道化師とお小言【オルガ番外編】

道化師とお小言Twenties2

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「エッチ! スケベ! やめてよ、離し・・・痛あぁい!」
 丸出しにされたドロワーズのお尻が盛大な音を鳴らし、女は背中を仰け反らせて悲鳴を上げた。
「ひ、ひどいー! そんなにきつく叩くなんて・・・いっ、痛いぃい!」
 女は顔をねじ向けて恨みがましい視線を投げかけてきたが、お構いなしに二発目の平手を振るったスフォールド。
「言っただろう。俺は女相手でも容赦せん性質(たち)だと。と言うか、お前がご馳走してくれた薬のお陰で、体が思うように動かんのだ。よって・・・」
 三度の平手に、女がバタつかせていた手足を硬直させた。
 痛くて声も出ないらしい。
「どうしてもフルスイングになる。これを自業自得と言うんだ。覚えておけ」
 いきなり始まったお仕置き劇に静まり返っていた店内の男たちが、愉快そうに手を叩いて囃したて始めた。
「うるさいよ、てめぇら! もう二度とアンタらとは飲んでやらないからね!」
 真っ赤な顔で虚勢の声を張り上げる女の顎を掴んだスフォールドは、ピタピタとお尻に手の平を当てて彼女を覗き込んだ。
「これ以上恥ずかしい思いをしたくなければ、さっさと答えろ。クラウンはどこだ」
「~~~は。知らな・・・痛いー! 痛い、痛い、痛いよぉ!」
「答えるまで、こうだ」
 バチンバチンと続け様に鳴り響く強烈な音に、面白がっていた男たちの歓声も再び静まり返ってしまった。
「ひぃ! ひぃぃ! や! め! て! い、た、い! ひ! ひぃ!」
 余程痛いのか、もがくことも出来ずにただただ呻いている女に、同情の視線が集まりだしたが、手の平を振るうスフォールドには一欠片の憐憫もない。
「さあ。さっさと白状しろ。それとも、丸出しの尻にこれを味わうか?」
「ぃ、いやあ! わかったわよ! 言う、言うからもうぶたないで!」
 ピタリと手を止めたスフォールドは、すっかり真っ赤に腫れた自分の手の平を眺めた。
 普通なら、自分も痛くて痺れているだろうに、薬のせいで感覚がない。
 ベソをかきながらお尻をさすっている女を睨むと、彼女はビクリとして必死で両手でお尻を守りつつ、顎をしゃくった。
「裏通りの『食事処』街! 多分、一番奥の店! そこがクラウンを連れて行った連中の根城だから・・・」
「そいつら、何者だ」
「・・・男娼専門の、売買仲介屋・・・。きゃあ!」
 やにわに立ち上がったスフォールドの膝から転げ落ちた女は、散々引っ叩かれて腫れているであろうお尻を強打して涙目で呻いたが、頭上のスフォールドの眼光で、涙など引っ込んでしまった。
「・・・女。俺の大事な人に万が一のことがあったら、こんな生ぬるい仕置じゃすまさんからな・・・」



「嫌だ! 触るな! 触るなぁーーー!」
 必死に身をよじってベッドの上で逃げ惑うクラウンの姿を、むくつけな男数人がニヤニヤと見下ろしていた。
「小奇麗な顔をしてやがるなぁ。そこらの女より、よほど可愛い面だ」
「体も華奢だしなぁ」
―――うん、そお? 褒めてくれてありがとうね。
 などと。
 いつものような軽口が出ません。
「男娼小屋じゃあもったいねぇなぁ。貴族なら、こっちの言い値で買い取ってくれそうだな」
 き。
 貴族はマズイ。貴族はマズイ! 貴族はマズイって!
 貴族相手に売られでもしたら、フォスター伯爵とバレて今後の進退が・・・。
「いやぁ、高額買取なら、地位だけご立派な貴族様より、今は商家の方がいいんじゃねぇか?」
 やはり、そうか。
 じわじわと産業が進み始めているこの時代。
 借金をしなくては領地を回せなくなっている貴族も増えている中で、貸金をして裕福な商家が増えてきている気がしていたが・・・いや。
 いやいやいやいや、違う! 
 そんな冷静に分析している場合ではなかった。
 商家になど売り飛ばされたら、今度は逆に身分を気付かれぬまま飼い殺し・・・。
 どっちにしても、マズイ!!
「ま、どちらにせよ上玉だ。・・・売り飛ばす前に、味見してみるか?」
 ひ。
「俺はそっちの気はないんだがなぁ」
 ほ。
「まあ、こんな上物なら、有りか」
 無い!
 無い無い無い無い!
 足首を掴まれて上に掲げるようにされたクラウンは、必死に体の向きを変えてうつ伏せになったが、彼らの目標物がどうあっても隠せない事態に血の気が失せた。
 うんざり。げんなり。鬱陶しい。耳にタコ。
 それだけ、散々言い聞かされてきた。
―――お忍び先では、決してスフォールドから離れてはなりませんよ。
 でも、もう、自分は二十歳の立派な大人であるし。
 フォスター家の当主であるし。
 宮廷で大人相手に上手く立ち回る伯爵であるし。
 少々自由に羽を伸ばすくらい、いいではないか。
 たまには自分が伯爵だということを忘れ去りたい。
 ただの一人の男として、気ままに過ごしたい。
 お目付け役など、必要ない。
「ス、スフォ・・・」
 このまま。 
 このまま、このむくつけ達のいいようにされてしまったら。
 そして、売り飛ばされてしまったら。
 フラッシュバックのように、領民の顔が浮かぶ。
 幾度か見てきた、領主を失った他領の行く末が、まざまざと思い起こされる。
「ス・・・スフォールドぉーーー! スフォールド! スフォールド! スフォールド!」
 次の瞬間、バン!と、蹴破られたドア。
 ゆらりと姿を現したスフォールドに、男たちが目を見張った。
「テ、テメェは! クソッ、あのアマ、しくじりやがったな!」
「ケッ、まだ薬でフラフラじゃねぇか。野郎一人くれぇ、どうってことねぇ。片付けちまえ!」
 ベッドの上のクラウンにもわかる。
 スフォールドは恐らく、立っているのがやっとだ。
「・・・さっさと掛かって来いよ・・・。でないと・・・」
 そんな彼に、男たちが一気に襲いかかる。
「せっかくの砂が、湿気る!」
 刹那、両手に握り締めていた砂を男たちの顔目掛けて投げつけたスフォールド。
 その目潰しに、男たちが悲鳴を上げて顔を覆うと、床に屈み込んだ。
「おらぁ!」
 視界を潰された男達に、スフォールドの容赦ない攻撃が始まる。
 確実に急所を捉えたそれは、男たちを一人一人床に沈めていった。
「畜生!」
 果敢に反撃に転じた一人の男の体当たりを食らったスフォールドが、顔をしかめて肩を押さえた。
「いてぇだろうがぁ・・・テメェはぁ!!」
 体当たりをしてきた男の鼻目掛けて頭突きをくれたスフォールド。
 男の鼻は、一瞬だったが、顔に埋まったように平たくなった。
 こ。
 怖い。
 こんな、スマートさの欠片もないスフォールドを初めて目の当たりにしたクラウンは、ただただベッドの上で小さくなって事の成り行きを見守るしか術がなかった。
「テメェら・・・俺は今、薬でフラッフラだ。まともだったら、こんなもんじゃ済まねぇぞ!」
「~~~ひ・・・」
 すっかり戦意喪失の男たちを見渡して、スフォールドはリーダー格らしき男の襟首を締め上げた。
「いいか。こいつにまた手を出してみろ。テメェの睾丸絞り出してケツの穴にねじ込んでやるからな・・・」
 倒けつ転びつ部屋から遁走していく男たちの背を見送って、スフォールドはフンと鼻を鳴らした。
 そして、衣服の乱れた・・・というか、乱されたクラウンを見下ろし、大きく息をつく。
「・・・なんとまあ、情けないお姿ですか。ほら、服、整えて」
「え? あ。うん・・・」
 言われるままに服を整えつつ、違和感。
「はい。そこから降りる。帰りますよ」
 これも、違和感。
 思わず必死で手を伸ばしてスフォールドの腕を掴もうとしたが、その気配にサッと身を翻した彼に顔が強張る。
「~~~なんで?」
 いつものスフォールドなら、二人きりの時は衣服の乱れを自分で直してくれる。
 彼が眠っている間に勝手に彼らについていって店を出た自分を、小脇に抱えてお仕置きだ。
「なんで全部、僕にやらせるの?」
 ぽろぽろと、涙が頬を伝う。
「怒ってるの? 僕のこと、もう、嫌になっちゃった? 全然言うこと聞かないから? 叱る気も失せるくらい、嫌いになった?」
「旦那様・・・」
「旦那様って言ったぁ・・・。ただの職業主従関係にされちゃうの? 僕、見捨てられちゃうの?」
「いえ、・・・いや、あのね、クラウン・・・」
「僕を一人にしないでよぉ・・・! うんとお仕置きして良いからぁ! お尻、どれだけ叩かれてもいいからぁ! 見放さないでぇ・・・見捨てないでよぉ・・・!」
 ついにワンワンと泣きじゃくり始めたクラウンの頭に、苦笑を浮かべたスフォールドが左の手を乗せた。
「あのね、クラウン。私の右腕、よく見て?」
「ふぇ・・・、うぅ・・・、右腕? ・・・あ」
 ダランと垂れ下がったスフォールドの右腕が、奇妙なほど長く感じる。
「さっき、体当たりをモロに右肩に食らってしまいまして。どうも、脱臼したようです。なので、あなたの衣服を整えて差し上げることも、脇に抱えることも、できません」
「脱臼・・・」
「はい。自力ではめられなくもないのですが、素人の荒治療で痛みが長引いては、職務に差し支えますので、お屋敷に戻ってから、御典医に治していただこうと思っておりました」
 俄然、猛烈な気恥ずかしさに襲われて、クラウンは両手で顔を覆い隠した。
「さ、先に言ってよ! 意地悪!」
「いえ、あなたなら言わなくても、この見た目でお分かりだと思っていたのですが・・・。そうですか。これにも気付ないほど、怖い思いをなさったのですねぇ。お可哀想に」
 グリグリと頭を撫で回されて、クラウンは熱いくらい紅潮した顔から手を離せない。
「でも。言っておきますけれど。この怖い思いは自業自得ですからね」
「~~~」
「それに。私が自分で見込んだ主を見捨てたりするものですか」
 そろそろと両手を下ろしてスフォールドに上目遣いを向けると、彼のニッコリと浮かべた微笑みに寒気。
「ですから。この右肩が万全になり次第、うんと、たっぷり、きつぅいお尻ぺんぺんをして差し上げますからね。それはご心配なく」
「え! いや! 違う! それは忘れて!」
「ははは。紙に書いた物は燃やせますけどねぇ。このスフォールドの記憶に刻んでしまいましたもので」
 そう。
 あの膨大な貴族資料を暗記できる男。
 クラウンはゴクリと息を飲んで、予約の施されたお尻をそろそろとさすったのだった。



「ひっ・・・ひと、つぅ! おし、お忍び! 先! ではぁ! スフォールドのぉ! 傍から! 離れ! な! い! こ! とぉ! ふぇーーーん! 痛いよぉ!」
 何しろ、丸一年振りのお仕置き。
 スフォールドの平手の威力をとうに忘れ去っていたお尻である。
 それが彼の膝の上で丸出しにされた状態で味わうのは、とにかくきつい。
「も、勘弁・・・! お願い、もう許して・・・痛いぃ!」
「おや、私めのお仕置き流儀もお忘れで? はい。お約束事項すべて復唱!」
「う」
 復唱すれば、その間、ずっと叩き続けられる。
 が、しなければ、するまで叩き続けられる。
 無論、素直に復唱した方が身の為なのは、一年空いた今でも刻みつけられている。
 どうにか全項目の復唱を終えて、膝の上を抜け出そうとしたクラウンは、まだガッチリと腰を抱え込んでくるスフォールドに青ざめた顔をねじ向けた。
「な、なんで?」
「・・・・・・右肩の完治まで、一週間の猶予がございましたねぇ?」
「そ、そうだよ! お陰で僕は一週間、この日の恐怖に怯えて過ごしていたんだぞ!」
「ほお? まだシラを切り通すおつもりで?」
「し、シラって、何さ」
 スフォールドは大仰なため息をついてお仕置き部屋である屋根裏の天井を仰ぐと、視線を壁に這わせてぶら下がっている道具を見た。
「・・・私に薬を盛った女ね、リタというのですが・・・」
 膝の上で飛び上がらんばかりにギクリとしたクラウンは、ゴクリと息を飲み込んだ。
「あの娘、薬の入手だ売買仲介屋だと、何かと使えそうだったので、後日、また会いに行ったのですよ」
「へ、へえ・・・え、あ!」
 膝の上から小脇に抱え直されて、軽々と持ち上げるように立ち上がったスフォールドが壁に掛けられたパドルを手にしたのを見て、クラウンは悲鳴を上げた。
「私に薬を盛るようリタに言ったそうだなぁ、クラウンよ」
「出来心ぉ! 出来心だよぉ! ぎゃあ!」
 バチィン!と、お尻の両頬を網羅したパドルの痛みに、小脇から垂れ下がっていた両手両足、そして頭。
 それらがバネ仕掛けのように跳ね上がる。
「猶予期間中に自白すれば、反省とみなして許してやろうと思っていたのだがなぁ?」
 一人で遊んでみたかったのだ。
 思い切り羽を伸ばして、何もかも忘れて。
「ストレス発散したかっただけなんだよぉ! お願い、許して!」
「・・・一つ聞くが、私が一緒にいるのは、ストレスなのか?」
「~~~」
 そう聞かれると、クラウンは首を横に降らざるを得ない。
「・・・お前が、いてくれなきゃ、やだって、今回、気付いた・・・」
「・・・なるほど。高い授業料を払ったものですね。ただでさえ真っ赤なお尻に、パドル二十ですか」
「に・・・・・・二十!? ちょ、待っ・・・ぎゃあ! 痛い痛い痛い痛い! ごめんなさいーーー! もう許して! ごめんなさいぃいーーー!」
 スフォールドの肩の完治に一週間掛かったのと同様、腫れ上がったクラウンのお尻は一週間程、座っても立っても歩いていても、お仕置きでたっぷり懲らしめられましたという主張をやめてくれなかったのだった。



「ああ、そうそう」
 その後の初のお忍びに向かう車の中で、スフォールドが助手席から後部座席のクラウンを振り返った。
「リタにはもう手を出さないでくださいよ?」
「~~~うるさいな! 女のことまで云々されたくないのだけど!?」
「いえ。あれはもう、私の女なので」
「・・・・・・・・・は?」
 ニヤリとしたスフォールドに、渾身の拳を振るってみたがアッサリとかわされて、クラウンは彼の哄笑に地団駄を踏むしか手立ては残されていなかった。



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~ Comment ~

く、クラウンがかわいい!(笑)

いやークラウンは領主になってもおバカさんですね(笑)
でも一年はお仕置きなしで真面目に頑張ってたし多少のストレス発散はしたかったのかな?
スフォールドとクラウンの主従を超えた絆を改めて感じられてとても良かったです(*´∇`*)
そして、見放されると思ったときとかお仕置きのときのクラウンがかわいい!かわいすぎてどうしたものかと(笑)
たっぷり懲らしめられたのでしばらくお仕置きはされない……んでしょうか?笑笑
次回作も期待してます(笑)

Re: く、クラウンがかわいい!(笑)

サラさま

コメントありがとうございますv

クラウンとスフォールドは兄弟・相棒・親友という関係性の主従にしたいと思ってできたキャラです。
お兄ちゃんスフォールドに甘え倒しているのを、可愛いと思ってくださると嬉しいです(*^_^*)

懲らしめられても、懲りないのがクラウンですから。。。ねえ?( ̄∀ ̄)
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