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シシィの日常

ルイーザ

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「私の物に勝手に触らないでよ! この泥棒猫!」
「ひどいわ、そんな言い方! 大事なものなら、ちゃんと片付けておけばいいでしょ! リビングなんかに出しっ放しにしておくから、いけないんじゃない!」
 
 今日もロレンス家に響き渡る、姉妹ゲンカの声。
 
 以前は姉ルイーザの折檻を恐れて、何も言い返せなかったシシィだったが、今はもう違う。
 同じロレンス家の姫君として、対等に言い返す。
 何しろ、下町育ちのシシィは、口喧嘩が達者だった。
 貴族の姫君同士で、こんなに激しく言い争ったことのないルイーザの部が悪い。

「――――痛ぁい!」

 シシィの頬が赤く染まった。
 そう、ルイーザはつい手が出てしまうのだ。

「ひどいー! カイル兄ちゃん! お姉さまがまたぶった~! カイル兄ちゃーーーん!!」
「――――シシィ!」

 リビングを飛び出して喚くシシィの口を、必死で押さえたが、遅かった。
 廊下の向こうから、カイルが怖い顔をして歩いてくる。

 ルイーザは慌てて駆け出した。

「こら、待ちなさい!」
「やだぁ!」

 捕まったら、お仕置きされるのだから、ルイーザも必死だ。
 
 カイルがロレンス家の使用人に雇われてからというもの、ルイーザは今まで使ったことのない「駆ける」という移動手段を、幾度使用しただろう。

 ただ、由緒正しいロレンス伯爵家のお姫様のおみ足は、いくら全力で駆けようと、労働階級育ちのカイルが歩く速度と、ほぼ変わらず。

「捕まえた」
「あーーーん!」

 カイルの手を振りほどこうともがき、ふと振り返ると、シシィが舌を出していた。

 シシィはとにかくいい気分だった。
 どんなに意地悪されたって、いつだってこうして、カイルが守ってくれるのだから。
 

「~~~シシィのばか!」
「こらこら、いい加減にしなさい、お姫様」
「だって~~~!」

 カイルが少し屈んだかと思うと、ルイーザの体は、あっという間に彼の肩に担がれてしまった。

「はい、お仕置き部屋行きですよ。逃げたら、お道具でって、いつも言ってるでしょ」
「やだぁ! 下ろして~~~!」
「いいですよ。自分で歩いてお仕置き部屋まで行けば、お道具は勘弁してあげます」

 それでも、お仕置きされることには変わりない。
 ルイーザはすっかり不貞腐れていたが、仕方なく、トボトボとカイルの背中について歩き始めた。



 お仕置き部屋とは、ルイーザとシシィの部屋の間にある部屋のことだ。
 下女として使用人たちと同じ部屋に住まわされていたシシィが、晴れてロレンス家の姫として、ルイーザと同じ二階に部屋を与えられることになった時、自分の隣は嫌だとルイーザがゴネて、間の一部屋を空けることになった。

「どうして、そういう意地悪なこと言うの」

 カイルが怒ったが、ルイーザはそっぽを向いてやった。
 すると、カイルが思いついたのだ。

「いいだろう。では、空いた一部屋は、お姫様のお仕置き部屋に決定だな」
「な、何よ、それーーー!」

 ルイーザの抗議も虚しく、お仕置き台代わりのソファや椅子が運び込まれ、タンスにはケインやパドルがいくつかしまわれたのだった。

 カイルは進んで道具を使う人柄ではないが、それでも時々は、それらでお尻を真っ赤にされたこともある。
 今日のように逃げ出した時や、意地悪の度が過ぎた時だ。
 ただ、度が過ぎた意地悪の定義は、ルイーザにはわからない。
 決めるのは、全部カイル。

「さて、ここに立ちなさい」

 椅子にかけたカイルが、自分の前の床を指差した。
 膨れ面のルイーザが、おずおずとそこに立つ。

「どうしてケンカしたの。言ってごらん」
「シシィがいけないのよ! 私の画集に勝手に触ったの!」
「ルイーザの部屋に勝手に入ったのか? そりゃ、あいつが悪いな」
「でしょ!」
「シシィも呼んで、言い聞かせないとな」
「あ・・・!」
「何?」
「・・・・・・」

 頭を掻いたカイルが、苦笑した。
「本当は?」
「・・・シシィが画集に触ったのは、ホントだもん・・・」
「ははぁ、さっきリビングの前でケンカしてたな。画集が置いてあったのは、リビングか」
 
 渋々頷く。

「リビングは共同の場所でしょ。そこに置いてあれば、シシィが触っても仕方ないだろ」
「だって!」
「触っちゃダメと、言ってあったのか?」
「・・・言って、ないけど・・・」
「じゃあ仕方ないでしょ。なんでそんなとこに置きっ放しにしてたんだ」
「だって! 侍女たちが見たいって言うから、あそこに置いておくから、いつでも見なさいって言ってあったんだもの!」

 カイルの顔が少し険しくなった。

「シシィだけはダメって、意地悪したな」
「あ!」

 椅子から立ち上がったカイルが歩いていったのは、道具がしまわれたタンス。

「やだぁ! 嘘つき! お道具は使わないって言ったじゃない!」
「嘘つきはお姫様だろ?」

 そう言って振り返ったカイルの手には、ケインが握られていた。

「いやあ!」
「嘘をついたお仕置きに、ケイン五つ。その後、意地悪のお仕置きに、膝で百叩きだ」
「やだぁ・・・」
「その椅子に手をつきなさい」

 涙が出てきた。
 また逃げ出したい。
 けれど、逃げて捕まったら、今度こそ、ケインが五つで済まないだろう。
 
 ルイーザは恐る恐る椅子の座面に手をついた。
 お尻が自然と突き出される格好になり、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
 カイルがドレスの裾を無造作に捲くり上げ、下着のお尻にケインをあてがう。

「じっとしてないと、下着も下ろすぞ」

 ケインがお尻から離れた。
 ルイーザはキュッと目をつむる。

「一つ」
「あん!」

 下着越しとはいえ、独特の鋭い痛みが走る。
 しゃがみこんでしまいたいが、ケインで下着のないお尻を叩かれた時の痛みを思い出すと、耐えるしかない。

「二つ」
「ひっ」

「三つ」
「痛い~!」

「四つ」
「あッ!」

「五つ」
「ひぃ!」

 やっとしゃがめる。
 筋状にヒリヒリするお尻を抱えるように擦って、ルイーザは涙目でカイルを見上げた。

 その顔に、苦笑するカイン。
 軽く弾くように叩いただけなのに、こんな泣き顔になられると、次のお仕置きが思いやられる。
 なんだか可哀想で、心が折れそうだ・・・。
 首を一振りして、椅子にかける。

「さあ、膝においで」
「もうお仕置きされたもの!」
「・・・パドルもいるか?」

 ギクリとしたルイーザが、おずおずと膝に腹這いになった。
 もう一度裾を捲くり上げ、今度は下着も下ろす。

「あ! いやぁ!」
「恥ずかしいか。お姫様のした意地悪は、同じくらい恥ずかしいことだと自覚しなさい」
「意地悪じゃないもん! シシィには触られたくなかったんだから、仕方ないでしょ!」
「そうか。じゃあ、丸出しのお尻をぶたれても、仕方ないな」
「カイルのばかーーー! あ! 痛い~~~!」

 先ほどのケインの形跡がなんら見受けられなかったお尻が、一発で赤く染まった。

「ちっとも反省してないようだから、百叩きじゃ終わらないかもな」
「ひっ! やだやだやだ! ・・・あん! 痛いよぉ~~~!」

 わんわん泣きじゃくるばかりで、なかなか「ごめんなさい」と言ってくれないものだから、カイルは平手を振り下ろしながら、苦笑混じりのため息を何度ついたか・・・。

 まんべんなく真っ赤に染まったお尻が、すっかり腫れた頃、ようやくお仕置きが終わった。
 ホッとしたのはカイルの方だ。

「さ、壁を向いて立ってなさい」
「や!」

 ギュッと抱きついてきたルイーザに、子供の様な上目遣いが、カイルの苦笑を深くする。

「痛いよ~! カイルのばかぁ!」
「お姫様がいけないんでしょ?」
「シシィだって、さっき私にアカンベってしたぁ!」

 そりゃあ、ケンカを買うシシィだって悪いとは、カイルだって思っているが・・・。

「・・・俺はどうも、二人も同時に大切に思えるほど、器用な男じゃないみたいでね」

 ルイーザがカイルを付き飛ばそうとした気配を察知したので、グッと抱き寄せる。

「放してよ! ひどいわ! シシィが大切だから、お仕置きしないなんて!」
「ばか、逆だ」
 
 訝しげなルイーザのお尻を、ぽんぽんと叩く。

「あのね、大切な人だから、悪い子したくないんだよ。大切だから、叱りもするし、お仕置きもする」
「カイル、シシィが嫌いなの?」
「そうじゃなくて」

 白と黒しかない発想に、カイルが困ったように微笑んだ。

「シシィは大事な友達だし、妹みたいなもんだ」
「大事と大切の、どこが違うのよ」
「いや、言葉としては変わらないけど・・・、あー、どう言ったらわかってくれるかね、このお姫様は」

 そっと、額にキス。
 ルイーザの顔が、お尻同様真っ赤になった。

「ごめん。嫌だったら、もうしない。キスも、お仕置きも」

 ルイーザが開きかけた口を閉じ、膨れ面した。

「ずるいわ。キスは嫌じゃないけど、お仕置きは嫌だもの。ふたつ並べないでよ」

 カイルが微笑むと、ルイーザが背伸びをして、彼の頬にキスした。

「・・・カイルのばか。こんなみっともない格好の時に、そんなこと言い出さないでよ」
「成り行き上・・・」

 確かに、真っ赤なお尻を丸出しにしたままでは、格好がつかない。

「下着を戻して、ドレスを戻しなさい。そうしたら、今度はここにキスしてあげるわ」

 ちょんと人差指で唇をつつかれて、カイルは肩をすくめた。

「なんで偉そうなんだ? ほら! まだお仕置き中だぞ。そのまま、さっさと壁を向きなさい」

 お尻をポンと叩かれるように押し出され、ルイーザはムクれて壁まで歩いていった。
 振り返ったその顔は、少し悪戯っぽい笑みを湛えていたが・・・。





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