マイスター

お披露目

 ←開花 →マイスターMIX  【ラ・ヴィアン・ローズ × マイスター】

「パーティー?」
 勅使河原が持ってきた招待状を受け取って、俺は仰々しい蝋封に鼻白んだ。
「新年に毎年な。マイスターの鞭愛好者の集いみたいなもんだ」
 うわ。これでもかってくらい、怪しい集まりだ・・・。
 公開鞭打ちショーでもやったりして。
「言っとくが、公開鞭打ちショーなんてやらないぞ。そんな面白半分に鞭で遊ぶような輩に、あのマイスターが自作を卸すものか」
 う。
「人の思考を読むな!」
「小菊ちゃんがわかりやす過ぎるんだよ」
「小菊ちゃんて言うなーーー!!」
 喚いていたら、作業台と一体化してたマイスターに、ジロリと睨まれた。
 わかったよ、仕事の邪魔するなってんでしょ。悪いのは勅使河原なのに・・・。
「マイスター、休憩しないか」
 勅使河原が声をかける。
 フン。鞭作りに没頭してるマイスターには、無駄な誘いさ。
「・・・ああ。集中力も途切れたしな、選、コーヒーを頼む」
 勝ち誇ったような勅使河原の視線・・・。ム~カ~つ~くーーーー!!



「毎年、ご苦労なことだな。しかも今日! 前もって言えよ」
 コーヒー片手に招待状を開いたマイスターは、さもウンザリしたように肩をすくめた。
「前もって言うと、逃げ口実を作るからな、お前は。必ず来いよ。特別ゲストのお前が欠席じゃ、話にならん。パートナーには胡蝶を頼んであるから、無理に社交的にすることもないしな」
 ああ、華があって弁も立つ胡蝶姐さんとなら、寡黙なマイスターのフォローにピッタリ・・・って、アレ?
「勅使河原、俺は?」
 キョトンとした勅使河原は、俺をマジマジ眺めてから・・・くッ、鼻で笑いやがった。
「お呼びじゃないよ。お子様はお留守番」
「なんだよッ、俺はれっきとしたマイスターのアシスタントだぞ! しかもプライベートじゃナニのパートナーだ! どうだ、参ったか!」
 傍らでコーヒーを吹き出しそうになってるマイスター。
「そういうことを、パーティーの席上で言い出しそうだから、連れて行きたくないんだよ」
「んだよッ、どうせろくでもなく怪しい集まりじゃないか」
「小菊ちゃん!」
 珍しく慌てた素振りの勅使河原。なんだよ、一体・・・。
「・・・選くん、私の鞭を愛好する彼らは、ろくでもなく怪しいのかね・・・」
・・・ああッッッ、マイスターの顔が、職人モードに~~~!!
「ち、違う! 違います! 言葉のあやです~~~~!!」
「仮にも鞭職人たる私のアシスタントが、そんな思いだとはな」
 まずいーーー! これはどう考えてもお仕置き決定。試打室直行~~~。
ゆらりと立ち上がったマイスターは、スッと工房直通エレベーターを指差した。
 ・・・? 試打室でなく、エレベーター?
「そんな心根のアシスタントには、お仕置きも無用だ。出て行け」
「・・・え」
「・・・二度も、言わせるな・・・」
 厳しいマイスターの顔。
 俺はマイスターの鞭で打たれている時より、頭の中が真っ白になった・・・・・・。



 街中を彷徨う。
 家ならあるんだ。両親のそろった家。
 でも、俺が帰りたい場所は、たったひとつきり。
 ――――マイスター・・・。
 本名も知らない、年齢だって知らない。でも、それが俺の帰る場所だって、ずっと思ってたのに・・・。
「・・・のに、えらくアッサリ捨ててくれるじゃないか! どうせ俺は鞭には敵いませんよッ、マイスターの浮気者~~~~!!!」
 この場合、浮気相手は鞭だ! 張り合う相手が鞭って・・・なんか切ない。
「・・・頼むから、公衆の面前で喚くな。声がかけにくい・・・」
 振り返ると、いけ好かない高級車から、いけ好かない顔を覗かせていたのは、勅使河原だった。
「乗れ」
「け」
「マイスターのことだ」
 俺は助手席の人になった。
「いいねえ、一直線で」
 クスクスと俺を見つめる勅使河原。
「んだ!? 馬鹿にしにきたなら降りるぜ」
「今日はボランティアの、愛のキューピットさ」
 言ってみて気持ち悪かったらしい。勅使河原は視線を宙に泳がせて、ネクタイを緩めた。
「・・・あいつは別に、怒りに任せてお前を追い出した訳じゃない」
「・・・・・・」
「前々から、あいつなりに気にしていたんだ。お前はまだ17だし、マイスターのように鞭職人を目指してるでもなく、俺や胡蝶のように鞭を扱う側の人間でもない。このまま自分の傍に置いていいものか・・・とな」
 俺の顔色をうかがうように一旦言葉を切った勅使河原は、俺が黙ったままなので話を続けた。
「そこへ、今回のパーティーだ。おそらくお前の話題で持ちきりになるだろう。マイスターが俺と胡蝶以外をアシスタントに置いたってのは、マイスターファンの間じゃ、ちょっとした噂だからな」
 マイスターファン!? ・・・そういやマイスターって、その道の有名人なんだっけ。
 俺にとっては鞭作りとなると食事どころか寝るのも忘れる、ダメダメ成人でしかないんだけど。
「今日のパーティーでお前の存在が明確になる前に、社会に帰そうってのが本音だろうな。鞭作り以外は、とんと不器用な男だからな・・・って、小菊ちゃん!?」
 いきなり覆い被さってきた俺に勅使河原は目を丸くした。
 ば~か、誤解すんな。俺はただ勅使河原の向こうのドアを開けたかっただけ。
 で。
「うわあ!!」
 力任せに突き飛ばす。道路に転がり落ちた勅使河原を尻目に、運転席に移って急発進。
 目指すは・・・招待状にあったパーティー会場!!



 会場のドアを開け放った俺に、立食形式で歓談中だったパーティー客たちが静まり返った。
 おあつらえ向きの壇上に上がり、進行役が使っていたであろうスタンドマイクの前に立つ。
 歓談の輪の中心で唖然と俺を見ていたマイスター発見!
「レディ~ス・エ~ン・ジェントルメン!! 自己紹介だ! 俺こそマイスターのライフ・パートナー、選!! つまりが恋人、H済み! ここが肝心、メモっとけ!」
 一斉に視線が集まったマイスターは、ワイン片手に硬直状態。
 傍らの胡蝶姐さんは、必死で笑いを噛み殺してるし。
「いいか、マイスター! 確かに俺は鞭のこたぁまるでわかんねえし、興味もないさ。だがなぁ、あんたの管理なら、あんた自身より上手いんだよ! 鞭を作るのは技術や魂だけだと思ってないか!? 否! その体あってこそだ!」
 ワインをテーブルに置いて、マイスターが壇上に歩を進める。
「あんたが鞭作りに没頭できる環境を、健康を、俺が提供するんだ。そう・・・したいんだ。だから・・・余計な気を回すなよ、マイスター・・・」
 マイスターが両手を広げた。
 その苦笑めいた顔。気難しい無表情男の精一杯の笑み。
 俺は壇上からその腕の中に飛び込んだ。
「この・・・馬鹿」
 マイスターはかき回すように俺の髪を撫で、それから、俺をパーティー客の方に向き直らせた。
「・・・皆さん、お騒がせして申し訳ない。改めて紹介します。彼が私になくてはならないパートナー・・・選です。どうか、お見知りおきください」
 ざわめき。その中から拍手。胡蝶姐さんだ。
 それに倣うように次第に拍手は広がっていった。
 拍手の中、マイスターがそっと俺に耳打ち。
 ・・・・・・俺的に感動的な場面に、水を差さないでほしい・・・・・・。



「帰ったら、お仕置きだぞ」
 その耳打ち通り、パーティーを早めに抜けたマイスターは、工房に帰った途端、試打室行きを命じた。
 泣きたい気分で試打室で待っていると、二本のケインを手にしたマイスターがやってきて、壁に手をついて立つように指示される。
「マ、マイスター? あの・・・何故に二本も???」
「お前はもう誰もが認める私のパートナーだ。そのお前がまったく鞭に知識なしでは困る。せめて、私の作と既製の品の違いくらいは、知ってくれないとな」
 ああああ、バリバリ職人モードのお声・・・。
 渋々壁に手をつくと、グイとズボンごとパンツを引き下ろされた。
 丸出しのお尻に、ピタリとケインがあてがわれる。
 う~~~、いよいよっていうこの瞬間が一番嫌・・・・・・。
「い~~~~~!!」
 お尻に食い込む衝撃に、俺は思わず膝を落としてしまった。
 けどすぐさま腕を掴まれ、元の姿勢に戻される。
 容赦ないケインの連打に、俺は尻が破れるんじゃないかという恐怖で、返って泣くこともできない。
「ひい! 痛い! い、痛いーーー!! 違う~~! それ、違う~~~!!」
 自分でも何を叫んでいるかわからない。息が上がり、頭が真っ白で、何も考えられない。ただただ痛みだけに支配される。
 ケインが止まった。
 ズルズルと壁にもたれて跪いた俺は、そっとお尻を撫でて、デコボコした感触にゾッとした。
「まだだ。立ちなさい」
「も・・・やあぁぁぁ・・・」
「早く」
 怒声ではない。でも、射るような指示。
 よろよろと立ち上がった俺は、再び壁に手をついた。
 空を切るケインの気配に体が竦む。
「ひいぃぃぃぃ!!!」
 反射的に背中が反る。痛い~~~!! ・・・・・あれ?
 痛いよ。確かに、メチャクチャ痛い・・・けど。
「痛あぁぁぁい!」
 やっぱり。さっきのようなお尻が裂けるような痛みじゃない。
 痛いなりに、こんな風に思考も働く。真っ白には、ならない。
「うあ! ひ! い・・・た! ぅあ~~~ん!!!」
 何打も受ける内、自分がやらかした無茶な行動が脳裏に蘇える。
 何がいけなくて、お仕置きされてるのか、一打おきに身に沁みる。
「ごめ・・・、ごめん、なさい! ごめんなさい~~~~~!!」
「何が、ごめんなさいなんだ?」
「マイスターが・・・うっ・・・俺の将来まで考えて・・・ひいっ・・・彼らから俺を隠してくれたのに・・・痛い!・・・会場に乗り込んで無茶、した・・・痛いよ~~~!!」
 再び止まったケイン。今度こそ終わりみたいで、マイスターの腕の中に引き寄せられる。
「私の鞭も、わかったようだな」
「・・・う、ん。後の、方・・・。前のは、痛いだけだった・・・」
「―――よくできました」
 破顔一笑。
 珍しく、職人としての笑顔だった。



 勅使河原を突き落として車を奪い、もちろん無免許の俺がそれで会場まで乗り付けたのがバレて、今度は膝に平手でケインの腫れが引かないお尻にこってりとお仕置きされたのは、言いたかないが、まあ、後日談・・・である。










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