マイスター

マイスターMIX 【ラ・ヴィアン・ローズ × マイスター】

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「選―すぐる―くん、マイスターは居るかしら」
 鞭職人マイスターの工房直通エレベーターから優雅な歩調で降りた美人は、マイスターの友達兼お得意様で……。
「胡蝶―こちょう―、久しぶりだな」
 アトリエから顔を覗かせてマイスターが言った。
「どうだ、店は順調か?」
「お蔭様で。うちの坊や達は粒揃いですからね」
 ちなみに胡蝶姐さんは、秋頃にホストクラブをオープンさせたばかり。まだ二十代の半ばだってのに、すっごいやり手だよ。
「マイスターこそ、忙しい? 仕事をお願いしたいのだけど」
「ああ、ちょうど試打も済んで手が空いたばかりだ。どういうのがお望みかね」
 応接室で発注鞭の細かい打ち合わせを始めた二人に、コーヒーを運ぶ。
 胡蝶姐さんは自分とこのホスト達の仕置用鞭の依頼に来たらしいんだけど……。
 ううむ、怖い会話だ。
 胡蝶姐さんトコのホストに合掌。


 ひえぇぇ、ケインだ。
 完成間近のそれを見て、俺は思わず尻を擦った。
 いつものより少し太くて、強力そうだわ、こりゃ。ホストたちも気の毒だけど、試打役もかなりきつそう。女の子じゃ可哀相だよな。うん、今回の試打役は男のがいいかも。
「選、奥へ入れ」
 ……はい?
「奥って…」
「試打室に決まっているだろう。さっさとしろ」
 そう言うとマイスターはケインを手に取り、素振りで軽く空を切った。
「ま、ま、待ったーーー!!  何故に俺?!」
「これが男用に作ったからだ」
 あうう、完全職人モード。情け容赦の欠片もないお言葉…。
「そんな手近で済ませるなよッ。それじゃ男用だといっつも俺が試打役になっちまうじゃん!」
「選役になって半年も経ってない上、男のお前に男の試打役が連れてこられるのか」
 俺が選役になる前は、あの胡蝶姐さんが選役を引き受けていたらしい。そりゃ男もホイホイついてくるよな。
「で、できるさ」
「……なら、今日一日だけ待ってやろう」
「け。一日もいらねぇよ。半日だ!」
「ほう、大きく出たな。よかろう、大口叩いた結果を楽しみにしてるぞ」
 ニヤリと笑ったマイスターに、直通エレベーターに乗った俺は鼻を鳴らして見せた。


 勇んで飛び出してきたものの……、やっぱり男の俺が男の試打役連れてくのって、やっぱり難しいかも。
 夜遊び中の学生やら、タバコふかしてる明らかに未成年やらに声はかけてみたけど、うまい誘い文句が思い浮かばず、言葉に詰まってる内に逃げられちまう始末。
 ううう、どうしよう。このままだと、あのケインの試打役決定???
 ……いぃぃぃぃやあぁぁだぁぁぁぁぁぁ!!! しかし無情に時は刻まれて、そろそろ半日経とうとしてる。
 あああ、もう無理。絶対無理。マイスターにやっぱり一日にしてくれって頼もうかな…。
 そんな弱気でトボトボとマイスターのビルまで歩いていると、向こうからすごい勢いで長髪の少年が走ってきた。
 後ろを度々振り返る仕草は、明らかに誰かに追われてる。
 もしやもしや、チャンス到来?! もうビルの真ん前だし、このまま直通エレベーターに引きずり込めば、ギリ半日セーフじゃん!! 俺はビルの入り口で待ち伏せて、少年が前を通過しようとした瞬間に、グイと腕を引っ張った。
「こっちだ」
 目を丸くした少年は、俺がエレベーターを指差すと一瞬躊躇はしたものの、背後から迫る追跡者の方が気になるらしく、俺についてエレベーターに飛び乗った。
 よっしゃあぁぁぁぁぁ!! 試打役ゲットッッッ。
「助かった、礼は言う。だが、こんな直通エレベーターにあたしを誘い込むなんざ、何を企んでる?」
 少年はエレベーターのパネルを顎で示して言った……ん? 今…「あたし」って、言わなかったか???
 髪は長い。けど、どう見たって男だよな。物凄い美少年だけど目つきが鋭くて、仕草もかなり……。
「えー…と? つかぬことをうかがいますが、君……男の子、だよねぇ?」
 うわッッ。いきなり蹴りをいれやがった。とっさに避けたけど、なんちゅう乱暴なヤツだ。
「その目は飾りモンか。あたしのどこが男だ」
 どこがって、すべて。……え゛ッ。
「女の子なの~~~~?!」
 ああああ、やっちまった。もうタイムオーバー。しかも男でない以上、試打役に使えない子をエレベーターに乗せちまって……。
 最悪だ…。試打どころか、これでこってりマイスターに絞られるうぅぅぅぅぅ。
 しゃがみこんで頭を抱えていると、エレベーターのドアが開いた。
 そこには待ち構えていたマイスターが、俺の様子と少年風貌の彼女を交互に見て、やれやれとため息をついた。
「未熟者」
 うッ。反論できん……。


「選の勘違いで迷惑をかけたな。お嬢さん、下までお送りしよう」
 工房の壁に居並ぶ鞭の数々を興味深げに眺めて歩いていた黒髪の彼女は、振り返ってニヤリとした。
「これ、あんたの作品かい。装飾なく極めてシンプル。だが、実用性から見れば、芸術的ですらある」
 ……この工房に来て、こんな余裕発言する子、初めて見た。
 彼女は一本鞭を手に取ると、やおら柱にそれを振るった。
「生かさず殺さず、だな。このしなり…、痛みはそれなりに与え、かつ素肌であろうと傷はつくまい。長丁場にももってこいだ。なかなかどうして、鬼畜な仕事でいらっしゃる」
「……お褒めいただき光栄だ。お嬢さん、何者かね」
「さあ? 記憶喪失中なんで、自分でも何者か定かじゃなくてね」
 苦笑めいた彼女の様子で、それが冗談でも嘘でもないのがわかった。
「ところで、こいつぁ明らかに秘密工房ってカンジだねぇ」
 いきなり悪戯っぽく笑みを浮かべた彼女。あ、こうして笑うと子供っぽくて可愛いかも。
「取引しようか。他言無用にしておく代わりに、ここを緊急避難場所に提供してよ。立地的に逃げ込むのに都合いいんだ」
 マイスターの鼻にしわが寄った。
「何から逃げるか知らんが、仕置用の鞭工房にそんな手合いを招きいれられると思うか」
 セリフは彼女に。視線は俺に…。うう、悪かったよぉ。
「ふぅん? 商談決裂して困るのは、あんたの方だと思うがね」
「ここが知れたら、場所を変えるまでだ。さほど困りはしないさ」
 彼女が肩をすくめた時、エレベーターが可動して、胡蝶姐さんが姿を現した。
「あら、取り込み中? ……朱煌-あきら-ちゃんじゃないの」
 え? 何? この子、胡蝶姐さんの知り合いな訳?
「よ、オーナー」
「よ、オーナーじゃないわよ。よくもこの私を謀ってくれたわね」
 少々お怒りモードの口調で、胡蝶姐さんは朱煌という名らしい彼女を睨んだ。
「謀る? あたしが女だって知ってて採用したんじゃないか」
「年齢! 何が二十歳よッ。十六歳だそうじゃない!」
 え゛。嘘。この落ち着きっぷりが、十六歳?!
「ありゃ。なんで知ってるの」
「新藤-しんどう-さんに聞いたのよッ」
 あれ。今までの余裕綽々の態度はどこへやら。
 朱煌は明らかに狼狽して、顔色なんか真っ青になった。
「な……なんで新藤?! 胡蝶さん、あいつを知ってるの?!」
「知ってますとも。彼は大学時代の恋人ですもの」
「そ…、そんなの反則だ~~~~!!」
 嘘みたい。今にも泣きそうだぜ、朱煌って子。その新藤とやらが、よっぽど苦手なんだな。
「胡蝶さん、あたしがホストのバイトしてるの、しゃべっちゃったの?!」
「もちろん」
「勘弁してよッ。あのままならせいぜいホストクラブで夜遊びしてたって誤魔化せたのに!」
 いや、十六歳ならそれでも十分いけないと思います。
「はい、観念なさい。彼、店にまだいるから」
「いるから何?!」
「おしおきよ、決まってるでしょ。その為に、ここに発注したケインを取りにきたの」
「あんな危険人物にそんな危険な物を持たせる気?!」
「自業自得でしょ」
 優雅に髪をかき上げて、無情なお言葉。
「胡蝶、とりあえずその子だけ連れてってくれ。ケインは試打が今からなんだ。済み次第、選に届けさせるから」
 ぎゃあッッッ。無情な鬼畜がここにもひとり!!
「じゃ、お願い。ほら、早くいらっしゃい」
「いやいやいやいやいやいやーーーーーッッッ」
子供のように駄々をこねる朱煌の腕を引っ張ってエレベーターに押し込んだ胡蝶姐さん。
エレベーターが閉じると、俺は恐る恐るマイスターを振り返った。
「さて。わかってるよな、選くん」
 マイスター……、その微笑みが怖いっす……。


「うぁっ…痛ッ……ひいぃッ、や、も、勘弁…して……痛いぃぃぃぃ!!」
 四つん這いでむき出しにされた尻に据えられるケインのしなり。
 ず、る、い…。わざと一打一打間隔を時間かけてるぅ。
「自分の未熟さを思い知ったか。男と女の区別もつかず、工房に簡単に人を入れ、選役として恥を知れ、恥を」
「反省してるよおぉ、痛い! ひっ……も、ダメ……ごめ、ん、ごめんなさい!」
「まったく」
 マイスターはケインを引くと、一旦試打室を出て行った。
 痛い…、お尻が熱い…。四つん這いを崩してベッドにうつ伏せに倒れこむ。
 あ。いきなりひんやり。気持ちいい……。見るとマイスターが濡れタオルをお尻にかけてくれていた。
「ま、その尻で配達は可哀相だしな。胡蝶のところへは俺が行くよ」
 ちくしょう。こういう優しいトコあるから、憎めないんだよなぁ、この人。
「……ま、あれが男だったら、試打役として完璧だった。見る目はあるから、精進するんだな」
 そういうと、マイスターは立ち去る前にピシャンと平手でタオル越しの尻を叩いていった。
 痛いっての。……でもまあ、褒められたの、かな?
 エレベーターが動く音。
 ああ、マイスター出かけたなぁ。
 お尻が冷たくて気持ちいい。泣き喚いて疲れたから、なんか眠気が……。
 あの朱煌って子、これからあれで泣かされるんだな。
 とりあえず眠る前に、あの子の為に合掌しておいたのだった。
                          







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~ Comment ~

はじめまして(*^^*)

童さんの小説をイロイロ読みました。なかでもこの「マイスター」の話がお気に入りです(^O^) 私にもマイスターにしっかりと反省出来るパドルを作ってもらいたいなぁ!(笑) 選クンに選ばれても良いかも(笑)この頃反省する事が多くって、、、

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