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仕置き館

第7話 救いの手

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 「――――ろ、く・・・なな、あっ・・・ は、ち・・・」
 いくら叩いても一声も上げないグランドマザーに苛立っていたイザベルは、数を数えさせることを思いついた。
「く・・・ぅ、・・・じゅ・・う」
 痛みに上がりそうになる声を堪えるために歯を食いしばり、口を一文字に結んでいたグランドマザーだが、口を開いて声を発する行為によって、それができなくなり、痛みと並行して、数を数える声に呻き声が混じり出す。
「じゅう・・・い、ち・・・」
「声が小さいわよ!」
「あ! ・・・じゅ、にぃ!! じゅう・・・さ、んー! ああ! じゅう、しっ・・・」
 ワイラーは満足げにそれを眺めていた。
 やっと、理想通りに膝で痛みに呻くグランドマザーが拝めた。気の合った同好の志のお手柄だ。
 グランドマザーに引けを取らない美しい容貌のイザベルは、ワイラーをますます夢中にさせた。
 膝の上で百を数えさせたイザベルは、反省の時間と称して、グランドマザーにお尻を出して立ったまま膝を抱えさせる、きつい姿勢を要求し、少しでも動けば、ぴしゃりとケインを据えた。
 シンと静まり返る収容者をバックに、純白の百合を深紅の薔薇が戒める絵は、ワイラーを陶酔させる。
 いい女を手に入れた。
 この女のお陰で、自分の趣味は何倍にも楽しみを広げるだろう。
 数十分も辛い姿勢をとらされ、とうとうよろめいて地面に伏したグランドマザーに、イザベルの叱責が飛ぶ。
「誰が姿勢を崩していいと言ったの? 悪い子ね、立ち上がって、お尻を出しなさい!」
 グランドマザーはヨロヨロと立ち上がり、自ら裾をまくってお尻を出すと、そのお尻にイザベルがケインをそっと当てる。
「さあ、お仕置きのお願いは?」
 唇を震わせたグランドマザーが、「・・・お仕置き、お願いします・・・」と言った。
 イザベルのケインがグランドマザーのお尻に据えられる。
グランドマザーが、顔を歪めて仰け反った。
惚れ惚れするような光景。
 以前、女性をいたぶるのが趣味の仲間とメイドのお仕置きを共に楽しんだのだが、彼らは姿勢を崩したメイドに、すぐ鞭を振るって痛めつけてしまう。主催者の意向に添って、お尻だけを打ってはいたが、違う、そうじゃない。それでは、面白くない。
 反して、イザベルはどこまでも、ワイラーの楽しめる状況を作り上げてくれた。
 実に素晴らしい!
「さあ、仕上げのお仕置きは、ワイラー様にお願いしなさい」
 イザベルが手渡したのが、小振りのパドルであるのを見て、ワイラーは心の底からイザベルを称賛した。
――――敢えて膝の上で振れる道具を選択するとは、どこまで私を喜ばせるのか・・・!
「・・・ワイラー様・・・、仕上げのお仕置きを、お願いします・・・」
 震える手で差し出されたパドルを受け取り、グランドマザーを膝に乗せる。
 膝の上で項垂れるグランドマザーに、イザベルは更なる追い打ちをかけた。
「一発ごと、「ワイラー様、ごめんなさい」と、申し上げるのよ」
 満遍なく、ゆっくりと一発一発パドルを据える。
「う・・・、ワイラー様・・・ごめんなさい・・・」
 至福の時。
 純白の百合を征服できた瞬間に思えた。


 やっと修道服の下にお尻を戻せたグランドマザーは、ワイラーとイザベルの乗った車を、あくまで礼儀正しく見送ると、よろめいて門扉にもたれた。
「グランドマザー!」
 収容者達が彼女を取り囲む。皆、涙で顔をクシャクシャにしていた。
「大丈夫ですか、グランドマザー!」
「大丈夫。皆さんと同じくらいよ」
「じゃあ、大丈夫じゃないです!」
「あらあら・・・」
 熱くジンジンとするお尻を庇いつつ、ついつい笑ってしまった。
「私達のせいで・・・なんてこと! ごめんなさい、グランドマザー、ごめんなさい・・・!」
 一際泣きじゃくって謝るのは、懲罰塔の娘達だった。
 彼女達を一人一人抱きしめて、グランドマザーは耐えて良かったと心から思った。
 もう、二度とこの娘達に会えないかもしれなかったのだから。
 ポツンと突っ立ったっていた娘に、グランドマザーが近付く。
 どこか焦点の定まらない目をした娘は、最初に懲罰塔に送られ、あそこで1年以上過ごしたシャルルだった。
「シャルル、シャルル、わかりますか? 私です、グランドマザーです。大丈夫ですか?」
 シャルルの頬を両手で包み、グランドマザーは彼女と視線を合わせた。
「グランド・・・マザ」
「はい、そうですよ。グランドマザーです。あなたは、懲罰塔を出られたのですよ。もう毎日お仕置きされることはないんです。わかりますか? もう懲罰塔に戻らなくていいの。出ることを許されたのですよ」
「・・・あ・・・ああ・・・ぅわあーーーん!!」
 茫洋としていた瞳に徐々に生気が戻り、わんわんと子供のように泣き始めたシャルルを掻き抱く。
「怖かっ・・・毎日、毎日・・・!」
「辛かったわね、シャルル。皆さんも・・・。ジジ、アデル、マリア、クロア、リズ」
 懲罰塔の薄暗い独房の中、名前すら呼ばれることがなくなった日々。
 ただただお尻を戒められて過ごすだけの毎日。
 自分達がグランドマザーやマザーの教えにそっぽを向いたせいなのはわかっていた。
 こうしていれば、ああしていれば。後悔ばかりの日々。
 たまに小さな窓から聞こえてくる、仕置き館の収容者達の笑い声。
 厳格な規律正しい生活にしか目がいかなかった仕置き館での日々は、懲罰塔に送られて、初めて、こんな時間もあったことを思い出す。
 昼食の後には、必ず自由時間があった。
 本を読んでもいいし、絵を描いていてもいいし、中庭で遊んでも良かった。
 マザーも混ざって球技に興じたり、ゲームをしたこともあった。
 そんな楽しい時間は、外に出て気ままで気楽な娼婦でいたい気持ちで目隠しされた。
 結果、シャルル・クロア・リズの3人は、二十歳を超えても同じ過ちを繰り返して懲罰塔に送られ、ジジ・アデル・マリアの3名は、繰り返し仕置き館脱走を計っては連れ戻され、それが二桁に達した時、懲罰塔へ。彼女らは、まだ16~18歳だった。
 一生ここから出られないという絶望はグランドマザーへの恨みを掻きたてたが、実はこの懲罰塔が、グランドマザーの本意でないことを懲罰塔仕置き官に知らされた時は、涙が止まらなかった。
 そして今、背いた自分達の為に、あんな目に合わされ、それでも微笑んでくれながら、6人全員の名前を覚えていてくれたグランドマザー。
「ごめんなさい、グランドマザー! ごめんなさい!」
「いいの、いいのですよ。私でも、お仕置きを受けなければならないこともあるのです」
「あんなの、お仕置きではありません!!」
 グランドマザーは黙って微笑むと、娘達の顔を見渡した。


 ともあれ、味わった屈辱と痛みの条件は了承されたのだから、住み込みで働ける先に、せっせと娘達全員分の紹介状を書いていたグランドマザーの元に、マザー達から娘達の意向を伝えられた。
 こんな形でなく、通常通りに仕置き館での生活をやり終えて、その上で退館許可を経て外に出たい・・・と。
 そんな気持ちの成長自体が退館許可に値する。
 グランドマザーはとても嬉しく思ったが、反面、これからを考えると、ため息が漏れた。
 結局、ワイラーには定期的戒めの日の撤廃も懲罰塔の廃止も認めさせられず、懲罰塔の娘達を出してやれただけ。これでは、なんの問題解決にもなっていないのだ。
 彼らは彼らが見たいだけで、戒めの日執行を要求してくるだろう。
 懲罰塔が存在する以上、またいつ何時、懲罰塔送りの者が出るやもしれない。
 ワイラーの発言力を削るだけの寄付金がいる。
 翌日から毎日、グランドマザーはマザー達に娘らを任せ、朝早くから夜遅くまで、寄付金集めに歩き回った。
 仕置き館の信頼度は、寄付金を集めるのに高い効果を発揮したが、仕置き館の土地や建物自体がワイラーの所有物である限り、地道な寄付金集めだけでは彼の発言権に対抗し得ないのもまた、厳しい現実であった。
「やあ、おかえり、グランドマザー・ヴィクトリア」
 館長室に悠然と座して彼女を出迎えたワイラー卿とイザベル。
「・・・こんにちは、ようこそ、ワイラー様」
「寄付金集めに奔走しているそうだね。成果はどうかね? この土地を買い取れそうかね」
 ニヤニヤとするワイラーに、グランドマザーはただ静かに微笑んだだけだった。
「今日寄ったのはね、この土地の名義が、妻に移ったことを知らせておこうと思ってね」
「奥さま・・・?」
 ワイラーは独身のはず。・・・ああ、そういうことかと、グランドマザーはイザベルに頭を垂れた。
「ご結婚おめでとうございます、ワイラー夫人」
「ええ、ありがとう。そういうことだから、もしここを買い取れるだけの寄付が集まれば、私に頭を下げて頼みにいらっしゃいな」
 強力な発言権を持つ者が二人になったということ。
「さあ、せっかく来たのだし、戒めの日を見学させてもらうか。イザベル、名簿から、適当に5名ほど見繕ってくれ」
「待ってください!」
 イザベルが名簿を手にしたのを見て、グランドマザーは思わず声を上げた。
「お願いです。どうか、どうか無慈悲な戒めを更生に励むあの子達に課すようなことを、なさらないで」
「まあ! 無慈悲ですって? 売春の罪人に住処を与えて、不自由ない食事を施してやっているの、なんて恩知らずなことが言えるのかしら」
「い、いえ、そのようなつもりは・・・」
「そんな悪い子はお尻に言い聞かせなくちゃ。ね、あなた」
「――――!」
 また・・・。
 グランドマザーの要求を弱みとされた以上、彼らはこの先幾度でも、彼女にお尻を出させる口実とするのだろう。
「・・・私が娘達の戒めの日の分を贖います。ですから・・・」
「まあ。お仕置きを受ける立場で、条件などつけてきましたわよ、あなた」
 ワイラーが立ち上がり、グランドマザーの周りを一回りして彼女の立ち姿を楽しむと、修道服に隠れているお尻を思い出すように眺めた。
「イザベル、お前が最初に恩知らずなヴィクトリアという女のお仕置きをしなさい。それから私が、罪人の身代わりになろうという、高潔なるグランドマザーの心意気に応えよう」


 ワイラー夫妻が出ていくと、グランドマザーは腫れ上がったお尻をそっと擦って顔をしかめ、それからヨロヨロと長椅子にうつ伏せに横たわった。
――――試練は、いつまで続くのか・・・。
 長かったお仕置きが終わって、これで定期的な戒めの日をなくすことができたと、ホッと胸を撫で下ろしていたグランドマザーに、ワイラーは無情な言葉を浴びせたのだ。
「では、今日の戒めの日は、これで免除としよう」
 グランドマザーは我が耳を疑い、弾かれるようにワイラーを見上げた。
「戒めの日は、撤廃してくださると・・・」
「そんなことは一言も言ってない。私が言ったのは、今日の戒めの日の身代わりだ」
「そんな・・・」
「私達が訪問しなくても、今まで通り、戒めの日を怠ってはいけないよ。もし、私達が来ないからと戒めの日をサボったりすれば、きついお仕置きが待っているからね」
 歯を食いしばる。
「こうして訪問した際、戒めの日の身代わりになるかどうかは、君が決めればいい。辛ければ、収容者達に戒めを与えてくださいと言えばいいからね」
 娘達を差し出すような真似を、グランドマザーができようはずもない。
 即ち、ワイラー夫妻が来ない間の戒めの日が執行されないことも、彼らは計算済み。
 完全に、取り込まれた。 彼らはグランドマザーの制裁与奪を思うままにしたのだ。
 いつでも、グランドマザーのお尻を剥き出しにして叩く方法を手に入れた。
 今日は、そのことをグランドマザーに思い知らせる為に来たのだろう。
 うつ伏せのまま、震える吐息。
 仕方がない。
 自分がこうされることで娘達を守れるのなら、いくらでもお尻を差し出そう。
 だが、耐えてばかりいては彼らの興が冷め、身代わりを他のマザーにとでも言い出しかねない。
 先日の公開仕置きの際、それを学んだグランドマザーは、今日は彼らが喜ぶ程度に、泣いたり許しを乞うたりした。それが何より一番屈辱的であったが・・・。
 なんだか疲れた。このまま、少し眠ろう。
「ねんねん?」
 いきなり長椅子の背もたれの上からした声に、グランドマザーは驚いて体を起こす。椅子にお尻がトンと触れ、その痛みに思わず首をすくめてしまった。
「痛い痛い? だいじょぶ?」
 背もたれの向こうから覗いていたのは、13~14歳くらいの黒髪の可愛らしい少女だったが、そのたどたどしい口調は、幼児のようでもある。
「あなたは? どこから来たの?」
「そこ」
 少女がドアを指さした。質問の意図が伝わっていないらしい。
「――――オルガ! どこだい。出ておいで」
 廊下から聞こえた声に、少女は子猫のようにピクンと反応してドアを見ると、
「ふぉすた、オルガ、ここー」
 ドアがノックされて、グランドマザーが返事をすると、身なりのいい紳士が入ってきた。
「失礼します。こんにちは、はじめまして、グランドマザー。私は伯爵家のフォスターと申します。申し訳ありません、うちの子が勝手に入り込んだりして」
 フォスター伯爵家なら知っている。仕置き館を退館したマザーの子も、数人世話になっている。
 背もたれの向こうから出てきて、フォスターの腰にしがみついたオルガという少女に、彼は顔をしかめて見せた。
「オルガ、知らない場所で勝手に私から離れちゃダメって、いつも言っているでしょ」
「はぁい」
「ほら、グランドマザーにご挨拶は?」
「こんにちは、ぐらんま」
 蕾がほころぶような笑顔に、グランドマザーもつられて微笑んだ。
「はい、こんにちは、オルガ様。あの、フォスター卿、今日はどのようなご用件で・・・」
 もしや、このオルガの躾け教室申し込みかと思ったのだが、フォスターの用向きは違った。
 彼の話に、グランドマザーは両手を合わせて感謝した。
 ここのところの経緯を、フォスターは自分の屋敷に務めるマザーの子から聞き及び、継続的な多額の寄付の申し出にきてくれたのだ。
 ワイラーの親切を鵜呑みに信じて犯した早計の罪のことがあり、このフォスターの全面協力の姿勢を少し心配したが、彼が連れているオルガという少女の健やかさを見るに、信じてもいいような気がする。
「ワイラー卿の仕置き館私物化を止めるには、やはり、この土地を買い取ることが先決でしょう。私が交渉に当たります」
「ありがとうございます。けれど、彼らは恐らく、この土地を手放そうとはしないでしょう」
「そうであれば、私の領地に新しい施設を設けますよ。それには、施設の建設などで、少々時間がかかりますが」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
 希望が見えてきた。


 
  


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