フォスター家【オルガ番外編】

伯爵様と執事の手紙

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モートンへ
 やあ、君に私信を書くなど初めてで、些か緊張してしまうよ。
 人生初の休暇を楽しんでいるかね?
 考えてみれば、君は物心ついた頃からずっと働いていたのだよね。
 それなのに、新婚旅行にまで同行して欲しいとわがままを言ったことを、今更ながら恥ずかしく思っているよ。
 何と言うか、私の傍に君が居てくれるのが当たり前と思っている自分がいて、頼りにするのと、ただ甘える気持ちを混同してしまっていた。

 
 きっと君は、私がきちんと紳士としてヴィクトリアをエスコートできているか、心配してくれているだろう。
 だから、この手紙を書く事にした。
 領地では城の使用人たちのお陰で、快適に過ごせたよ。
 城内を領民に開放しての披露宴は、大変賑やかで楽しい宴だった。
 城下町も出店まで出て、たくさんの人がやってきてくれたよ。
 パレードは気恥しかったけれど、途中でヴィクトリアが馬車を降りて、領民と一緒に歌ったり踊ったりしてくれて、皆大喜びだった。
 ヴィクトリアはすっかり領民の人気者だよ。
 私はとても素晴らしい女性を見初めたと自負している。
 君もそう思うなら、褒めておくれ。
 
 私と妻は旅程通り、明日の朝に領地を発ち、新婚旅行先の国のホテルに到着予定だ。

 追伸。
 休暇中であるのに、このようなことを聞いたら怒られるだろうか?
 ヴォルフが心配だ。
 もし良ければ、様子を知りたい。



 旦那様へ
 初めてのお手紙、とても嬉しく拝見致しました。
 つつがなくお過しのようで、何よりでございます。
 ご逗留先にて手配しておりました雇いの使用人に、ご不満はございませんでしょうか?

 同世代の貴族様が次々とご結婚なさる中、いつまでも婚約者をお決めにならない旦那様に、大層やきもきと致しましたが、ご自身で相応しい奥方様をフォスター家にお連れになったこと、誠に嬉しく思っておりまする。
 本当に心配でございました。
 あなた様は生真面目過ぎるきらいがあり、貴族の姫君方に仰らなくても良いことを平気で言葉にしてしまうのですから・・・。
 ドレスを選ぶ暇を、少しでも民草の生活を思う時間にあててみてはどうかなどと、姫君が喜ぶ言葉ではございませんでしょう。
 仰りたいこともわかりますし、間違ってもおらぬとは重々承知しておりますが・・・。
 ああ。申し訳ございません。つい、今までの心痛が。
 
 褒めてというご要望でしたので、敢えて。
 よく出来ました。お利口です・・・と、書いておきましょうね。
 
 セドリック様のことにございますが。
 旦那様がお発ちになってまだ一週間程ですので、さすがに穏やかにお過ごしでいらっしゃいますよ。
 ファビオのお世話にもご満足のご様子。
 大旦那様もローランド公爵邸にお引越しを済ませたとは思えない程、毎日のようにおいでになって、セドリック様の遊び相手をなさってくださっておりますよ。
 今のところ、旦那様が危惧される事態は起こっておらず、お屋敷は平穏でございます。
 ですから、どうぞ、奥方様とのお時間を大切にお過ごしください。

 追伸。
 旅先は甘味の名物が多い国と聞き及んでおります。
 私の目がないからと、甘いお菓子ばかり召し上がったり、歯磨きの手を抜いたりなさいませぬように。



モートンへ
 君は手紙でまで口うるさいね。
 独身時代の愚痴を、新婚旅行先の手紙で読まされるとは思わなかったよ。
 後、君がうるさく言わなくてもね、レディの前で、甘い物を心行くまで食せるわけないではないか。
 ただでさえ私はヴィクトリアの五つも年少で、子供っぽく思われないよう、結構必死なのだからな。
 だから、心配せんで良い!

 今日は旅先の名所を二人で色々巡ったよ。
 名物を色々食したが、どれも大変美味であった。
 中でも我が国にはないオムレットが絶品だった。
 色とりどりの野菜がたっぷり入っていて、卵がスポンジのようにふわふわで、砂糖は使用していないのにとても甘い。
 甘くても、これなら文句無かろう?

 ねえ、モートン。素朴な疑問なのだが。
 私は執事として務める君しか記憶にない。
 休暇中の君は、一体何をして過ごしているのだね?
 ああ、これはあくまでも興味本位の質問であって、答える義務は生じないのだけど。
 何を書いているのだろうね、私は。
 自分でも少し呆れたよ。
 
 今回はせっかくなので絵葉書にしようとしたのだけど、文章がまとまらないので、結局、便箋にした。
 絵葉書は同封にしておくよ。
 どう、美しいところだろう? 
 公務でなくただの観光客として、この絵葉書の景色の中を妻と二人で歩いて、取り留めのない会話をしながら過ごす時間は、とても贅沢で幸せな気持ちだよ。
 
 さて、この手紙が着く頃には二週間を過ぎるけれど、ヴォルフはどう? いい子にしているかい?



旦那様へ
 楽しくお過ごしのようで、嬉しゅうございます。
 私めごときの休暇の日常をわざわざお知らせするのも憚られるのでございますが、ご所望とあらば、いくらでも。
 と、申しますか、気にしてくだすって、嬉しく思います。

 旦那様が新婚旅行に発たれてから、私はずっと私服で過ごしております。
 髪もセットしないままですので、スフォールドが「若造の頃を思い出すな」と言って、よく笑います。
 失礼な男です、まったく。
 お屋敷におりますと、何かしら仕事をしたくなってしまうので、街のあちこちを散歩などしております。
 ふと気付けば、その道程は昔、お小さかった旦那様とお散歩に出掛けた道で。
 あなた様のお傍にいないこの身が物寂しい気持ちであると、改めて思う日々にございます。

 さて、セドリック様でございますが・・・。
 先日より大旦那様がご公務で外遊にお出掛けになられたもので、おやんちゃが始まった模様。
 お食事にひとしきり不満を並べて、作り直せと駄々をこねておられます。
 ただ、ご心配には及びません。
 ファビオの年下兄貴振りは健在で、防波堤となり、他の使用人には実害はございません。
 愉快だったのが、ファビオの諌め方。
「わがままばかり言うと、僕の勉強を見させてあげませんよ」
 こんな奇妙な叱り文句を初めて聞きましたが、効果てきめんでございましたよ。
 まだ子供ですので、彼自身も時折仕出かしはしますが、心根の優しい良い子です。
 ファビオを小姓に迎え入れてくださった旦那様に、まことに感謝致しておりまする。
 お世継ぎの守役に相応しい青年に育ってくれると思うのですが、ファビオが自分以外の方に添うと、セドリック様がヤキモチを妬かれるのではないかと、心配です。

 旦那様、今、気が早いとお笑いになられましたね?
 主やお家のことに先々まで心を配るのも、家令の役目なのでございますよ。
 
 それでは、お風邪など召されませぬように。



モートンへ
 今日は生憎の雨模様なので、ホテルでのんびりしている。
 こちらは我が国より緯度が低いので、春先の雨でも暖炉がいらないくらい暖かいよ。

 ところで、君の私服姿とは、実に興味深いね。
 時々思うよ。
 私は父上とスコールドのように、友人のような気さくな関係性を築けていていない。
 ただただ君に甘えてばかりで、保護者のような位置付けを押し付けて、気を抜く間もなかったのではないかと・・・。
 
 私は、きっとこれからも君に甘えてしまうと思うし・・・。

 こんなことを君に伝えるのは何なのだが、もう君から叱られることはないということが、妙に不安なのだ。
 もう君に子供として扱ってもらえない、本当に一人前の大人としてしか振る舞えないのだと考えると、本当にきちんとフォスター家当主としてやっていけるのか、怖くて。
 
 勘違いしてくれるなよ!?
 別に、決して、お尻叩きのお仕置きありきの日常を望んでいるわけではないぞ。
 ただ・・・君が、一執事となってしまうのが、怖い。
 フォスター伯爵の、補佐でしかなくなってしまうのが、無性に、怖い。

 父やスコールドに倣い、友人のような人間関係を構築する努力をすべきだったのではないかと、後悔すら感じる。

 私のような甘えん坊が、果たして、寄る辺なしにフォスター家を守っていけるのだろうか?
 情けない当主ですまない。



旦那様へ
 旦那様は、モートンを軽んじておいでですか?
 旅先からのお便りを心待ちにするほど嬉しく思っておりましたのに、先のお手紙に、心の底からガッカリ致しました。

 奥方をお迎えになり、名実共にフォスター伯爵家を背負って立つお立場となられ、お感じになる不安は致し方ございませんでしょう。

 それは大目に見るとして、一執事? 補佐でしかない? 寄る辺がない?
 どの口がそれをおっしゃいますか!
 それこそ、情けないの一言。

 お父上様やスフォールドに倣った、友人のような関係?
 大概になさいませ!
 お二方はお二方なりの関係性を構築してこられた。
 では、私共は?

 あのお二方には成し得ない絆を築いてきたと、モートンは思っておりました!

 もう、一執事などにお手紙は結構!



モートンへ
 なあ、モートン・・・。



モートンへ
 悪かった。



モートンへ
 ごめん。



モートンへ
 ごめんってば。
 何か言っておくれ。



モートンへ
 結婚を期に、お尻叩きのお仕置きは卒業と言うのは、父とスコールドとの取り決めごとだから・・・。
 嫌だけど。
 新婚旅行から帰った夜、屋根裏部屋で待っている。
 私とお前だけの決め事として、それが、最後。
 ・・・最後だからな。
 最後だからな!
 ・・・・・・一執事とか、補佐とか、関係性の構築に後悔とか、ひどいことを言ったこと、お前の膝の上で、子供みたいに、泣いて、謝りたいと思っている。
 嫌だけど!
 最後の。
 本当に、これで、最後だ!



 懸命に書き綴った手紙にも、返信は来なかった。
 旅行から帰り、それを出迎えたモートンは、まさしく一執事として儀礼を尽くすばかり。
 その日の内に、誰にも気付かれないようにこっそりと屋根裏部屋までやってきたフォスターは、蔦模様のオットマンに腰を下ろして大きな溜息をついた瞬間、軋んだドアノブの音に首を竦めた。
 と、同時に、心の底からホッとする自分に気付く。
 モートンがここへやって来るのが、どうしようもなく嫌だったのに、反して、来てくれたことが嬉しい自分がいる。
「・・・申し上げておきますが、一執事はお尻ぺんぺんのお仕置きなど致しませんよ」
「~~~わかってるよ! ・・・お前は、私の、育ての親だ・・・」
「・・・お分かりであれば、その席をお譲り頂けますか? 本当の最後の、お仕置きの時間でございます」
 手の平に息を吹きかけるモートンに、フォスターは考えただけでヒリヒリしてきたお尻をさすりながら、彼に子供さながらの上目遣いを向けたのであった。




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~ Comment ~

久しぶりにコメントさせて頂きます!
やっぱりアーサーとモートンのコンビは最高ですね!大好きです( ^ω^ )
また2人のお話、楽しみにしてます!

Re: タイトルなし

空さま>

お久しぶりです(^^)
コメントありがとうございます。

喜んでいただけたなら何よりです(^^ゞ
思い出話的アーサー&モートンが書けましたらば、またよろしくお付き合いくださいませv

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