マイスター
開花
勅使河原が嫌いだ。
だって俺のマイスターに、やたらベタベタする!
かねてよりマイスター狙ってました発言多いし、そもそも俺の知らない頃のマイスターを知ってる時点で、猛烈にムカつくんだ。
その上、明らかに俺を小馬鹿にしてる!
「僕ちゃん」「坊や」「新人選役」「専属試打役」――――――「蕾ちゃん」
まともに呼ばれたことがない(呼ばれたかねぇけどな)。
一番ムカつくのは「蕾ちゃん」呼ばわりだーーーーーッッッ!!
大体、これは俺のせいじゃないだろ!? 俺はいつだってマイスター受け入れ体勢万端なのに、マイスターが「その内に」「いつかな」と放置してるんだ!
「そりゃ、お前に色気がないからだろう」
今日! この勅使河原の侮辱発言に俺は切れたッッ。ぶっち切れたぞーーー!!
「痛いーーーーッッ!! ごめ…、ごめんなさ…い! も、しな…、もうしないいぃぃぃ!」
ちょうど仕上がった薔薇鞭の試打役にされた俺は、四つん這いのお尻に絡みつくような痛みに、声が枯れそうに喚いていた。
ううう、もうちょっとタイミング計ってから仕掛ければよかった。でもでも試打用がなかったら、俺専用のパドルが登場するだけのことで、結果は同じ!?
俺ってなんて不幸な星の元に……い゛っっっ。
「い゛だ~~~~ッッ!!」
「なんだってそう、勅使河原に悪戯ばかりするんだ、お前は! しかも実害与えるなぞ悪質極まる!」
「だってえぇぇぇぇ!!」
蕾発言にぶっち切れ、俺は勅使河原の脱いであった帽子の内側に、膠―にかわ―(接着剤)をこってりと塗りつけておいてやった。
もともと本皮の上等な帽子だったから膠分増えた重みに気付かれることなく、勅使河原は被ったね。
あの瞬間の勅使河原の悲鳴を思い出し、つい笑いを噛み殺していると、マイスターの振るった薔薇鞭が……痛いってえぇぇぇぇぇ!!
「ちっとも反省できてないようだな」
「し、してるよぉッッ! 勅使河原にも謝るから!」
「当たり前だ。あいつはお陰で髪を切らなきゃならなくなったんだぞ」
へん。あんなチャラチャラした長髪、いっそ丸坊主にでもしやがれってんだ。
――――パアァァァァァン!!
「――――ひい!!」
「またロクなこと考えてなかったろ」
何故バレる……。
「ホントにもう勘弁して…、懲りたよ、反省してる、もうしない……」
さっきからお尻が刺すように痛いし、ぴりぴりと熱いし、多分もう満遍なく真っ赤。
「……まったく。そら、そこで立って反省!」
うう。試打の時は付きものとはいえ、コーナータイム嫌いなのに……。
「ふむ…。右…、左…、どちらから振り切っても、力加減はバランスがとれてるようだな」
俺のお尻に顔を近付け、じっくり観察するマイスターが呟く。
これがイヤなんだよぉ。
鞭の仕上がり具合のチェックとはいえ、こう冷静に尻を眺められて撫で回されると、妙~~~に恥ずかしい…。
「上からも…確実に中央を捉えつつ、左右にも広がるか。腫れ具合も良し。赤みも申し分ないな。うむ、これで完成だ」
「おめでとうございます。で…、俺はもういいよね…?」
恐る恐る振り返ると、マイスターは子供にするように顔をしかめた。
ちぇ~~~ッ、わかったよ、わかりましたよ。コーナータイムは続行なのね。
「しよ」
マイスターのベッドに潜り込んで耳元で囁くと、読んでいた本でポンとお尻を叩かれた。
「ここが引いたらな。まだ痛いだろう」
「いい! する!」
本を取り上げて床に放ると、唇を重ねてマイスターのスウェットを脱がしにかかる。
馬乗り状態の俺の尻を擦るように撫でるようにしていたマイスターの手が、不意にパンツの中に滑り込んだ。
「はぁ…ッ、あぁ!!」
包むように握られて、思わず声が漏れる。
鞭職人マイスターの手は、鞭作り以外でも繊細な動きを披露していた。
「んッ…く、ふぅ……、……ね、お願い……」
これでもかと目を潤ませて。
俺の顔を見つめていたマイスターが、やおら興ざめしたように下着から手を抜いた。
「マイスター!」
「本心ならな。そんな演技で挑発されたくないね」
うっ。そりゃ誘いのテクは演技だけど……。
「本気だよ! 俺……、あんたを受け入れたいんだ」
しばし考え込んでいたマイスターは、ベッドから起き上がるとさっさと風呂場へ姿を消した。
取り残されて悲しくなっていた俺の耳に、浴槽へお湯を張る音が届く。
マイスターはベッドに戻ってくると、俺の服を脱がせ、腫れているお尻を擦ってくれた。
「…今ならまだ後戻りできる。いいのか」
奉仕活動に抵抗なくなった時点で、後戻りも何もないと思うけど。
「今日や明日では無理だ。徐々に慣らしていくんだよ。不必要に痛い思いをして、懲りられたら困るしな」
苦笑するマイスター。何だか照れるんですが。
湯船にそっと体を沈める。
「うぁ……ッ」
鞭を据えられた尻に、しみる…!
「大丈夫か」
頷く。マイスターを受け入れる為なら、これくらい我慢する。
マイスターは袖をまくって湯船に腕を入れると、もう片方の手で俺を抱き寄せるようにして、俺の…に指を当てた。
「湯につかって柔らかくしておくんだ。そこへまずは一本。それが慣れたら、日を置いて二本。そうだな…、三本入るようになったら、いよいよだ」
つい息をのむ。
「んッ…」
ほぐすようにマイスターの指が。決して焦らない、むしろ焦らすように。
「本当はしゃがんだ姿勢が一番異物を受け入れやすいんだが……」
「いや!」
「はは、だろうな」
マイスターの笑みにつられて力を抜いた瞬間。
「――――ふ、ぁ………ッ!!」
幾日かすると、俺のお尻は湯船の必要もなく、すんなりマイスターの指を迎えられるようになっていた。
女性と違うからそれなりの手助け油は使うけど、慣れたらそれもいらなくなるってマイスター。
激しい動きはない。けど、この内臓を引っ張られるような感覚が……。
「ふ…、ひぃ…う、あン…!」
開発だけじゃない。俺の弱点を知り尽くしたマイスターの妙技。
「……選」
「は…い」
「深く息を吐いて。力を抜きなさい」
「ん…、マイスター」
「うん?」
「大好き」
「…私もだ」
――――そして、俺たちは公私共に、完全なパートナーになった……。
「よく来たな、勅使河原!」
居住フロアに遊びに来た勅使河原を出迎えた俺は、普段なら顔も見たくないこいつの到来が嬉しくて仕方なかった。
何故なら……!!
「お。開花宣言らしいな。昇格おめでとう、――――小菊ちゃん?」
ああ! 俺が宣言してやるつもりだったのに! 先越されたーーー!
てか、何故わかるーーー!?
腰つき!? 腰つきとやらなのか!?
いや待て、何だと!? 今度は「小菊ちゃん」だぁ!?
「勅使河原―――――!!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい~~~~~!!」
勅使河原に飛び蹴りを食らわしたまではよかったが、その咎で俺はすぐさまマイスターの膝に直行となった。
平手も痛いッ、平手も痛いッ、平手も痛いってーーーーー!!
俺が蹴りを入れた腹を擦りつつ、苦笑して俺たちの様子を眺めているにっくき勅使河原。
こいつ、嫌い! 大っ嫌いだ~~~~~ッッ!!
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