マイスター

鞭職人

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――ピシァァァンッ!――パシイィィンッ!――バシィッ!――ピシャアァァン!!
 防音壁に囲まれた狭い部屋。
 気が遠くなるような痛みに震えながら、麗‐うらら‐はどうしてこんなことになったのか、唇を噛み締めた。
 お気に入りのミニスカートを捲り上げられ、可愛いパンティも膝まで下げられてしまい曝け出されたお尻が、木のパドルという見たことも聞いたこともない物で、打ち据えられる。
「あぁ…ッ、いやッ、やめ…てッ、痛いぃぃぃ―――!!」
 膝の上でうつ伏せにされ、腰にはケインを振るうマイスターの大きな手があてがわれている。
 逃げようともがけば、お尻への罰は一層強まった。
 罰……そう、マイスターはこれを『お仕置き』だと言った。
 


 麗は自他共に認める可愛らしい女子高生だった。
 一見、可憐。でもその実は、友達に誘われて始めた援助交際の容易さに溺れる、軽い一面を持ち合わせている。
「オジサンとちょっとおしゃべりして、食事おごってもらって、それで何万ももらえるんだもん。バイトなんてバカバカしくて、やってらんない」
 覚えたてのタバコを吹かして、援交仲間と道端で騒ぐ時間の、なんと楽しいこと。
「麗、この前のハゲ太とHしたってホント?」
「やっだ、やめてよ、きもッ。ホテル行っただけよ。どうしてもって頼むから。あたし優しいし、ボランティア。手も握らせてやってないわ。でも喜んじゃって、五万よ、五万」
「うわ、そうでもしなきゃあたし達とはお近付きになれないって、自覚してんじゃん」
「まあねぇ。でも若ハゲ太ってオヤジ臭いんだもん。もう会わぁない」
 ケラケラと笑い合っていると、ひとりの男が近付いてきた。
 二十歳過ぎたくらい? ちょっと着てる服が堅いけど、イケてるわ、かっこいい。
「ね、君。時間ある?」
 男が声をかけたのは麗だった。
「あるよぉ。じゃね、みんな」
 コギャル仲間に手を振って、男の隣を歩き出す。
 ナンパはお金にならないけど、このかっこいい人ならOK。むさいオヤジばっかり相手にしてたら、臭いの移りそうだし。それに、ご飯くらいおごってもらえるわ。と、思っていた。
 ところが麗が連れて行かれたのは、喫茶店もレストランも入っていなさそうなお堅いビル。ホテルでもなさそうだし、さすがに怪訝な面持ちで選‐すぐる‐と名乗った男を見た。
「ここ、どこ」
「こっちだよ」
 選は麗の手を引いて、エレベーターに乗り込んだ。最上階までノンストップで昇ったエレベーターのドアが開くと、唖然。
 そこはいきなり部屋になっていて、しかも壁に棚に机の上に…と、見たこともないような怪しげな道具が並んでいる。
 ギクリとしたのは、唯一その正体がわかる鞭。短いの長いの、太いの細いの。雑誌やテレビなんかで見たことがあるが、本物なんて初めてだった。
「マイスター、連れてきましたよ。援交コギャル、どうですか」
 選が相手を探すようにキョロキョロとして言うと、棚の陰からそのマイスターとかいうらしい男が姿を見せた。
 こっちもオジサンだけどいい男。少し気難しそうだけど…。
「また援交か。一体どれだけいるんだ」
「あんた、めったにここから出ないからね。街にはあふれかえってますよ」
「嘆かわしい」
「選役―すぐるえき―の僕には、手間が省けて楽チンだけど」
 ジロリとマイスターに睨まれて、選は慌てて手を振った。
「冗談ですよ、冗談。さ、麗ちゃん、このオジサンに、良い子にしてもらうんだよ」
 全然状況が飲み込めない。しかし、マイスターが怪しげな道具をひとつ取り上げたのに、身の危険だけは察知できた。
「何する気よ!」
「これはパドルといってね、お尻を叩く道具だよ。マイスターの新作」
 つまり、マイスターとはこの怪しい道具を作っている鞭職人なのだと、選が言った。
「お、お尻…?」
「そ。マイスターは新作作ると試し打ち…『試打』っていうんだけど、それをしないと売らないんだよ。ちゃあんとお仕置きされる子が反省できるか確認するの」
「なにそれッ、意味わかんない!」
「だから。君がその『試打役』に選ばれたんだよ。僕が『試打役』を選ぶ『選役』なの」
 声もなく後ずさった麗は、くるりとエレベーターの扉まで走ったが、いくらボタンを押しても開かない。
「ああ、それ、僕とマイスターしか開けられないから。さ、観念してあっちのお部屋に行こうね」
 ひょいと選に担ぎ上げられて、麗は悲鳴を上げて大暴れした。しかし、いつものことというように、選はスタスタと隣の部屋に麗を連れて行くと、中央のベッドに荷物のように放り出した。
「マイスター、準備OKですよー」
 革パドルを手にやってきたマイスターは、選が部屋を出るとドアを閉めた。
「や…や…いやあーーー!!」
 下げていた鞄を投げつけると、マイスターに当たって中身がバラけた。
「…援交の上に、未成年の喫煙か。バックはブランド。困ったもんだな」
「馬鹿ばかバカ! 変態、あっち行け!」
「やれやれ。素直に四つん這いにはならんだろうな」
 そう言うと、マイスターはベッドにかけて麗の腕を引っ張った。あっと言う間に彼の膝の上に腹這いにされ、スカートを捲くられてパンティーも下ろされ、白いお尻が剥き出しとなる。
「イヤーーーー!!!」
「私は君をよく知らん。だが、君は君を知っている。反省すべき点をよく考えて、お仕置きを受けなさい」
―――パアァァン!―――パアァァン!―――パアァァン!―――
「痛あぁぁぁぁぁい~~~~~!!!」
 親にだってぶたれたことのないお尻を、容赦ないパドルが責める。
パアンッ、パアンッ、パアンッ、パアンッ、パアンッ、パアンッ、パアンッ、パアンッ…
ビシッ、バシッ、ビシッ、バシッ、ビシッ、パシイィィンッ!!!
「うわーーーーーーん!! 痛い、痛い、痛いーーーーーー!!」
 痛くて熱くて、お尻に火がついたようだ。それもそのはず。麗の白かったお尻は、真っ赤に腫れ上がっていた。
「自分の生活を反省しろと言ったんだ。何か言うことがあるだろう」
「い…た…ッ、や、わ、わかん、な…い、ヒイィ!」
「呆れた娘だ。悪いことをしたら、『ごめんなさい』と言うものだろう」
「あたし、何にも悪いことしてないのに! あんた達のが犯罪よ!」
「やれやれ」
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
「きゃあーーーーーーーーーーー!!!」
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
「ぅえぇぇぇぇぇーーーーーーーーん!!!」
「援交がいいことか。働きもせず大金を得るのがいいことか。未成年がタバコなどいいことか。援交相手をあしざまに言うのがいいことか」
「ひっ、アンッ、痛ッ……い、いけない、こと、です…、あ~~~~ん!」
「なら言うことがあるな!」
「はい! ごめんなさいッ、ごめんなさいッ、もう許して、ぶたないでーーー!!」
 何とかこの試打から逃れようと必死に訴える。するとマイスターのケインが静まり、ホッとした。
「認めるな」
「み、認めます」
「反省したか」
「反省、しました」
「結構。このケインは成功のようだな。なら…」
 膝から下ろされて床に跪いた麗は、ヒリヒリするお尻をそっと擦った。触ると飛び上がりそうに痛い! お尻の感覚がなくて、自分のものじゃないようだった。
「仕上げだ。ベッドに四つん這いになりなさい。後十ぶつ」
 青ざめた麗は、もう毒を吐く気力もなくイヤイヤと首を横に振った。
 ほんの少し触っただけでもこんなに痛いのに、さらに十回も叩かれたら……。
「許して…もう、無理。死んじゃうよぉ」
「百もぶってない。反省してるなら自分でこられるだろう。それとも私が押さえなくてはならんのか。その場合、反省なしとして百叩きとなるがな」
「ひ…ひどい…」
 ぐすぐすと泣いて動けない麗をマイスターはじっと待っていた。きっと無理矢理四つん這いにされて百叩きされると恐怖だったのに、思いがけないマイスターの態度に、麗はやっと涙を止めることができた。
「来られるな」
 こくんと頷き、おずおずとベッドに四つん這いになる。その腰をそっと押さえたマイスターは、先ほどより若干緩やかにパドルを振り下ろした。
パアンッ!
「うっ…」
パアンッ!
「あっ…」
パアンッ!
「ひっ…」
パアンッ!
「痛ッ…」
パアンッ!
「ごめ…」
パアンッ!
「もう、しませんっ」
パアンッ!
「いい子に、なりますッ」
パアンッ!
「ごめんなさいッ」
パアンッ!
「ごめんなさい!」
パアアァァァンッッッ!!
「ごめんなさあ~~~~いッッッ!!!」



 一階へ麗を送り届けた選が戻ってくると、マイスターは先ほどのケインのグリップに刻印をしているところだった。
「麗ちゃん、いい子になるといいねぇ、マイスター?」
「なるさ。私のパドルで仕置きしたんだ」
「相変わらず自信家」
「一流の鞭職人だからな。それに……根っから悪い子供なんて、いないもんだよ」
 刻印を終えたパドルを布袋にしまい、マイスターはそう肩をすくめた。

                       






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