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仕置き館

第5話 お仕置きの在り方

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 グランドマザーは懲罰塔の前に立っていた。
 仕置き館敷地内にありながら、グランドマザー以下マザー達が、関わりを持たない場所。
 分厚い石の壁に囲まれた、完全なる牢獄。
 仕置き館が創立して、5年。
 この懲罰塔が立案されたのが3年前。
 3年間、ここへ送られる者が出ぬように、精一杯再教育尽力したつもりであったが、結局、仕置き館脱走を繰り返した未成年者の収容者たちも含め、6人もの投獄者が出てしまった。
 初めての投獄者がここに送られて、もう1年以上が経過している。
 この懲罰塔の存在は、グランドマザーの望むところではない。
 古い窓枠から、囚人の悲鳴が漏れる。
「ごめんなさい! ごめんなさいーーー!」
 グランドマザーは硬く目をつむり、その場を立ち去った。
 更生の見込みなしと、一生外へ出さないなど、ましてや、一生許されることなく、お尻に戒めを受け続けるなど、あまりにも、哀れな6人の娘たち・・・。
 

 「失礼します。3班のコゼットです。こんばんは、グランドマザー」
 館長室にやってきた収容者の娘の、礼儀正しい訪問に、グランドマザーは柔らかく微笑んだ。
 再教育の成果をこうして感じられるのは、実に喜ばしい。
「こんばんは、コゼット。どうしましたか?」
「はい、今日はグランドマザーに聞いていただきたいことがあって・・・。消灯までには部屋に戻ります」
「聞きましょう。どうぞ、そこへお座りなさい」
 示された椅子に腰を下ろしたコゼットが、複雑な笑みを浮かべた。
「何?」
「いえ、その、この椅子には、お仕置きの時にしか近付いたことがないので、普通の椅子として使われるのが、妙な気持ち」
「あらあら」
 グランドマザーはお尻を擦る仕草をして笑うコゼットに、思わず声を出して笑った。
「グランドマザー、私は来週には退館です。ここを去る前に、どうしても、グランドマザーにお伝えしておきたいことがあって来ました」
 そう前置きしたコゼットは、少し言い出しにくそうに、口を開きかけては結びを繰り返したが、やがて、決意したように、グランドマザーを見た。
「マザー・イザベルのことです」
 マザー・イザベルは、半年前に地方の修道院からやってきた、新任マザーである。
「マザー・イザベルのお仕置きには、違和感を感じます」
「違和感とは?」
「どう表現していいのかわかりません。ですけど、グランドマザーや他のマザーから受けるお仕置きとは、何か違うというか・・・違和感を覚えるんです」
「厳しすぎる?」
「いえ、特に厳しいというわけでも・・・」
「でも、『違和感』なのね?」
「はい! 私だけではありません。3班のみんな、同じ意見で、私が代表で来ました。他の班の子も、同じ意見だそうです」
「・・・わかりました。ありがとう、コゼット。そろそろ消灯時間です、お部屋にお戻りなさい」
「あ、あの、グランドマザー・・・」
 心配そうなコゼットに、グランドマザーが微笑む。
「大丈夫よ。こんなことで、退館延期を考えるようなことはありません。あなたは退館まで、頑張って色々学びなさい」
 館長室を退室したコゼットを見送り、グランドマザーは自分の至らなさを恥じていた。
実は、イザベルのことに関しては、他のマザーからも、おかしな報告を受けていたのだ。
「――――私はいつから、『戒めの日』に参加させていただけるのかしら?」
 戒めの日とは、売春の罪に処罰を施す日のことで、仕置き館に収容された娘は、収容期間中、幾度か呼び出されてお仕置きを受ける。
 それが仕置き館設立の際からの決まりだが、この戒めの日の仕置き官になることを、マザー達は一様に嫌がっていた。
 すっかり改心して再教育も浸透し、いつ退館させてもいいような娘すら、収容前の罪をお仕置きするのだから、胸が痛まないはずはない。
 その戒めの日を心待ちにするようなイザベルの発言は、コゼットの言うところの、「違和感」を感じるのは確かだ。
 イザベルの行動は、仕置き館設立の際にグランドマザーが犯した、早計という過ちを彷彿とさせた。
 そのイザベルを、出身修道院だけ信じて仕置き館のマザーの任に就かせたのは自分だ。
「未熟者。何が、グランドマザーですか・・・」
 

 マザー・イザベルのお仕置き自体は、膝に乗せてを軽く平手と小さなパドル振るだけで、決して厳しいとはいえなかった。
 だが、違う意味で、誰よりも厳しい。どんな些細なことであれ、不条理な理由であれ、すぐに膝に乗せられてしまうのだから。
 イザベルの膝の上に呼ばれた娘は、お尻だけを剥き出しにされる。
 ピシャン!と、イザベルの平手が振り下ろされた。
 呻く娘。
――――ピシャン! ピシャン! ピシャン! 
 決して強くないパドル打ちが、繰り返し振られる。
「あ! う! う! あぁ!」
「どんどん赤くなってきたわよ。もっと真っ赤にしましょうね」
「痛い・・・、痛い・・・、う! あぁ! ごめんなさい!」
「謝ってもダメよ。お前は罪人なんだから。お尻を叩かれて、当然なの」
――――パン! ピシャン! パシン!
「お膝の上に乗せられてお尻だけ丸出しにされて、自分がどんなに恥ずかしい格好をしているか、想像してみなさい」
「いや! そんなこと、言わないで!」
――――パーーーン!
「痛いーーー!」
 やおらきつい一発を喰らい、娘は大きく背中を仰け反らせた。
 淡々と叩き続ける中、こうして時折強くぶつと、今度はいつそれがくるかビクビクしているのが、お尻の表情に現われて、また楽しい。
マザー・イザベルは昔から、叩かれて赤くなったお尻が大好きだった。
 お尻を叩く光景や風刺画を見ると、ドキドキする。
 見るのもいいが、やはり、自分で叩いてみたかった。
 自分に叩かれて赤くなっていくお尻。
 痛くてもがくお尻と、そのお尻の持ち主の泣き声。
 考えただけでゾクゾクする。
 けれど、そう簡単にはそんな機会に恵まれず、5年前、仕置き館の設立を知った時は、狂喜した。
 なんという幸運! 
 仕置き館のマザーという役目は、自分の為にあるようなものではないか。
 貴族の庶子に生まれ、厄介払いで修道院に放り込まれた自分の運命を呪ったこともあったが、修道女だからこそ、マザーになれるチャンスがある。
 イザベルは、ありとあらゆる伝手を駆使し、やっと半年前、仕置き館のマザーになることができたのだ。
 天国だった。
 お堅い生活は修道院と変わらずだが、なんの面白みもない修道院と違って、仕置き館では好きなだけ赤いお尻を作れる。
 どういう風に、どれだけ。思いのまま。
 赤く腫れたお尻を出させたまま立たせておいて鑑賞するのも、至福の時。
 唯一不満だったのは、なかなか「戒めの日」の仕置き官にしてもらえないことだった。
 普段のお仕置きは口実がなくてはできないし、こじつけ理由を探すのに苦心しなければならず、面倒だった。それに、些細な口実では、あまり厳しくもできない。
 平手でお尻の感触を味わいながら叩くのも楽しいが、時には、厳しく道具をお尻に据えてみたい。
 自分が振るケインやパドルにお尻をもがき、「ごめんなさい」と娘たちが泣いたら、どんなに楽しいだろう。
 早く戒めの日に参加したい。早く、早く・・・。
 グランドマザーに呼び出された今日、いよいよ戒めの日に参加できるのだと、イザベルは期待に胸を膨らませて館長室をノックした。


 館長室に入ると、奥の執務机にかけるグランドマザーと、その両脇に立つ、数人のマザーだけだった。
 これから戒めの日の呼び出しを受けた収容者たちが、半ベソでここに連行されてくる。
 その顔を、仕置きを与える者として眺めるのは、さぞかし気分がいいだろう。
 執務机の両脇に立つマザーの列に加わろうと歩を進めると、グランドマザーがヒラリと手を挙げた。
「マザー・イザベル。あなたはそこです」
 そう指し示されたのは、部屋の中央。
 そこに立つと、まるで自分が罪人のようだ。
「今日あなたをお呼びしたのは、マザーとしてのあなたのやり方に、いささか問題ありと判断したからです」
「え!? 何を仰っているのか、わかりませんが」
「あなたは、どうして娘たちのお尻を叩くのですか?」
 質問の意味がよくわからない。
「どうしてと仰いましても・・・、それが仕置き館のマザーの仕事ではないですか」
「・・・仕事、ですか」
「そうですわ! 仕置き館が収容者への罰にお尻を叩くお仕置きをする場所だから、叩いているのです。ここが背中を鞭打つ場所なら、私は背中を打ちますし、頬をぶつ場所なら、頬をぶちますわ」
「では、お説教するだけの場所なら?」
「もちろん、お説教をします」
「それでは、そうしてください」
「・・・は?」
「今後、あなたには娘たちに、口頭による注意やお説教で、再教育に当たっていただきます」
「そんな! どうしてです!」
「あなたは、お説教だけでは改まらない者だけを、私の元に連れてくるだけで結構です」
「そんなの、ずるいですわ!」
 自分の楽しみが取り上げられる。それでは、ここに来た意味がない。
「・・・ずるい? やはり、あなたはあの子達のお尻を叩くことを、楽しんでおいでだったのですね」
「楽しんでいたって、いいではありませんか! やっていることは同じなのですから!」
「違いますよ」
「何が違うの!? ミスを見つけてお尻を叩いているでしょう! 同じよ!」
「ここには、娘たちのお尻を叩きたくて叩いているマザーはいないのです」
「そうだとしても、同じことでしょう!」
「いいですか。お尻を叩くのが好きでも楽しくても、それ自体はかまいません。ですが、あなたがそれを、あの子達にどういう思いで行使するかなのです。あの子達は、あなたのお仕置きに違和感を感じると言っています。それは、お仕置きが自分たちの為でなく、あなたの為に行われていると、肌で感じているからではないですか?」
「あの収容者達は罪人ですわよ。お仕置きに意見できる権限などありませんわ。お仕置きにお尻を差し出していれば良いのです!」
「あなたのお尻叩きはお仕置きではありません。あの子達は、あなたの欲望を満たす道具ではないんです」
 グランドマザーは深いため息をつき、他のマザーと顔を見合わせた。そして、机の上の便せんに、サラサラとペンを走らせる。
「マザー・イザベル。あなたは、元の修道院にお帰りなさい。院長様には事情は伏せて、お手紙を書きました」
 グランドマザーはイザベルに手紙を渡したが、怒りに震えた彼女は手紙を破り捨てると、グランドマザーに罵りの言葉を浴びせかけ、ことさら乱暴にドアを開けて、館長室を後にした。
「・・・彼女の人と成りを見抜けず、半年も、あの子達に辛い思いをさせてしまいました。私こそ、罰を受けなければなりませんね・・・」
「そのようなこと、仰らないでください、グランドマザー。あなたを信頼していたから、コゼットも打ち明けに来たのです。すべてを一人で背負い込もうとなさらないで」
 そう慰めてくれたマザーに、グランドマザーはそっと頭を下げてから立ちあがった。
「仕置き館のあり方を、一度、よく話し合いたいと思います。皆さん、今夜消灯後、もう一度ここに集まってください」




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