FC2ブログ

仕置き館

最終話 悪女と聖女

 ←第7話 救いの手 →仕置き館のこと
 ワイラー夫妻が訪れないまま、半年以上が過ぎていた。
 フォスターの寄付のお陰で、毎日寄付金集めに歩き回らずに済むようにもなり、グランドマザー自らが娘達の監督と再教育に携わることができ、穏やかな仕置き館の日常が流れている。
 新しい収容者が送られてくると、罪の戒めは変わらず執行されたが、その後の定期的な戒めの日は当然行わなかった。
 ワイラー夫妻がなかなかやって来ないのは、戒めの日を行わない日数を溜めて、それだけきつく私のお尻に反映させようとしているのかもしれないと、グランドマザーは思った。
 正直なところは、怖い。
 フォスターは、案の定、土地の売買交渉をすげなく断られたと言っていた。
 新しい多額寄付者の存在に、ワイラーは躍起になって、仕置き館の完全掌握に乗り出してくるかもしれない。
 フォスターは伯爵。ワイラーは公爵。地位の差は歴然としている。
 フォスターは新しい施設を準備してくれると言ったが、そこへ移ることを、ワイラーが容易に認めるとも思えなかった。
 そっとお尻を擦るのが、グランドマザーの癖になり始めた頃、フォスターが仕置き館を訪れた。
「――――ここを買い取ることができましたよ」
 あまりにあっけない朗報に、グランドマザーは目を瞬いて、苦笑するフォスターを見つめた。
「私も驚きましたが、ここが銀行の抵当物件として売り出されていたのですよ」
「あの・・・どういう・・・」
「ワイラー公爵家は、莫大な借金を抱えたんです。たった半年の浪費でね」
 状況が飲み込めないでいるグランドマザーに、フォスターが事の成り行きの説明を始めた。


「いやー! 許してー! ごめんなさい、あなた! ごめんなさいーーー!」
 ワイラーの膝に乗せられ、丸出しにされたお尻に繰り返しヘアブラシの背を据えられ、イザベルは泣きじゃくっていた。
「ごめんなさいーーー! もうしません! ごめんなさいーーー!」
 質素な生活をしてきた修道女は、公爵家に嫁いで、それまでできなかった派手な遊びに夢中になった。
 毎日の盛大なパーティー。ドレスや装飾品を買い漁り、賭博に浮気にと、のめり込む日々。
 いくら公爵家とはいえ、膨大な金額が記された請求書の山に頭を痛め、イザベルの浪費癖を注意し、自由にお金を使えなくしたのだが、彼女は夫に内緒で自分名義の仕置き館の土地を担保に借金し、あっという間にそれも使い果たしてしまった。
その返済ができなくなり、結果、仕置き館を手放さざるを得なくなったのだ。
「この浪費家の尻軽め! ワイラーの家名に泥を塗るような真似をしおって!」
「うあーーーん! 痛いー! 痛いよぉー! 許してー!」
 お尻を叩くことを好んだイザベルは、自分が叩かれて泣くことなど考えたこともなく、その痛みと屈辱に、泣きじゃくってもがく。
 その仕草が、ワイラーを喜ばせていることに、彼女は気付いているだろうか。
 清楚なグランドマザーと違って高慢な女王気質のイザベルが、子供のようにお尻を叩かれて泣いている様は、ワイラーの好みに見事に合致していた。
 グランドマザーに引けを取らない極上のお尻の形は、ワイラーを十分に満足させたし、 清楚な白百合の粛々たるお仕置きより、深紅の薔薇の往生際の悪い態度の方がそそられる。
「イザベル、仕置き館は失ったが、いつでも叩かれた赤いお尻を眺められるようにしてやろう」
「え?」
「お前の部屋の壁に、大きな鏡を据え付けて、叩かれている姿も、叩かれて腫れたお尻も、存分に堪能できるようにしよう」
「あ、あなた・・・?」
「お前が浪費の請求書の金額を、お前がお尻を叩かれる数にすれば、毎日お仕置きしたって足りないくらいだがね」
「――――ひ・・・!」
 顔を引きつらせて思わずお尻を覆った手を無情に跳ねのけられ、再び始まったヘアブラシの連打に泣きじゃくるイザベル。
 彼女は自らを、懲罰塔に送り込んでしまったも同然であった。


 仕置き館の林の奥の懲罰塔は取り壊された。
 ここに在中していた仕置き官の男達は、ワイラー家に雇い入れられて出て行った。
 彼らがイザベルのお仕置きの為に雇われたことを知ったグランドマザーは、瓦礫の山になった懲罰塔の前で佇んでいた。
 懲罰塔を出られた6人の娘から聞いた、その厳しい日々を思い出し、心が壊れる寸前だったシャルルの表情を思い出し、思うことは一つだった。
「イザベル夫人のことを、お考えですか、グランドマザー」
 いつの間にか背後に立っていたフォスターの声に振りかえる。
「・・・ええ、可哀想な人」
 フォスターが苦笑する。あんな思いをさせられながら、まだイザベルの身を案じるとは。
「あの、フォスター卿・・・」
「ええ、わかっています。イザベル夫人を救い出す手立てを考えてみましょう」
「ありがとうございます」
 心からの笑みに、フォスターは更に苦笑を深めて頭を掻いた。
「あなたの優しさは少々度が過ぎますな」
「そうでしょうか?」
「ええ。またいつ何時、ワイラーのような男に取り込まれて苦労するのではないかと、気が気ではありません」
「そんなことは・・・」
「ないと言えますか?」
 グランドマザーは頬を赤らめて俯いた。
「あなたの判断が、収監される娘達やマザー達の生活に、大きな影響を与えるのだということを、よく考えなければいけませんよ」
 お説教をする身であり、お説教をされることなど久しくなかったグランドマザーは、少し拗ねたような目をして、フォスターを見上げた。
「仕方のない人だ。もしもの時は、私があなたを叱ってさしあげます」
「まあ! あなたもワイラー様と同じですの?」
「そう、思いますか?」
 グランドマザーは静かな表情を湛えるフォスターをみつめて、黙って首を横に振った。
「私もできれば、あなたを叱ったりしたくない。ですから、あまり心配させないでください」
 そう言い残して立ち去ったフォスターの後ろ姿を見送って、グランドマザーは更なる頬の紅潮を覚えつつ、懲罰塔の瓦礫から、レンガの破片を一つ手に取った。
 それは、館長室の執務机の上に置かれ、長らく、早計の罪を忘れない為の戒めとされた。
 それをみつめて考えるのだ。
助け出したイザベルを仕置き館の下働きに雇い入れた時も、なかなか再教育が浸透しない娘がいる時の対処の時も、そして、互いに好意を抱き始めた、フォスターとの付き合い方を悩んだ時も・・・。


「どうして結婚しないのよ、ヴィクトリア」
 あれだけ痛い思いも怖い思いもしたくせに、まだ自分の趣味に懲りていないイザベルは、時折、娘達のお仕置きを覗き見しに行っては、度々グランドマザーのお仕置きを受けていた。
 今日もそれを見つけて館長室にイザベルを引っ張ってきたグランドマザーは、膝に乗せた彼女の言葉に、頬を熱くして平手を振り下ろした。
「私のことはいいのです! あなたという人は、本当に困った人ね」
「痛い! だって、好きなんでしょ、フォスター卿のこと。フォスター卿だって、あなたのこと・・・痛い痛い痛い!」
「私は神にお仕えし、この仕置き館を守っていく身です! 修道服を捨てる気はありません! そんなことより、反省しているの!? これで一体何度目ですか!」
「見るくらいいいじゃないのー、痛い!」
「ちっとも反省していないようね。今日という今日は、たっぷりお仕置きしてあげますからね、覚悟しなさい」
 一旦イザベルを膝から下ろし、道具を取りに行っている隙に、イザベルがコソコソと部屋を出て行こうとしている。
「――――イザベル!!」
 思わず声を高くしたと同時にノックが聞こえ、入ってきたフォスターに赤面。
「随分大きな声ですね、こんにちは、グランドマザー。こんにちは、イザベル、また悪さしたのかね」
「こんにちは、ヴィクトリアの愛しい方」
 ニッと口端で笑ったイザベルに、今度はフォスターが頬を赤らめた。
「さては君だな。オルガに妙なことを吹き込んだのは。そのせいで、大変なんだぞ、私は」
「あら、あなた自身がお望みのことのくせに」
「イザベル!」
 弱り果てて顔をしかめてみせたフォスターは、ヴィクトリアの視線に気付いて頭を掻いた。
「いやその・・・彼女がオルガに、グランドマザーがお母様になってくれるなどと言ったもので・・・、その、オルガがすっかり信じ込んでしまって・・・。お会いした時におかしなことを言い出すかもしれませんが、どうか、お気になさらず・・・」
「まあ。いえ、そんな、大丈夫、ですわ・・・」
 いい年をして初々しい二人を、ニヤニヤしながら眺めていたイザベルに、彼らの視線が集中した。
 そそくさと逃げ出すように館長室を出て行ったイザベルの背中を見送り、二人は大仰にため息をつく。
「後で、うんと懲らしめておきますから・・・」
「はは、そう願います」
 なんとなくの沈黙に二人とも所在無さげであったが、とりあえず、グランドマザーが紅茶を淹れたことで、他愛ない会話が復活する。
 この方が、気楽でいいグランドマザーだった。
 そもそも、イザベルが二人の仲を焚きつける魂胆もわかっているのだ。
 ヴィクトリアをフォスター家に嫁がせ、新しいグランドマザーに取り入り、自由にお仕置き見物ができる状況に持ち込もうとしているのだろう。
 ついでに、オルガを懐柔している理由も明白。
 フォスターがここへオルガと一緒にやってくる時、彼女に禁じている化粧道具や煙草の葉などを持ってこさせる為だ。
 まあ、これはオルガの素直さ故、大きな声で「いざべう、持って来たー」と言ってしまうので、今のところ尽く失敗に終わっているが、それでもあわよくばの成功を目論んでいるのだろう。
 助け出すまでの数カ月もの間、ワイラーに毎日のように折檻を受けてきたイザベルに、厳しくお仕置きをする気にはなれず、数々の問題にもお尻が赤く色付く程度で済ませてきたが・・・。
「そろそろ、きつく懲らしめてやらなくては・・・」
「え?」
「あ、いえ、イザベルのことです」
「ああ・・・。お仕置きを与えるのが好きと言う割に、子供のような人ですね、彼女は」
 まったくだ。
 短慮で誘惑に弱く、感情の赴くまま生きている様は、時折、羨ましくすら思う。
 彼女のように生きられたら、自分は悩むことなく、フォスターの腕の中に飛び込んでいくのだろうか。
 そう考えて、頬の紅潮を覚えたグランドマザーは、ティーカップを置いて立ち上がった。
「申し訳ありません、フォスター様。イザベルを放置しておけませんので」
「ああ、そうですね。では、そろそろ私もお暇します。・・・ああ、差しでがましいようですが、イザベルを元の修道院にお戻しになろうとは、お考えにならないのですか?」
「そう、ですね・・・、考えなくもなかったのですが・・・」
 感情の発露が直線的で手は焼けるが、ある意味素直なイザベルといると、自分も他のマザーに接するグランドマザーの顔でなく、喜怒哀楽を持つヴィクトリアという一人の女性でいられるのが、味わったことのない安らぎでもあった。それは、聖職者としてあるまじき思いかもしれないが・・・。
「なんだか、手のかかる妹のような気がして、放っておけないと申しますか・・・」
 フォスターが微笑んだ。
「それなら、結構です。あなたがまた、すべてを一人で背負い込もうとしてのことなら、叱らなければと思っていたのですが」
「まあ!」
「そんな顔をなさいますな。ただ、覚えておいてください。あなたがお困りの時は、必ず助けに参る者がいることを」
 しばし、フォスターと見つめあったグランドマザーは、こんな時、世の女性なら抱擁と口づけを交わすのだろうかと思いつつ、ただ、黙って両手を胸の前で合わせた。


「ホントにもうしないからー! 許してったら! 痛い痛い痛いーーー!」
 まだ作業ズボンの上からだというのに、いつもより数段痛いパドル打ちに、イザベルは手足をじたばたさせていた。
「今日はたっぷりお仕置きだと言ったでしょう。その上、途中で逃げ出したのですから、うんときついお仕置きになって、当たり前でしょう!」
 パーーーン!!と一際きついパドルを振り下ろされ、イザベルは背中を仰け反らせて、半ベソをかく。
「気を利かせてあげたんでしょー!」
「誤魔化されません」
 おもむろにズボンごとめくられた下着の下のお尻は、すでに鮮やかに色付いていた。
「いやーーー! ズボンの上からでも痛いのに・・・!」
「そういう思いをしている娘達を、面白がって覗いていた報いです」
「もうしませんーーー!」
「聞く耳持ちません」
 ピシャリピシャリと弾くように叩かれるお尻は、徐々にくっきりとした境目がわかるほどに赤くなってきた。
「ヴィクトリア! アンタ、自分が叩かれた恨みも込めてるでしょ!」
「困った人ね。お仕置きの何たるかがわかっていないから、そんな風に思うのよ」
「ただお尻を叩くのに、何がそんなに違うのよーーー!」
「それは、自分で考えなさい」
「痛い! 痛い! ぅわーーーん!」
 平手はもちろん、道具もかなり据えたお仕置きが済み、泣き疲れて長椅子でグッタリしていたイザベルの頬を撫でたグランドマザー。
「熱いわよ・・・手」
「ああ、では、タオルを冷やしてきましょうね」
「いらないわ。その手でいい」
「そう?」
 そのまま頭を撫でていると、イザベルが鼻で笑った。
「バカみたい。その手、腫れ上がってるわよ。明日、きついんじゃないの?」
 間接ごと腫れているグランドマザーの掌。
「そうね、明日はペンも握れないかもね」
「アンタ、お尻叩くの楽しくないんでしょう?」
「ええ、全然」
「それなのに、なんで自分が痛い思いまでして叩くのよ。道具を振った腕や肘だって、明日になれば筋肉が強張って辛いはずよ」
「かもね。でも、それであなたが良い子になってくれるなら、嬉しいわね。もう、こんな可哀想なお尻にしなくて済むのだもの」
「・・・バカみたい」
「そう?」
「ええ、バカみたいよ。あんな思いをさせた私にお仕置きを味あわせたいなら、元の修道院に放り込めば済むのに。この仕置き館は修道院の間でも評判がいいから、そこを追い出されたとなれば、私は院長様に厳しいお仕置きを受けるわよ。平手なんかじゃなく、ケインで嫌というほどお尻を打ち据えられるでしょうよ」
「あらあら、それが怖くて、ワイラー様の所に行ったの?」
 恥ずかしそうに黙って頷いたイザベルの髪を撫でる。
「アンタ、バカよ。私のお尻を叩いて、自分まで痛い思いをして。ホントに、バカ」
「これ。そう何度もバカという言葉を使ってはいけませんよ」
 ピシャンとうつ伏せになっているイザベルのお尻を叩くと、彼女も痛くて顔をしかめ、自らも、腫れた間接に響いて顔をしかめる。
 その顔を見合わせて、二人は笑ってしまった。


 数年後、グランドマザーの職務を辞したヴィクトリアは、フォスターと華燭の典を上げた。
 彼女の後任としてヴィクトリア以下マザーが満場一致で指名し、仕置き館の館長たるグランドマザーとなったのは、すでにマザーの中で誰よりも収容者の今後を案じてをお仕置きを施すことで誰からも慕われる存在であった、マザー・イザベルであった。





  • 【第7話 救いの手】へ
  • 【仕置き館のこと】へ

~ Comment ~

是非イラストでも

 こちらではもしかしてお久しぶりでしょうか?メディスパでお世話になっていた山田主水です。
 『躾の館改革編』拝見させていただきました。
 いやぁ、もう本当に素晴らしい!の一言に尽きます。マザー達の娘たちへの愛がひしひしと感じられて素晴らしいです。
 特に、後半のワイラー卿・イザベルによるグランドマザー・ヴィクトリアへのお仕置きが、素晴らしいなどというものでは足らないくらいでした。
 鬼畜でドSな二人がツボで、私自身スパ小説を書く際、二人のような気持ちで書くこともありますので、本当に気持ちがわかります。グランドマザーのお仕置きを受けている姿を見ている際のワイラー卿の感情、まさに私そのもののようでした。
 そして、かけがえのない娘達を守るため、身代わりとなってお尻を差し出し、二人の楽しみのための心身ともに過酷で屈辱的なお仕置きに耐えるグランドマザーが、本当に健気で美しく、それだけにかわいそうに思いつつも、凄く凄く萌えてしまいました。
 本当に萌えで萌えでたまらず、是非ともワイラー卿・イザベル/グランドマザーのスパ絵を是が非でも拝見したい!それこそ土下座してでも見たい、というくらいな気持ちになっております。
 本当にグランドマザーが素敵で素敵で、最近全然/Fスパは書いていないのに、もし許可していただけるのなら、是非ワイラー卿やイザベルによるグランドマザースパ小説を書かせていただきたい、そんな風にも思っております。
 遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

NoTitle

このお話をたまたま見つけて、読んでみると最初は怖いとか痛いって思ったけど最終的には泣きそうになりました!
本当におもしろかったです。続編もみたいです。

スケールの大きな話に感動です

 とにかくスケールの大きな話ですね。
 スパンキングものというと今は総じてチマチマした日常生活を
題材にしたお話が多いのに、これは歴史ドラマの風格を感じます。
 マルキ・ド・サドの悪徳の栄え(美徳の不幸)やヴィクトリア
朝時代に盛んに出版されたという鞭撻小説を想起させてくれて、
楽しく読ませていただきました。
 私もかつては富士見ロマン文庫なんてのを読んでいましたから
こうした古典的な世界には心がときめきます。
 随分と以前に執筆された作品のようで、今さらコメントを寄せ
らせてもお困りなのかもしれませんが、ご容赦ください。
 折あらばまた覗かせてください。これからも良質な作品を期待
いたします。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【第7話 救いの手】へ
  • 【仕置き館のこと】へ