仕置き館

第4話 マザーの子

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 仕置き館を退館して社会に戻った娘たちは、マザーの子と呼ばれ、それぞれの雇われ先で、大変評判が良かった。
 陰日向なく働き、仕事が丁寧。
 誰に言われた訳でもなく雑用を片付けていくし、読み書き計算の教育や色々な職業訓練を受けているから、雇い主は使い勝手が良く、ありがたがった。
 貧しい身なりなりに、いつも清潔にしているし、何より、礼儀正しい。
「とても元売春婦とは思えない。仕置き館のお仕込みは素晴らしい!」
 誰もがそう絶賛した。
 仕置き館には、退館後の彼女らを雇い入れたいという仕事先から、求人が殺到しているくらいだ。
 仕置き館出の娘たちはいつも褒めてもらえるので、自信を持って生活するようになり、その自信が表情を明るくし、更に人に好かれるという相乗効果をもたらす。
「ちょいと、聞いたかい、アンタ。あの商家で下働きしてたマザーの子」
「ああ、聞いた。旦那さんに見初められて、跡取り息子さんと結婚するそうじゃないか」
「大したもんだねぇ。隣町の店で働くマザーの子は、仕事ぶりの感じが良いってんで、店は大繁盛らしいよ」
「あの子らは働き者だし、気持ちのいい挨拶するしなぁ」
「それに比べて、うちの娘ときたら・・・ジゼル! いつまで寝てるんだい!」
 店の奥から、寝癖頭でのそのそ出てきた娘に、小さな雑貨屋を営む夫婦はため息をついた。
「たまには朝食の支度でもしておくれよ」
「母さんの仕事でしょ」
 これだ。可愛い一人娘だからと、少々甘やかしすぎた。
「ジゼル、店の前を掃除しとくれ」
「えー」
「アンタの飯のタネだろ! それくらい、手伝ってちょうだい」
 不平タラタラで押しつけられた箒を持って店前をはき始めたジゼルだったが、あれでは埃を立てているだけ。
「ちったぁ、マザーの子らを見習って欲しいもんだねぇ」
 聞こえるように母親が言うと、ジゼルはフンと鼻を鳴らして、箒を店の前に立てかけた。
「じゃあ、まずは街角に立たなきゃね」
「ジゼル!!」
 両親の叱りつける声など、どこ吹く風。
 ジゼルはさっさと店の奥の住居に戻ってしまった。
「やれやれ・・・。本当に、仕置き館で躾けちゃもらえまいか」
 母親のぼやきに、父親は少し真面目に頷いた。
「いいかもしれんな」
「え?」
「ダメで元々だ。頼んでみないか?」
「え! だってアンタ・・・!」
 さすがに母親は目を瞬いたが・・・。
「――――母さーん! スープ温め直して!」
 奥から響いた娘の声に、大きなため息と共に首を振った。


 仕置き館のグランドマザーを訪ねてきた雑貨屋の夫婦のような両親は、実のところ、すでに数十組に上っていた。
 やんわりと返答を濁し続けてきたグランドマザーが、マザー達を会議室に召集したのも、致し方のない数。
 自分たちの躾けの至らなさを、余所に預けてなんとかしようという両親の行動には釈然としないものがあったが、仕置き館再教育者の評判がそれをさせたとあれば、現収容者の更生への励みになるかもしれない。
 厳しいお仕置きを持ってして接していても、収容者の彼女らに更生して幸せになってほしいのは、マザー達の共通する思いであった。
話し合いの結果、すでに売春という罪を犯した先の収容者が定期的に受けるお仕置きはせず、彼女たち同様の生活をさせ、その生活ぶりを監督し、至らない場合のみ、お仕置きを下すという形で受け入れるという結論が出た。
 半年後、申込者から十人ずつ、受け入れが始まった。
 だが、受け入れ日の状況は、マザー達が驚くほどひどかった。
 時間通りにやってきた親子は皆無で、娘らを連れてくるだけで疲れ果てた様子の両親と、不貞腐れた様子の娘たちがやっと全員揃ったのは、予定の時間を半時も過ぎてからだった。
 警官に売春で摘発され、自分の罪をある程度自覚している本来の収監者と違って、この娘たちは、自分が何故ここに連れてこられたかの自覚がないのだから。
 三者面談を担当したマザーの疲労困ぱいした表情の報告に、グランドマザーは普段滅多にしない、会議決定の変更を決意し、それが別室に集められた両親に伝えられる。
「ここは仕置き館です。ここに収監された時点で、お尻に戒めを受ける身です。娘さん方にも、それは同様に与えられます。それがお嫌なら、今すぐ娘さんを連れてお帰りください」
 両親達の間で、どよめきが起こる。
 グランドマザーの言葉は、即ち、ここに預ければ、規律に反したという事実がなくとも、娘が必ずお尻を叩かれるということなのだから。
 いくら自分たちの言うことを聞かないとはいえ、可愛い愛娘が、ここにいるだけで罪人同様にお尻を真っ赤に腫らされるとなると、両親も悩んだ。
 半数が入館を辞退し、半数が、娘を残して帰っていった。
 仕置き館に残された娘たちは、グランドマザーが両親に告げた通り、『仕置き館に収監されたお仕置き』を宣告された。
「冗談じゃないわよ! 私が何をしたっていうのよ!」
 5人の娘たちは、口々に不平を鳴らす。
「ええ、あなた方は何もしなかった。だから、お仕置きなのですよ」
「意味わかんない! 帰る!」
 一際いきり立って、踵を返しドアを開けようとした娘・ジゼルは、外から鍵がかかっていることに気付いて、初めて戦慄を覚えたようだ。
 近付いてきた二人のマザーを振り払おうとするが、簡単に両肩をつかまれ、グランドマザーの前へ引きずり出されると、軽々とグランドマザーの膝の上に腹這いにされてしまった。
 マザー達には手慣れた作業である。ジゼルを膝に乗せたグランドマザーも然り。彼女が膝の上から抜け出そうともがいても、さして力を込めず、それを制す。
 この一連の状況を唖然と見ていた残りの娘たちは、閉口し、いつしか身を寄せ合うようにしていた。
「いやよ、離して! ――――きゃあー!」
 スカートを捲くりあげられ、下着を足の付け根まで下ろされた。
 人前でお尻を丸出しにされた屈辱に、ジゼルは子供のように泣き出してしまった。
 本来の収監者らには見られない反応に、マザー達は顔を見合わせる。
 そういえば、本来の収監者達は、皆、売春を生業に生きていた娘。裸を晒すことに慣れている者ばかりだった。だから、彼女らの泣き声は、ただひたすらに、お尻を叩かれる恐怖にのみ向けられていたのだが、どうもこの娘たちには、お尻を剥き出しにされるだけでも、十分に堪えるらしい。
「さあ、お仕置きですよ」
「いやあ! どうしてお仕置きされなきゃいけないの!? 私、何もしてないわ!」
「さっきも言ったでしょう。何もしなかったからですよ。ここにいる皆さんも同じ。お家のお手伝いもせず、自分のことすらせず」
 ジゼルも他の娘たちも思い当たることだらけだが、何故それでお仕置きなのかがわからない。
朝、起こしてくれるのは当たり前。
母親がご飯を作って出してくれるのは当たり前。
 家の仕事を両親がやるのは当たり前。
 遊びに行くお小遣いをもらうのは当たり前。
 自分が着る服を洗濯してもらうのは当たり前。
 夜、きれいなシーツをベッドメイキングしてもらって寝るのは当たり前。
「いいでしょう、わからないまま、お仕置きを受けなさい。ここでみっちり躾け直します。わからない子は、いつまでもお家に帰れませんから、そのつもりで」
「そんな! ――――ぅあーん!」
 とうとう始まったお仕置きは、生まれて初めてお尻を叩かれるジゼルには、とても厳しいものだった。
 ジゼルにとって厳しいだけで、平手を振るグランドマザーは十二分に加減している。
 それでも、見る見る真っ赤に染まっていくお尻に、見ていた娘たちがすすり泣き始める。
「ひ! あ! 痛いよぉ! 痛いよぉー! もうやめてー!」
「まだ10もぶってませんよ。お仕置き部屋と呼ばれる部屋では、百叩き以下はありません」
「そんなー! 痛いー!」
 平手が百を数えた頃、ジゼルのお尻はまるで色を塗ったように真っ赤になっていた。
「さあ、みんなにお尻が見えるようにそこに立っていなさい。次の人」
 一番端で、みんなの陰に隠れるようにしていた娘は、グランドマザーと目が合って、嫌々と首を振る。
「自分から膝に乗れない子は、お道具で叩かれますよ」
 渋々、娘がグランドマザーの前に立った。
 腕を引っ張られるように膝に乗せられた娘は、やはり、お尻を丸出しにされた時点で泣き始める。
 こうして、5人の娘たちは真っ赤なお尻を並べ、仕置き館での生活をスタートさせた。
 決められた時間に自分で起き、寝間着をたたみ、ベッドメイクをし、人に会えば挨拶をする。
質素な朝食。好き嫌いはもちろん許されず、食べ終えた食器は自分たちで洗う。
 そして、掃除、洗濯。
 ごく当たり前の日常のことすら、娘たちには初めてのことばかりで、日に何度もお尻を叩かれた。
 それでも、3か月を少し過ぎた頃には、退館の許しを得て、娘たちは各々の家に帰っていった。
 

 ほどなくして、入館を辞退した両親全員から、再び、入館の申し込みがあったのだ。辞退の侘びと共に。
 それほど、辞退しなかった家と辞退した家の娘に差があった。そして、辞退の事実は世間の風評により「仕置き館を断られた娘」という悪評を招いたらしい。
 そのような風評を望んだ訳ではないグランドマザーは、ある日、マザーにこう漏らしている。
「摘発収容者の娘にしろ、両親の申し出による収容者にしろ、あの子達のお尻が腫れ上がる度、私たちの心が痛んでいるとは、誰も思わないのでしょうか・・・」
 それでも、そんなレッテルを張られた娘たちを放置する訳にもいかず、仕置き館に新たな収容者層が増える。
「けれど、これでは私たちマザーの人出が足りません」
 娘たちの教育に充てる人材を、容易く雇い入れる訳にもいかず、グランドマザーの頭を悩ませていた人手不足問題は、思わぬところで解消された。
 昔、仕置き館を退館した娘たちが、名乗りを上げてくれたのだ。
「私たちでマザーの役割が担えるか心配ですが、マザーはいつも、私たちに課していた生活を、ご自分でも実行なさっておいででした。マザー達のご指導により、私たちは今でもあの厳格で規律正しい生活を難なくこなすことができます。新しい収容者達に、それをして見せることなら、できる自信があります」
 かつてはお尻を真っ赤にされて泣いていた娘たちの成長した姿に、グランドマザーは目頭を押さえる。
「そうです、指導・教育側の自分たちの行動を見せることこそ、仕置き館の教育の理念です。よく、わかってくれましたね」
「はい。あの厳しい規律を、マザー自身が守ってくださっていたから、私たちにも身についていったのです。とても、とても感謝しています」
「いいえ、こちらこそ、ありがとう。立派に成長してくれて、ありがとう」
 グランドマザーはとうとう涙を堪え切れず、成長した娘たちを抱き寄せて泣いた。
 


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