仕置き館

第6話 仕置き館改革案

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 売春で逮捕された未成年の娼婦は、仕置き館に収監され、その罰にお尻にきつい戒めを受け、社会復帰の為の再教育を施される。
 その方針は、グランドマザーも吝かではない。
 性を売り物にするのは、許されざる罪なのだから。
 その行為は自分を貶めるばかりか、世の男性が女性というものを軽んじる思想を生み、結果、女性全体の価値を下げる。
 生活の為だと安易に春を売った行為は、きつく戒められなければならない。
 その点において、グランドマザーも容赦はない。
 だが、彼女らは子供なのだ。
 罪人のように背中を鞭打ったりするより、母親が子供を躾けるように、お尻を叩くお仕置きが適当で安全だと思っている。無論、口で言ってわかるなら越したことはないが、すれた娘達が一筋縄でいかないことくらい、グランドマザーにもわかっていた。
 ただ・・・。
 売春によって逮捕された罪を贖うのは、一度で十分ではないだろうか。
 後は、日々の生活の中、課せられた義務を怠る場合のみ、お尻に戒めれば良い。
 ここに収監されたという罪を、ここにいる間に幾度も呼び出されて罰せられては、折角、更生しようという意識を持った者の気持ちに、水を差すだけではないか。
 そして、一度ここに収監され、再教育を経て退館した者が、再び同じ過ちを繰り返した時、それが21歳以上であれば、刑務所でなく、仕置き館が再教育失敗の責任を取る。
 このシステムにも、異論はない。が、それが、仕置き館の再教育の手を離れ、仕置き館のマザーが関われない懲罰塔に一生囚人として繋がれるというのは、あんまりではないか。
 そもそも、それでは仕置き館が責任を取ったことにならない。
 どれだけ時間をかけても更生させ、健やかに、社会に返す。
 それこそが、「責任を取る」ということではないのか。
 即ち、懲罰塔の存在意義がない。
「――――収監者の定期的戒めの日の撤廃。懲罰塔の廃止。これが、提案というわけかね、グランドマザー・ヴィクトリア」
 マザー会議の決定書面を眺めたワイラー卿は、前に立つグランドマザーに笑いかけた。
 ワイラー卿は、仕置き館設立に多額の寄付金を以てして答えてくれた、言わばオーナーのような存在である。
 仕置き館の関係者・収監者の生活面を維持する為には、やはり資金がいる。ただ刑務所に送るだけだった未成年者売春婦を仕置き館に送ってもらうパイプラインを整えてくれる人もいる。
 グランドマザーの娼婦更生施設案に賛同し、親身になって世話を焼いてくれたワイラーを、彼女は信頼した。いや、してしまった。
 実際、ワイラーはグランドマザーの夢だけで終わりそうだった更生再教育施設を、その地位と財力で、あっという間に具現化してしまった。
 グランドマザーはとても感謝したが、ワイラーの思惑に気付いた時は、すでに遅かった。
 彼は、あのイザベルと同じく、叩かれて赤く腫れた女性のお尻をこよなく愛する性癖の持ち主だったのだ。
 週に一度、彼は視察と称して、「戒めの日」や収監者の娘達の生活ぶりを見学するし、仕置き官として、その戒めにも加わる。
 幾度も見てしまった、ワイラーの笑み。
 この世に、お尻を叩かれて泣く者や叩かれて赤く腫れたお尻を見て、悦ぶ人間がいるなどと思いも寄らなかったグランドマザーは、彼の力にすがったことを、心から後悔した。
 志だけでは賄えない仕置き館における、出資者ワイラーの発言権は大きかった。
 収監期間中、幾度もその罪を贖わせるというワイラーが定めた決まりにも逆らえず、彼が楽しんでいることを承知の上で、彼の見学とお仕置きへの参加を承諾しなければならず・・・。
 しかも、極力お仕置きをしたくないグランドマザー以下マザー達のやり方に面白みに欠けると判断したワイラーが、懲罰塔を提案した際、寄付金提供打ち切りへの恐れから強く反対もできず、了承してしまった。
 自分達が尽力し、懲罰塔へ送られる者を作らねばいいと・・・。
 だが、実際6人の懲罰塔送りを出している。
 すべては、仕置き館設立の際、自らが犯した早計の罪。
 だが、仕置き館出の「マザーの子」らが、それを救ってくれるかもしれない。
 「マザーの子」を範に、両親が娘の躾け直しを嘆願に来る状況は後を絶たないし、逮捕した売春婦を仕置き館に送った方が良いという司法の意識も確立された。
 「マザーの子」のお陰で、寄付金集めも順調だ。
 これなら、ワイラーの出資に頼らずとも、仕置き館を維持できる可能性が・・・。
「私の力なくしても、仕置き館が維持できる可能性があるとわかった途端、造反かね。あざといね」
 クスクスと笑うワイラーに、グランドマザーは目を見張った。
「そのような・・・!」
「その通りだろう?」
 唇を噛む。
 確かに・・・そうだ。
「造反のつもりは、ございません。この提案書に了承くださるなら、ワイラー様が主たる仕置き館のままで・・・」
「私の望む仕置き館は、この提案書にない。それを覆そうというなら、それは造反というのだよ」
「・・・では、では、せめて、懲罰塔に収監されている6名を、すぐ釈放とは言わずとも、仕置き館に戻してはくださいませんか。一生幽閉されるなど、あまりに不憫です。初めて送られたシャルルは、すでに1年以上幽閉されています。このままでは・・・」
「シャルルというのかどうかは知らんが、最初の囚人は、そろそろおかしくなりかけていたな」
「――――! 手遅れになる前に、早く・・・!」
「ヴィクトリア、あの囚人たちは、仕置き館の再教育が浸透しなかった罪を戒められている。引いては、再教育に失敗した君の責任だ。彼女らを懲罰塔から出したければ、君が彼女らの分の罪を贖わなければ」
「――――!!」
 ニヤリとしたワイラーに、グランドマザーは愕然とした。
 この男は、グランドマザーたる私のお尻を狙っているのだ・・・と。
――――私こそ、罰を受けなければ・・・。
 そう言った自分の言葉を、鮮明に思い出す。
 そうだ。これは、ワイラーを出資者として発言権を持たせ、マザー・イザベルにマザーの任を与えた、自らの罪。
「私が娘たちの罪を、この身で贖えば・・・彼女らを、懲罰塔より解放していただけるのですね?」
「ああ、約束しよう」
「・・・わかりました・・・」
 グランドマザーは覚悟を決めた。
 これは、神よりの罰なのだ・・・と。


 ワイラーは興奮を隠し、落ち着いた素振りを装うのに必死だった。
 グランドマザーという仰々しい名で呼ばれながら、まだ30代前半の魅力的な女性。
 年若い少女にはない、匂い立つような艶美な肢体。それを修道服に包み、目に見せないもどかしさ。
「おいで、お仕置きだよ」
 椅子にかけ、膝を叩く。
 グランドマザー・ヴィクトリアは、羞恥の表情と、我が身を犠牲にしようという聖者の表情とを入り混じらせ、ワイラーの欲望を最高潮に湧き立たせる空気を醸し出していた。
 高潔な、この女を征服できる。それは至上の悦びだった。
 女のお尻をいたぶるのを最上の趣味として好み、その地位と財力にあかせて、数多の女達のお尻を赤く染め上げてきた。
 ただ叩くだけでなく、大人の体をした女が幼い子供のようにお尻を剥き出され、それに恥じらい、泣きながら許しを乞う姿が好きなのだ。だから、いつしかそれを悦びに換えて応えてくる女には、飽き飽きしていた。
 生真面目に、たかが売春婦の行く末を案じる修道女を見た時、これは楽しめると思った。
 地味な修道服に包まれた、年の頃に見合う尻を想像するだけで、興奮した。
 年若い娘の張り切ったお尻も好きだが、円熟した女の、熟した果実のようなお尻は、一際、ワイラーの興味をそそった。
 それが、神に仕え、男性に見せることない高潔さを保っていれば、尚のこと、剥き出しにしてみたくなる。
 そして、それが自らの手で真っ赤に腫れ上がれば・・・。
 ヴィクトリアが、覚悟を決めた顔と屈辱に歪めた顔とを交差させ、彼の膝に腹這いになった。
――――パン!
 修道服の上から、膝の上で丸く張ったお尻を叩く。
「あ・・・!」
 漏れた声は、ますますワイラーの心に火を点けた。
 痛いと言わせたい。「ごめんなさい」と泣かせたい。
――――パン! パン! パン!
 立て続けに平手を据えたが、ヴィクトリアはもう、一声も漏らさなかった。
 それこそが、彼女の悲劇を招く。
「お仕置きが足りないようだな」
 ワイラーは、修道服の裾を腰までたくし上げた。そして、彼女のお尻を唯一守るものとなったドロワーズも、足の付け根までずり下げる。
「あ・・・」
 ワイラーの興奮は、絶頂に達した。
 楚々として清らかなグランドマザーのお尻が、自分の膝の上で丸出しになっているのだ。
 想像以上だった。
 滑らかに白く、肉付きがいい。こつんとした丘が、行儀よく並んでいるような、幅広過ぎず、小さ過ぎず、薄っぺらくもなく、形の良いお尻だ。
 立って過ごすことが多いせいか、同い年の貴族の婦人のお尻より垂れていないし弾力も良さそうだ。
 それは年若い娘のお尻には多くいるが、それとはまた違う、匂い立つような色香を感じさせる肉の配分。
――――美しい・・・!
 ワイラーは、膝の上にあるヴィクトリアのお尻を、たっぷりと鑑賞した。
 恥ずかしさに汗ばみ、無意識か意識の上か、どちらともなくもじもじとするお尻が、たまらなくワイラーをそそった。
――――パーーーン!
「・・・!」
 痛みに上がりそうになる声を押し殺す為に、ピクリと震えるお尻が、またワイラーを満足させた。
 幾度も幾度も叩く。
 徐々に上がり始めたヴィクトリアの小さな呻き声は、今まで叩いてきた女のどんな喘ぎ声よりも、ワイラーには美しい調に聞こえた。
 白かったお尻が、赤く染まっていく。
 もっと・・・もっと・・・もっと・・・!!
 無我夢中でヴィクトリアのお尻に平手を据えた。
「・・・! ・・・! ・・・!」
 泣けばいいのに・・・。
 痛みに応えるお尻の表情はあれ、無言で堪えるようなヴィクトリアに、徐々に不満が頭をもたげる。
 耐えている、この女を泣かせたい。
 その思いはどんどん膨らみ、より厳しいお尻叩きへとワイラーを誘った。
 本当は、膝に腹這いになる彼女が泣きじゃくる姿が見たくて、膝の上で使える道具をひとしきり振ったが、それでも耐えるヴィクトリアを、ついに膝の上から下ろす。
「椅子に手をついて、お尻を突き出しなさい」
 わざと聞こえるように、ケインを背後で振って、空を切る。
 ヒュン! ヒュン!
 今までの女達が、聞いただけで泣き出して許しを乞うた威嚇。
 だがヴィクトリアは、押し黙って、ワイラーにお尻を差し出していた。
「・・・怖いだろう?」
「はい。けれど、これは神から与えられた罰です」
「神?! お前のお尻を戒めているのは、私だ!!」
 怒りに任せたケインが、ヴィクトリアのお尻を襲った。
「――――!!」
 仰け反る。
 けれど、やはり声も上げず、お尻も逃がさず。
 その毅然たる姿は、ワイラーを更に苛立たせた。


 ヴィクトリアのお尻は、痛々しいまでに赤く腫れ上がっていた。
 けれど、頑なに泣きごと一つ言わない彼女の背後で、息を切らせていたのはワイラーの方だ。
「強情な女め・・・!」
 やおら、甲高い女の笑い声が響いた。
 ヴィクトリアではないその声は、戸口にもたれたイザベルの笑い声だった。
「いい格好ね。素敵な眺めだわ」
「イザベル・・・!?」
 これには、さすがにヴィクトリアも声を上げた。
「どうして・・・!」
「あなたに仕置き館を追われた日、訪問なさるところだったワイラー卿に助けていただいたのよ。同好の志として」
 すでに修道服を捨てたらしいイザベルは、けばけばしいドレスに身を包み、ワイングラスを揺らしながら、ヴィクトリアの姿を優越感いっぱいに見下ろしていた。
 そして、ワイラーの首に両腕を絡みつかせると、
「ワイラー卿? とても美しい赤く腫れたお尻だけれど、物足りないわ」
「どうしたいのかね? 言ってごらん」
「あのね・・・」
 ワイラーの耳元で囁くイザベル。
 同好の志は、男女の親睦も深めているのが、手に取るようにわかる様子だった。
 ワイラーも、貴族仲間で女性をいたぶって楽しむ趣味の持ち主は男女共にいくらか知り合いがいたが、自分のように、ただただお尻だけを好み、それも丸裸よりお尻だけを剥き出しにしてなど、かなり細かなシチュエーションなどを理解できる者はいなかった。
 故に、イザベルとの趣味嗜好の合致は、急速に彼らの間柄を親密にさせるに十分だった。
 ニヤリとしたワイラーは、静かに頷くと、ヴィクトリアにお尻をしまうように命じた。
「この程度で、懲罰塔の者6名の罪は消えない。後日、仕置き館で会おう。グランドマザー・ヴィクトリア?」
 途方もなく、悪い予感。
 けれど、懲罰塔に送られた娘達を守るためには、どんなことにでも耐えなくてはと、グランドマザー・ヴィクトリアは歯を食いしばっていた。


 仕置き館の中庭に、収容者、並びに、懲罰塔の収監者が一同に集められたのは、グランドマザー・ヴィクトリアのお尻の腫れと痣とが引いた、一ヵ月後だった。
 中庭の中央に立たされたグランドマザーの覚悟は決まっていた。
 恐らくは、この衆人環視の中、お尻を丸出しにされて叩かれる。
 その予想は当たっていたが、その執行人が、イザベルであったことに、ヴィクトリアは更なる屈辱に震えた。
「お前たちのグランドマザーが、お前たちの罪をその身で引き受けてくれるそうだ。これから、グランドマザーのお仕置きを執行する。それが済めば、この場にいるお前たちは、全員釈放としよう!」
 ワイラー卿の言葉に一同はどよめき、イザベルが目を剥いた。
「ちょっと! 収監者を全員なくしたら・・・!」
「大丈夫だ。娼婦など、いくらでも補充がきく」
 イザベルの耳元でワイラーが囁くと、彼女はニヤリとして頷いた。
 イザベルは、グランドマザーの立つ中央へゆっくりと歩を進め、用意させた椅子に悠然と身を委ねた。
「さあ、いらっしゃい。お仕置きよ」
 グランドマザー・ヴィクトリアは、自分が娘たちにそう教えてきた通り、自らイザベルの膝に腹這いになる。だが、お尻を丸出しに剥かれた瞬間、やはり屈辱は拭いされず、体は小刻みに震えていた。
 それを膝で感じ取ったイザベルが、クスクスと笑う。
「怖いの? それとも、悔しいのかしら? 自分が追い出した女の膝の上で、お尻だけ丸出しなんて、情けない格好にされたんですものねぇ」
 グランドマザー・ヴィクトリアは、硬く口を閉ざしていた。
「お返事は!?」
――――パーーーン!
 イザベルの平手が振り下ろされた音に悲鳴を上げたのは、グランドマザーではなく、それを見せられている収容者の娘達であった。
「怖くは、ありません。そうですね、悔しいのでしょう。けれど、悔しいなどという感情を抱く、私が未熟なのです」
 淡々と答えたグランドマザーに、イザベルの怒気が閃く。
「何なの、その生意気な返事は! お前はお仕置きを受ける身なのよ!」
――――パーン! パーン! パーン!
 立て続けに振られる平手に、娘達が泣き声すら上げた。
「やめて! やめて! ああ、グランドマザー!」
 彼女の人望を感じさせる娘らの反応は、イザベルの更なる苛立ちを掻きたてた。
 イザベルの思惑と違う。
 公開で惨めにお尻を叩かれるグランドマザーは、笑い者になるはずであったのに。
「うんと厳しいお仕置きになるからね! 覚悟なさい!」
 苛立つイザベルは、椅子の横にかけてあったパドルを取り上げた。
 グランドマザーのお仕置きは、始まったばかり・・・・・・。



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