似の仕草をやめたスフォールドが、肩をすくめた。
「まさか。ファビオはきちんと反省出来る子だもの。怖々ながらもケインなり教鞭なり携えて自らお尻を剥いて差し出すのを見て、モートンはあのとびきり優しい笑顔を浮かべる」
「あー、そうだろうねぇ。で、手渡されたお道具を脇に置いて・・・」
「うん。差し出されたお尻に平手を据えるヤツだよ、あいつは。・・・まあ、きっちり三十はやられるだろうがな」
 椅子から立ち上がったスフォールドは、フォスター家の方角を窓から眺めやった。
「やれやれ。ファビオもなかなかに成長したと思ったから、手当て係に向かわせたのに。孫には見る目が甘いな、私も」
「いやいや。見る目はそうかもだけれど、お仕置きが厳しいからね? あの手紙をモートンの所まで届ける道中からして、結構きっついお仕置きになっているからね? お前があの場でピシャリとやれば済んだのじゃないの?」
 些か憐憫の色味を含んだ声のクラウンを振り返り、スフォールドが頭を掻いた。
「あの子はモートンの弟子だから。それに、彼に任せておけば間違いないもの」
「・・・えーと? そのモートンの師匠はだぁれ?」
「私だが?」
 道化師には珍しい呆れ果てたような視線が、スフォールドに投げかけられる。
「世の中ではそれを、自画自賛と言います」
「・・・・・・あ」
 顔を見合わせて大きな笑い声を上げた二人は、抗議めいたアーティの呻き声に慌てて口を手で塞いだのだった。



「十五。・・・・・・十六。・・・十七。・・・・・・十八」
 次の打擲を予測させない疎らな間合いで据えられる平手まで、スフォールドは予測していただろうか。
 無論だ。
 この間合いを読ませない打擲法は、スフォールドからのお仕置きで覚えたものなのだから。
「お尻、逃げない。腰に手を添えて欲しいのかね?」
 ブンブンと首を横に振ったファビオの仕草は腹を括った証ではなく、単に押さえられてのお仕置きとなったら、一から仕切り直されるからというだけである。
 これもまた、スフォールド仕込みのお仕置き法。
「・・・十九。・・・・・・二十、二十一」
「~~~ぅぅ・・・」
「ファビオ、声。二十二、二十三、二十四」
「~! ~! ~!」
 どうにか声を堪えたファビオだが、逃げるなと言ったお尻がまたうねり始めたのを見下ろして苦笑のモートン。
「よろしい。そろそろ声を出すのを許可しよう。つまり、どういうこと?」
「~~~ごめんなさい! もう感情任せでぶったりしません! 前も同じことを約束したのに、破ってごめんなさい! オブに可哀想なことをしました、ごめんなさい! でも僕も巻き込み事故的な感じで結構可哀想なんですが! ぎゃん!」
 不意打ちで振られた教鞭に、ファビオはお尻を押さえて机に乗せていた上半身を跳ね上げて、そのまま床に転がった。
「お前ね。オブが素直に反省しないからお仕置きしたのだとか、言ってなかったかい?」
「そうですけど~~~。だって、そもそもは執行人のスコ、スフォールドが行けば良い手当て係を、僕にやらせるからぁ・・・」
「さて。お尻をしまいまさい。素肌のお尻に教鞭を三十も振るい直すのは、さすがに気が引ける」
「ぃ。いやぁあーーー! 僕が挑発に乗った浅はかさをお仕置きされていますーーー! わかっていますーーー!」
 既に背丈も自分と変わらないくらいまでになった弟子の、丸出しの赤いお尻を必死で庇って丸まる情けない姿を見下ろして額を押さえたモートンは、教鞭でピシャピシャと机上を打った。
「なれば平手に戻してやろう。はい、お尻を出したまま、戻る」
「・・・・・・一からとか、言いませんよね?」
「・・・・・・三秒以内に戻ればね」
 数えるまでもなく手近に戻ってきた赤いお尻に、モートンは苦笑を深めて手早く残りの六つを振るうと、火照る手でうなじを撫でた。
「はい、おしまい」
 さて。託された裁きは、きっとこれで正解だろう。
 と言うか・・・。
「ふむ。全部お見通しの気がして、些か癪、かな?」
 まあ、スフォールドの思うところの正解を見抜いたのだから。
「お相子」
 モートンはそう負け惜しみめいて呟いた。








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~ Comment ~

かわいい(*´˘`*)♡

可愛すぎて人目もはばからず悶えましたありがとうございます(笑)
オブはあいも変わらずお馬鹿さんですね…いえ、以前の話からするに基本の学業はそれなりに優秀だと…信じてるんですが言動がwww
きっとファビオも成長はしてるんでしょうが師匠とそのまた師匠から見たらまだまだ!なんですね(笑)
必死の言い訳と「ごめんなさい」が可愛すぎです♡巻き込み事故的な感じだったのが可哀想なようなけしからんもっとヤれ!のような…(鬼)笑笑
モートンもこういう話だと「弟子」としての側面が表れますよね!不覚にも年上男性に萌えてしまうという…(笑)
今回もすっっっごく楽しませてもらいました!今までで一番お気に入りかも(笑)こういう執事sの話もっと増えたら嬉しいです♡
更新ありがとうございました!
また次回のお話も楽しみにしています☆

サラさま

読んでくださってありがとうございますv
いつもながら、お返事遅くて申し訳ありません(^^;


ファビオも大人になったとは言え、師匠sからしてみれば半人前。
フォスター伯爵家嫡子の守役ではありますが、まだまだ彼も育てられ中ですね。

お気に召して頂けたなら何よりvv
コメントありがとうございましたm(_ _)m
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