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オルガ

第七話 違えた道

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 フォスターとヴォルフは初等科時代から大学を卒業するまで、ずっと同じ学び舎で過ごした学友であり、幼馴染ある。
 全寮制であったから、生活もほぼ共にしてきたと言ってよいだろう。
 侯爵家の一人息子だったヴォルフは、幼いながらも自分が同級の子供達の中で最も爵位が高いと理解していたし、周囲の貴族の子息たちも、彼に傅くことが最良の策と心得ていたから、彼の暴君ぶりはこの頃から発揮されていた。
 当然、ヴォルフは学内で目立つ存在だ。
 そして、彼が目立つと必然的に目立つことになるのが、フォスターであった。
 何故なら、フォスターだけがヴォルフの取り巻きと違う行動をとり続けたからだ。
 つまり、フォスターはヴォルフに傅きも諂いもせず、ただの同級生として接していた。
 無論、ヴォルフの不興を買い、執拗に彼に絡まれることになり、よって、目立つ。
 フォスターは殊更にヴォルフに抗ったことなど無い。
 ただ、了承できることは了承し、嫌なことは嫌だとハッキリ断る。
 それはヴォルフに対してだけでなく、他の子息たちにも変わらない態度だ。
 自分と他者を同じように扱うというのが、ヴォルフの癪に障るらしい。
 ヴォルフが難癖をつけてこようが、暖簾に腕押し。
 彼の嫌がらせが度を越せば、躊躇なく怒る。
 初等科時代など、フォスターが怒ったことに驚いたヴォルフが、わんわん泣いてクラスが大騒動ということもザラだった。
「君、その内にヴォルフの父上の怒りを買って、フォスター家の進退が危ぶまれるぞ」
 級友から、そんな忠告を受けたことがある。
「ボクはそんなことで進退が揺らぐような貴族社会に興味無いな」
 フォスターの返答は、貴族の子息たちを驚かせた。
 幸い、ヴォルフが学校でのことを両親に言いつける・・・ということはなく、周囲をハラハラさせる状況は続いても、フォスターには変哲のない学校生活だった。
 とはいえ、ヴォルフが執拗に絡んでくることに、辟易としなくもない。
「そんなにボクが気に入らないなら、かまわなければいいだろう?」
 そうは言ってみても、ヴォルフの行動に変化はなく、気付けば、彼はいつもフォスターの傍にいるようになっていった。
 なんだ、こいつは要するに、寂しいんだな・・・と気付いてからは、うんざりすることも減った。
 考えてみれば可哀想な男だ。
 取り巻きは山のようにいても、彼に本心を見せる者はいない。
 もちろん、それはヴォルフの我儘な暴君ぶりが招いた自業自得であるが、それの何が悪いのか教える者がいなかったのだから、仕方あるまい。
 結局、フォスターがその役目を担う羽目になる。
 暴君ヴォルフをフォスターが叱れば、拗ねはすれど、彼は言うことを聞いた。
 高等科の頃には、彼らはすっかり周囲が認める親友同士であった。
 大学生になったある日、ヴォルフがとうとうフォスターの逆鱗に触れる行為をしなければ、今でもそんな関係は続いていただろう。
 そうすれば、ヴォルフはオルガの様な少女を蹂躙するようなことはなかったかもしれない。
 大学時代に初めて起こった、この蹂躙行為こそが、フォスターにヴォルフを見限らせ、彼らは友人でなくなったのだが・・・。
 ヴォルフにはそれが理解できていなかったようだ。
 フォスターが恋をした。
 それがすべての発端だった。
 相手の女性はフォスター達が生活する寮のメイドだった娘。
 名をオリガといった。
 当然、身分違いの恋。
 だからフォスターは、自分の想いを気取られないように、彼女と接する時間を大切にしていた。
 中途半端に手をつけるような真似をして、オリガを苦しめたくなかったのだ。
 そんなフォスターの想いに逸早く気付いたのは、さすがにいつも彼にくっついているヴォルフだった。
 ヴォルフはフォスターの気持ちを知った上で、というか、知っているからこそ、オリガに近付いた。
 暴君気質ならではの強引な彼の誘いに、オリガがまんざらでもなく心を許しているのが見て取れて、彼らが二人きりでいるところを見かけると、胸がざわついたものだ。
 ヴォルフが本気でオリガを求めているなら、仕方ない。
 だが、フォスターには彼の行動が、子供の頃同様の挑発行為にしか見えなかったのだ。
 フォスターがオリガに惹かれているから、横やりを入れて反応を待っているようにしか・・・。
 そんなことでオリガの心が弄ばれるのは、不快であったし、気の毒だった。
「ヴォルフ、遊びで彼女を傷つけるような真似はするなよ」
「妬いてるのか?」
 そうほくそ笑んだヴォルフは、実に嬉しそうだった。
 余計なことを言ったと思った。
 知らん顔をしていれば、いずれヴォルフも飽きただろうに。
 だが、そうなることでオリガが傷つくのが、可哀想だった。
 しかし、無理矢理にでもヴォルフの遊びを止めさせるべきだったのだ。
 そうしなかったから、オリガは・・・。
「ヴォルフが呼んでる?」
 取り巻きの一人から伝言を受け、フォスターは彼の部屋を訪れた。
 ノックをすると、待ちかねたように出迎えたヴォルフの背後から、甲高い女性の喘ぎが聞こえる。
「君も参加したいだろうと思って呼んだのさ。そら、好きな女を自由にするといい」
 ヴォルフが指し示す先に見えたのは、彼の取り巻き達の玩具と化した、オリガ。
「どうした、早く行けよ。ああ、彼らと一緒じゃ嫌か? なら、彼らはすぐに下がらせ・・・」
 言い終わらぬ内に、ヴォルフの頬にフォスターの拳が振り下ろされた。
「な、何をする! 無礼者!」
 勢いで床になぎ倒されたヴォルフを見て、オリガを弄んでいた取り巻き達が驚いて、各々ズボンを引き上げ、彼に駆け寄る。
「謝れ、フォスター! これはやり過ぎだ!」
 そう言った取り巻きの一人は、見たことがないほどの怒気を瞳にはらんだフォスターの一瞥にたじろぐ。
「やり過ぎ・・・だと? 君たちには、自分がしたことに、その自覚がないのか」
「何をそんなに怒ることがある。たかが下働きのメイドじゃないか」
 抗議めいた取り巻きの返答に、フォスターは再び拳を握り締めたが、やめた。
 哀れだ。
 なんと哀れな青年達。
 貴族という特権階級意識が育てた、稚拙な化け物。
 フォスターはビクビクとする彼らの前を素通りし、オリガの乱れた衣服を整えてやると、労わるように抱きかかえ、足早に部屋を出た。
「勘違いするな、フォスター! その女が自分で了承したんだ!」
 背中に投げつけられるようなヴォルフの声。
 その声に振り返ったフォスターの冷たい眼差しに、ヴォルフは初等科の頃のように泣きそうになっていた。
「これで終わりだ、ヴォルフ。僕はもう、君と関わりたくない」
 ヴォルフは何も言い返してこなかった。
 フォスターのその言葉が、心からのものだと悟り、ただ茫然と床にへたり込んだまま。
 その数日後、オリガは寮のメイドを辞めた。
 ヴォルフ家が辞めさせたと噂で聞いたが、フォスターは最早、ヴォルフに対して一切、反応を示さなかった。
 フォスターに対する学校側のお咎めもなく、それはヴォルフが殴られたことを公にせず、両親にも言わなかったという事実であることは明白であったが、この件も黙殺。
 ヴォルフの目が、自分を追っているのは気付いていた。
 それも、しばらくするとなくなり、二人の仲は完全に決裂したまま、大学を卒業。
 数年後、それぞれの父親が隠居し、ヴォルフが侯爵、フォスターが伯爵となった。
 行事ごとなどで顔を合わせる機会が増え、立場上、口をきく状況も生まれ、その頃から届くようになったヴォルフ侯爵家からの招待状。
 ことごとく欠席していたが、ついに断る口実も途絶え、仕方なく赴いたあのパーティーで、オルガと出逢ったのである。



 身支度を整え向かった応接間で待っていたメイドは、果たして、あのオリガだった。
 当時はオルガと変わらない年頃の少女だった彼女も、年を重ね、すっかり大人の女として、フォスターの前に立っていた。
「――――お久しゅうございます、フォスター卿」
「・・・ああ、何年振りかな。どうぞ、座って」
「いえ、私はこちらで結構でございます。伯爵さまとお話するのに玄関先という訳にも参りませんので、お言葉に甘えて応接間にまで図々しく入り込みましたが、メイドごときが伯爵さまと差し向いに座るなど、滅相もございません」
「君は他家のメイドかもしれないが、今は我が家の客人だ。いいから、座りなさい」
 遠慮がちにソファとフォスターを見比べていたオリガは、ふと笑みを漏らし、丁寧に頭を下げてソファに腰掛けた。
「何かおかしいかい?」
「お変わりありませんのね、学生の頃から、ちっとも・・・。貴族のご子息ばかりの寮で、私たち使用人をちゃんと人間として扱ってくださる方は、あなた様だけでございました」
「だって、君たちは人間ではないか」
 オリガはますます愉快そうにクスクスと笑った。
 学生時代以来に見る、オリガの笑い顔にしばし見とれていたフォスターは、頭を一振りし、口を開いた。
「君は今、ヴォルフ家に仕えているのかね」
「はい。あの時から、ずっと・・・」
 あの時、というのが、あの件で寮のメイドを辞めてからだと、わからぬフォスターではないから、さすがに驚いた。
「・・・あの一件は、公にこそなりませんでしたが、口伝えで噂にはなり、私はいることができなくなりましたの。それで、ヴォルフ様がお屋敷に雇い入れてくださいました」
「当然だ! 彼にはその責任がある!」
 思わず声が高くなったフォスターに、オリガは苦笑した。
「フォスター様は、ヴォルフ様が責任をお感じになったとお思いですか?」
「え? あ、いや・・・」
 あのヴォルフが、自分の仕出かしたことに責任を感じるとは、到底思えない。
 では何故・・・。
 もしや、彼が卒業後に屋敷に戻ってからも、いいようにオモチャにしようと? その為に?
 オリガの苦笑が深くなった。
「いいえ、今ご想像なさったことからではありませんわ」
 顔に出ていたらしい・・・。
 フォスターは危なく紅潮しそうだった顔を一撫でし、少ししかめ面をした。
「君が勿体つけた言い方をするから、余計な想像をすることになったんだ。そもそも、私への用向きは何なんだね」
「あなた様がオルガと名付けた少女のことです」
 今度こそ、フォスターは顔を赤らめた。
 学生時代に隠し通していた想いを、見透かされたのがわかったからだ。
「・・・ありがとうございます。私のような者のことを、お心に留めていただいて」
 何と答えたものか、返答に窮す。
「いや、その・・・。オルガはヴォルフ家にいるのだろう? ヴォルフ家の車に乗ったのを見たという話があってね」
「はい、ヴォルフ様が昨夜、連れ帰られました」
「そうか・・・。その、あの子はどうしているかね」
 ヴォルフの屋敷に行ったとなると、思い出すのは丸裸に首輪だけつけられて、四つん這いであるく姿。
 オリガが微笑んだ。
「ヴォルフ様が、手こずっておられますわ」
 目をまたたく。
「ヴォルフが?」
「はい。以前のように服を取り上げようとしても、頑として言うことを聞かないオルガに」
「オルガが?」
「ええ。このお洋服はフォスター様がくれたものだから駄目だと、一点張りで。言い返されたことなどないヴォルフ様は、大そうな戸惑い振りでございます」
 何だろう、じんわりと、胸が温かくなる。
「言い返させまいと、前のように言葉を禁じても、ききませんの、オルガは。フォスター様が話して良いと仰ったって」
 オルガの中に、確かにフォスターの教えが沁み込んでいる実感に、目頭が熱くなる。
「鞭で言うことをきかせようとしても、ヒョイヒョイと逃げ回って、こう申しましたのよ。「オルガにはもう、帰るところがあるから、鞭なんか怖くないの」って」
 嬉しさと共に沸き上がる疑問符。
 そうまで言ってくれるなら、何故、オルガはフォスターの元を出て、ヴォルフのところに行ったのか。
「・・・フォスター様、これからが、用向きの本題です。恐らく、オルガの思いの代弁でもあるかと」
「話してくれ」
「・・・救っていただきたいのです」
「オルガを?」
「いいえ。・・・ヴォルフ様をです」
 フォスターは我が耳を疑うように、真剣な眼差しのオリガをみつめた。



「お前は私の元に戻った! ならもう、私の物だ! フォスターの物ではない! 飼い主の言うことを聞け!」
 当たらぬ鞭を振り回してオルガを追いかけ回したせいで、すっかり息が上がってしまったヴォルフは、傍らのベッドに崩れ落ちるように座り込んで喚いた。
「や! オルガ、物じゃない! ふぉすたは、そんなこと言わない!」
「えーい! 口を開けば「ふぉすた、ふぉすた」と! なら何故、自分から戻ってきた!」
「ヴォルフが大好きだからでしょ!」
 言われ慣れない言葉を投げつけられたヴォルフの耳朶が、ものの見事に真っ赤に染まる。
「しゅ、主人を呼び捨てにするな!」
「主人じゃないもん! ヴォルフ! ヴォルフ! ヴォルフ!」
「貴様ぁ!」
「きさまじゃないの! オルガって呼んで! ふぉすたがくれた、オ・ル・ガ!」
「~~~はッ、余程、フォスターの仕込みが気に入ったと見えるな」
「そーよ、ふぉすたはオルガ、大事、してくれた」
「大事? フン、私は見ていたんだぞ。フォスターとて、お前をぶっていた」
 オルガが弾かれるようにお尻を押さえ、頬を紅潮させた。
 かつてファビオに叩かれて赤くなったお尻を平然と見せていた頃から比べて、成長をしている証かもしれない。
 フォスターが今のを見れば、そう考えただろう。
 だが、ヴォルフには理解できない。
 彼がそれを見て思い至ったのは、幼稚で単純な結論だった。
「そうか、なるほどな」
 ニヤリとしたヴォルフは、照れて一瞬の隙を生んだオルガの腕を掴むのに成功した。
 強く腕を引かれたオルガの体が、ベッドに掛けていたヴォルフの膝に腹這いに崩れ落ちた。
「こういう風だったな。フォスターはこうやってお前を膝に乗せて・・・」
「あ! やぁ!」
 スカートを捲くり上げ、続けて下着も引き下ろすと、自分の膝の上で丸出しになった白いお尻に、思い切り平手を振り下ろす。
「痛い~!」
「これだろう? これが気持ち良くて、フォスターが気に入ったんだ。どうだ、気持ちいいか! 嬉しいか! そら、私の言うことを聞け!」
「あ! や! いた・・・痛い! やだぁ・・・!」
 立て続けに平手を振り下ろされ、膝から抜け出そうともがくオルガの中に、確かな実感が生まれていた。
 フォスターにぶたれた時も、言うことを聞くようにというお仕置きもあった。
 でも、その「言うこと」が、フォスターの為だったことは一度もない。
 全部、オルガの為。
 今こうして、まったく同じにお尻を叩かれているのに、何にも気持ちに響いてこない。
 ただ、痛いだけ。
「~~~くそっ! 痛いじゃないか!」
 苛立つように吐き捨てたヴォルフは、オルガのお尻同様に赤くなった自分の平手を擦り、彼女を膝から押しのけた。
「スパンキングが好みなど、厄介な女だな」
 パン・・・! と、鋭い音が響き、自分の頬がピリピリと痛み出したのが、目の前のオルガに頬をぶたれたのだと理解するのに、しばし時間を要した。
「ふぉすたのと・・・違う。ヴォルフの、ばか・・・」
 その差異を、その心情を、上手く言葉で表現できないもどかしさに、オルガの大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙がこぼれる。
「ごめん、ね、ヴォルフ・・・」
 抱きついてきたオルガに、弾けかけていた怒りが戸惑いに押し戻されたヴォルフ。
「やっぱり、オルガじゃ、だめ。ヴォルフ、助けたいのに、オルガじゃ無理・・・」
「助けるだと? 何を小癪な・・・」
「ふぉすたじゃなきゃ、無理、だね。ごめんね、ヴォルフ。悲しいのにね。苦しいのにね」
 ヴォルフはうろたえていた。
 オルガの紡ぐ訳のわからない言葉が、何故だか胸をひどく痛くするから。
 ただ、ほんの少しだけ感じることは、この言葉が、オルガじゃなければつまらないと思えた理由ではないかということだった。


                 つづく


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~ Comment ~

楽しませていただきました。

スパ小説を色々な所で楽しんでいる私ですが、この作品は特に心惹かれました。更新を切望します。(*?-?*)
勝手ながらリクエストしてみます。
ブォルフの悪行を暴いた、高位の紳士に躾直され、フォスターと親友に戻り
オルガとも…BLになりそうですね。w
男勝りの美人なお姉様からヴォルフが躾られ、まともな人間になっていく…
等。なんでも良いので更新を楽しみに
待っています。
ありがとうございました。(。-_-。)( _ _ )

素敵です(>_<)

オルガのお話し大好きです!!ぜひ続き書いて下さいお願いしますm(_ _)m
続き楽しみにしています!!

キュンとしちゃいました。

『オルガ』を一気に読ませていただきました。
フォスタの愛とオルガの健気に答えようとする姿と
キュンキュンしながら読みました。
また、続きが公開されることを楽しみにしています。
素敵なお話をありがとうございます。
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