仕置き館

【仕置き館番外編】ワイラー卿、復活

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 離縁した妻イザベルが作った膨大な借金で、一度は公爵家そのものが傾きかけたワイラー卿であったが、大農園を有した領地の一部を売り払い、無事再生を遂げていた。
 農地の一つや二つ、どうということはない。
 口惜しいのは・・・仕置き館。
 ワイラーの嗜好の楽園とも言えたあの婦女子更生施設の所有権を失ったことが、なにより手痛い。
 もう一度、買収を画策しようとも考えたが、仕置き館の後見人についているフォスター伯爵。
 ワイラーより爵位は下だが、国王陛下の覚えもめでたく信任も厚いときている。
 そんな男と真っ向から対立するような愚行を、犯したくはない。
 いっそ、新しい婦女子更生施設の設立を・・・と思ったが、あの仕置き館に絶対の信頼を置いている司法行政が、新生施設に更生対象者を回してくれるとは考え難い。
 お陰で、ワイラーの趣味の矛先は、彼の屋敷に雇われている使用人や新しい妻に向けられていた。
「いやぁ、ワイラー家には出来たメイドばかりで、感服いたしますなぁ」
 ワイラー公爵家に有力貴族を集めての月に数回の食事会。
 楚々として卒のない仕事をする礼儀正しいワイラー家のメイド達は、貴族たちの間でも話題になっていた。
「厳しく躾けていますからね。失礼があれば、すぐに仰ってください。きついお仕置きをくれてやりますから」
「とんでもない! 当家のメイドに見習わせたいくらいですよ」
 ――――面白くない。
 ワイラー卿の趣味は婦女子のお尻を叩く、あるいは叩かれる婦女子を愛でることだが、その嗜好の向きは少々複雑で、ただお尻を叩いても満足できなかった。
 屋敷内で絶対権力者であるのだから、メイドなり下女なり、お尻を出せと命じれば逆らえる者はいない。
 が、それではつまらないのだ。
 お仕置きという名の元に、仕出かした粗相でお尻を叩かれながら必死で許しを乞う姿。
 年頃の娘や大人の女が、まるで子供に返ってしまったように、「ごめんなさい」と喚きだすのが、至福の瞬間。
 こうでなければ、ワイラーの趣味嗜好は満たされないし、完成しない。
 理由にできるなら、どんな些細なことでもこじつけでもかまわないのだが、ワイラーのお仕置きを恐れる使用人たちは、とにかく如才なく仕事をこなしてしまう。
 お陰で最近、お仕置きもご無沙汰。
 仕置き館は本当に良かった・・・。
 まず、そこに入所したこと自体が、理由になる。
 メイドたちのように固定ではないから、収容者たちの生活が改まってしまっても、次から次へと新しい収容者がやってくるのだ。
 叩くお尻には事欠かない。
 犯した罪をお尻に戒める。
 考えただけで、ゾクゾクする。
 ああ、返す返すも、仕置き館の所有権を失ったことが腹立たしい。
 その元凶イザベルも、同じお尻ばかりで飽きて追い出してしまったが、もっと屋敷に置いておけば良かった。
 お尻を叩かれるあの女の屈辱の表情には味があったし、小憎らしい反抗はやりようによって、もっと理由をこじつけてお尻をぶってやれたのに。
 今の妻は放蕩女に懲りて大人しい女を選んだが、何もかもが大人しい。
 お仕置きにじっと耐え忍ぶ姿もワイラーの好む嗜好のひとつだ。
 けれど、妻は夫の命令に従うのは当たり前と言わんばかりに、恥ずかしそうな素振りも悔しげな表情もなく、ただお人形を膝に乗せて叩いている気がしてならない。
「ワイラー卿、どうかなさいましたか?」
「あ、いや、失礼。なんでもありませんよ。さあ、そろそろディナーと参りましょうか」
 談話室で葉巻やカードに興じていた招待客たちを案内して、広間へ。
 磨き抜かれた銀器や真っ白なナフキンの並ぶテーブルに各々が着席した、その時。
 ワイラーの口元に、笑みがたゆたった。
「みなさん、ちょっと失礼」
 ワイラーが控えていた執事を呼びつける。
「このクロスを張ったメイドと、洗濯をした下女を呼びなさい」
 しばらくすると、二人のメイドと下女が、おどおどしながらやってきた。
「下女を皆さまの前に出すなど、大変失礼ではありますが、これが当家のやり方です。どうか、しばしお目をつむっていただきたい」
「ワイラー卿、如何なされたのか?」
「皆さまをお迎えする食卓のクロスに、染みがついておりました。食事の後、雑な仕事をしたこの者たちに、皆さまの前でお仕置きを与えます」
「なんとまあ、厳しいことですな」
 貴族たちは笑ったが、当のメイド達は顔色を失っている。
「だ、旦那様、どうかお許しを・・・。染みなど、一体どこに・・・」
「ここだよ」
 ワイラーが指し示したのは、テーブルの縁の片隅。
 ほんのわずかな染みだった。
「そんな薄い染み・・・」
 呟くように言葉を漏らした巻き毛のメイドは、ワイラーに睨み上げられて口を押さえた。
「とにかく、今は食事が先だ。お前達はそこで待っていなさい」
「お仕置きなら後ほど頂きます! ですから、お客様の前でなど・・・」
「染みのついたクロスを出すなど、お前達は主人の私に恥をかかせ、あまつさえ、お客さま方を軽んじたということだ。皆さんの前でお仕置きを据えられて当然だぞ」
「そ、そのようなつもりは、決してございませんでした!」
 先ほどから口答えの多い巻き毛のメイドを、ワイラーはじっと見上げた。
「・・・名前は?」
「シュゼットです・・・」
「よかろう、シュゼット。お前のお仕置きは別に時間を設けよう。今は下がりなさい」
 残されたもう一人のメイドと下女は不服げであったが、シュゼットのようにハッキリと物を言う性質ではないらしく、ただ涙ぐんで俯いていた。
 本来、この二人が貴族家に仕える使用人として正しい姿だが。
 残された二人が壁際で立たされ、シュゼットが広間を出ていくと、客が何故一人だけ公開仕置きを許したのか疑問を投げかけた。
「私は別に時間を設けると言っただけだよ」
 ワイラーはそう言って口端に笑みを浮かべると、執事が注ぐ赤ワインを眺めた。
 久しぶりのお仕置きだ。
 お尻がこのワインのように染まるまで、たっぷりと泣いてもらおう。
 食事の間、ワイラーは終始ご機嫌だった。



 食事が済むと、ワイラーは執事に命じてテーブルを下げさせた。
 お仕置きを近くで見たいと下座の客が言い出したからだ。
 広間に椅子だけをコの字に並べ、客たちの見物席を設ける。
 その中央に引き出された二人の女たちは、いよいよ始まる辱めを目前に、すでに涙をこぼしていた。
「まずはお前だ」
 コの字の中央に置いた椅子に腰を下ろしたワイラーに指し示された下女は、べそをかきながら彼の前に立った。
「お前がきちんと洗濯をしなかったから、染みがついたまま仕上がってきたんだよ」
「お、お許しください・・・。もう二度とこのようなことがないように致します」
「おいで」
 もう何を言おうが無駄と察した下女は、震える体をワイラーの膝に預けた。
「おや、ケインや鞭をお使いにならないのですか?」
 客の一人が言ったのに、ワイラーは内心舌打ちした。
 これだから、この趣味を持たない奴は嫌いだ。
 お仕置きと聞けば、ただただ痛めつければ良いと、すぐ考える。
 趣きという色彩に欠けているのだから。
「粗相の度合いというものがありますからね。一事が万事同じやり方では、お仕置きの効き目も薄れましょう。そもそも下女などには、このクロスがお客様をおもてなしする大事な物ということがわからないのですから」
「ほほお、ワイラー卿は紳士的ですなぁ」
 どこがだ、どこが!・・・と、ここにフォスター伯爵がいればツッコんだであろう。
「さあ、お仕置きだ」
 下女のスカートを捲くり上げる。
 ドロワーズが曝された下女の体がビクリと震えたのを感じて、ワイラーの胸が躍った。
 良い反応だ。
 必死に両手で覆う床近くの顔が、真っ赤ではないか。
 ワイラーがドロワーズに手をかけると、「あっ!」と声を漏らして、涙ぐんだ顔が彼を見た。
 それを黙って睨むと、しくしくと泣き始めた下女が、観念したようにまた顔を覆った。
 ドロワーズを引き下げる。
「いやあ・・・!」
 剥き出しになったお尻。
 客のどよめきに、下女の全身が小刻みに震え出したのを、膝いっぱいに感じて、ワイラーは興奮した。
 振り上げた平手を、下女のお尻に振り下ろす。
「ああ!」
 下女の背中が仰け反る。
 少し待つと、白いお尻にワイラーの手形がくっきりと浮かび上がってきた。
 それを確認し、今度は立て続けに数発。
「ひ! あぁ! お許しを・・・、ああ、許してくださいまし・・・。痛い! 痛いぃ・・・!」
 平手から逃げ惑うようによじるお尻と交互に、ワイラーは待たされているメイドに目をやった。
 メイドは徐々に赤く染まっていくお尻から目を背けつつ、しかし、時折チラリと視線を送り、泣きそうに顔を歪めている。
 ワイラーの膝ですすり泣く下女に自分の姿を重ね、慄いているのだろう。
 下女のお尻を叩きながら、このメイドにはどうお仕置きを据えてやろうかと考える。
 ワイラーの至福の時だった。
「本当です、今度から気をつけます! だから許し・・・痛い~! 痛い! ああ、痛い! もうやだぁ! 痛いよぉ!」
 泣き喚く下女に、客が喉を鳴らしているのが聞こえた。
「ぅわーーーん! ひぃ! うえ~~~ん!」
 お尻はすっかり満遍なく真っ赤になった。
 次のメイドへのお仕置きの兼ね合いがあるから、そろそろ許してやっても良いのだが、ワイラーが聞きたい言葉を、まだ聞けていない。
 この泣き方からして、そろそろだと思う。
「お前が謝るべきは、私だけではないのだぞ」
 キッカケを与えてやると、下女は誘導されるように、ワイラーが望む言葉を口走り始めた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! もうしません! もうしませんーーー!」
 これだ。
 子供返りした年頃の娘の必死の哀願。
 ワイラーは下女を膝から下ろすと、床に膝をついて泣きながらお尻を擦る下女を立たせ、客たちに頭を下げさせた。
「下がりなさい」
 下女は急いでドロワーズを引き上げ、スカートの上からお尻を擦りながら、泣きべそで広間を走り去っていった。
「さて」
 ワイラーと視線が合ったメイドが息を飲んだ。
「お前はあれがお客様をおもてなしするクロスと、当然、わかっていたね」
 下女のお尻を素手で叩くのを満喫した平手は、少々腫れて痺れていた。
 無論、このメイドは下女より厳しくお仕置きするつもりであったから、平手を酷使して叩くお尻の感触を楽しんだのだが。
「はい・・・、わかっておりました。申し訳ありませんでした」
 もはやお尻を差し出すしか道が残されていないと覚悟しているメイドは、実に素直で可愛げがある。
 ただ、このメイドは勘違いしている。
 あの下女のお仕置きをそのまま、我が身に置き換えているのだから。
 ワイラーが戸口に控えていた執事を呼んだ。
 長年、ワイラー家に仕える執事は、具体的な命令がなくとも、主人の手に渡すものがわかっている。
 執事が手渡したパドルを見て、メイドが小さく悲鳴を上げてお尻に手を回し、客が歓声を上げた。
「おいで」
「そんな・・・! 私はシュゼットに渡されたクロスをかけただけで、まさか染みがあるなど、知らなかったのです・・・!」
 それは良いことを聞いた。
「それでは、渡された仕事だけを言われるままにすることが、逆にいい加減な仕事に繋がるか、今からたっぷりとお尻に教えなければな」
「ひ・・・!」
 自分が墓穴を掘る発言をしたのだと、メイドが思い知るのに、時間はかからなかった。
 下女と同じように膝に乗せられ、衆人環視の中で丸出しにされて叩かれ始めたお尻は、下女の倍の速さで真っ赤に染まっていったのだ。
「痛いーーー! 痛いーーー! いやぁあああ!」
 膝の上で片時もじっとしていないお尻が、ワイラーを楽しませて更に長いお仕置きの時を生んでいると気付く余裕など、メイドにはなかった。
 叩かれる度に跳ね上がる足。
 仰け反る背中。
 下女とは比べ物にならないほど腫れ上がったお尻。
 ワイラーは客たちを流し見た。
 皆、その厳しさに一様に声を失っている、が、目を離せないでいる。
 範は示した。
 後は、彼ら次第・・・。
 一人この場から外されたシュゼットが、どんな表情を浮かべ、どんな風に泣くのか。
 今から楽しみだった。



「ああーーー! いやあーーー! もう許してぇーーー!」
 急ぎ広間にしつらえられた応接セットで招待客たちと談笑しつつ、ワイラーはシュゼットの悲鳴と泣き声を聞きながら、ワインを傾けていた。
「痛いーーー! 痛いよぉ! もうやだぁーーー!」
 招待客を見物人に置いたお仕置きを、寛大に許してやった。
 それこそ、シュゼットが自分のお尻に招いた悲劇の始まり。
 最初、談話室に一人シュゼットを待っていたワイラーに、彼女は残ったメイドと下女よりは厳しいお仕置きを受ける覚悟はした様子でやってきた。
 居並ぶ道具を流し見て息をのみながらも、唇を噛みしめてそれに耐えようと決意する表情から、それは見てとれた。
 そんな覚悟の顔など、ワイラーには興味がない。
「あのクロスを選んだのは、お前だそうだね」
「あ、敢えて選んだわけではございません! 一番上のクロスが、たまたま・・・」
「それをチェックもせずに渡してテーブルにかけた」
「チェックはしました! でも、あんな薄い染み・・・」
「私が見つけられたのに?」
 それはいつでもお仕置きの口実を探すワイラーならではの視覚だからこそであるが、そう言われてしまうと、シュゼットも閉口する。
「先ほども、今も、お前は随分と口答えが多いね」
 楽しませてくれる。
 このシュゼットという娘は、どこまでお仕置きの口実を自ら提供してくれるのか。
「きれいな巻き毛だ。鏝を当てているのかね? 身綺麗にすることは実に良いことだ。いくら仕事ができても、自分の身を構わないでは、公爵家のメイドの仕事を果たしたことにはならん」
 主人に褒められたことに安堵の表情を浮かべるシュゼット。
「だが、我が身を構うだけで、大切な仕事がおろそかになるのは、もっと悪い」
 顔を強張らせたシュゼットに、ワイラーは畳みかけるようなお仕置きの宣告を与えた。
「そんな・・・嫌! 嫌です!」
「お前のその口答えが、このお仕置きを招いたのだよ。望み通り、見物人のいないお仕置きの時間を設けてやったまでだ」 
 招待客の何人目が談話室に入っていったか、ワイラーももう忘れてしまった。
 十数人からなる客を一人一人、執行人として送ったのである。
 彼らがどんなお尻叩きをシュゼットに課しているか、ワイラーは知らない。
 知ったことではない。
 先の二人のお尻を赤く染め上げたことで、ワイラーは久しく満足していた。
 見物客が嫌だと言うなら、それでいい。
 談話室から漏れ聞こえる、お尻を叩く音。
 シュゼットの悲鳴と泣き声。
 それだけで、もう十分楽しめる。
 招待客は、ワイラーがシュゼットを許すまで、幾度でも談話室に赴く。
 それは、シュゼットに最初に伝えてあった。
「旦那様ぁーーー! もう許して! お願いです! 旦那様ぁあああ!」
 時折、ワイラー自身が談話室に足を運び、入れ替わり立ち替わりに叩かれたお尻をチェックする。
 ワイラー自身は叩かない。
 ただチェックするだけだ。
「まだだな」
 だた一言そう言うと、それだけでシュゼットは子供のように泣いた。
「もうやだーーー!」
「・・・お前がチェックを見逃したように、私もチェックを見逃したのかもね。ああ、すまない。口答えしてしまったな」
「や! やだぁ! 行かないで! 旦那様! 行かないで! ごめんなさい! ごめんなさいーーー!」
 泣くじゃくるシュゼットを残して、ワイラーは無情に次の執行者を談話室に送り込む。
 執行人の順番待ちをする客が心底感心するように、ソファに戻ったワイラーに話しかける。
「ワイラー公爵家の使用人が優秀なはずですな。いやはや、実に厳しい躾けをなさる」
「当然でしょう」
「いやいや、私はつい手を緩めてしまいましたよ。いや、私だけでなく、ここにいる者、全員でしょう」
 客らが頷いているのに、ワイラーは呆れて肩をすくめた。
 そうであろうとも。
 シュゼットのお尻は、ここにいる彼らが何度も叩いたとは思えないほどでしかなかった。
 だから、続けさせているのだ。
「奥方をお仕置きしたこともないのですかな?」
「いや、ありますとも。貴族の姫に生まれ、貴族の妻となった以上、お尻を叩かれて躾けられるのは当然のことですからね」
「それにしては、卿の奥方の醜聞を、よく耳にいたしますな」
 さすがに不愉快そうな表情を浮かべた招待客であったが、ワイラーの権勢に勝てないからこそ、彼の招待を受けてここにいるのだ。
「いやぁ、お恥ずかしい限りです。ワイラー卿こそ、先の奥方と違い、今度は実に楚々とした奥方を娶られたようで、羨ましいことですな」
 それが一度は失墜しかけたワイラーへの皮肉であることは察していたが、ワイラーは立腹するより先に思いついた妙案に、心が躍っていた。
「今の妻は、先の妻を好き放題させた反省から厳しく躾け、あのように大人しくしておりますよ」
 それは今の妻元来の大人しさ故であったが、そこは、我が手柄にさせてもらう。
「ひとつ、構想があります。皆さん、かの仕置き館は当然、ご存知ですな」
「それはもちろん・・・」
「あれはそもそも私の立案と出資によって出来上がった物。皆さんが御承知の通り、甘やかした先の妻の作った借金のお陰で手放すことになりましたが・・・」
 ニヤリと、ワイラーの目が輝く。
「お陰で、外よりまずは身内の躾けということに気付かされ、こうして我が屋敷の者らを躾けております」
「なるほど。して、構想とは?」
「対岸の火より、足元の火。私は、貴族に直接関わる者たちへの更生施設を設立しようと考えました」
「直接・・・?」
「貴族の屋敷に仕える下女やメイド、甘やかされた貴族の年頃の姫君、そのまま嫁ぎ、夫を悩ませる奥方。それを躾け直す施設を新たに設立するのです」
「む、娘や妻まで・・・?」
 さすがにざわついた招待客らを一瞥する。
「司法に追われる売春婦ではあるまいし、施設に預けるかどうかは、あなた方次第。ただ、私が創設した仕置き館出身者、マザーの子らの噂をご存知かな? かのマザーの子らは、豊かな商家の娘以上の評価を得た。その私が創設する貴族婦女子更生施設ですぞ」
 ワイラーはグランドマザー・ヴィクトリアが粉骨砕身励んだ世間の評価を、恥ずかしげもなく己が功績として語った。
「さあ、その経験なしとなったご令嬢や奥方、そして使用人たちは、社交界がどのような評価をなさるでしょうなぁ」
 顔を見合わせた招待客たち。
 ワイラーはそんな彼らをほくそ笑んで見渡し、シュゼットのお仕置き最後の執行人として、談話室に歩を進めた。
「ワ、ワイラー卿・・・!」
「返事を御急ぎになることはない。こちらも人員を揃えねばなりませんからね。創設までに、御心を決めてくだされば良いですよ。ここにいらっしゃる方々だけが、貴族ではないのですから」
 彼らの顔色でわかる。
 おそらく、一番目の申し込みを争ってくれることだろう。
 十数人の有力貴族招待客。
 彼らの屋敷にある婦女子だけでも、当分は楽しめそうだ。
 その彼らの派閥に属する下級貴族も、必ず彼らにつき従う。
 この手だ。
 この手があった。
 何も司法行政に携わる下町娘を、相手にするばかりが能ではない。
 ワイラーの提案でシュゼットのお仕置きの執行人に誰一人立ち上がらなくなったことで、彼女は許されたのだと信じていた様子で床にうずくまり、真っ赤に腫れたお尻を擦っていた。
 だが、談話室に入ってきたワイラーがケインを手にしたことで、子供のようにイヤイヤと首を振る。
「今までのはお客様を軽んじたお仕置き。これから私が与えるのは、口答えの分だ。今、首を振った数も加える」
「そんな! あんまりです・・・!」
「また一つ増えたな」
 シュゼットは口を押さえ、言葉にできない反論を飲み込む苦さにすすり泣き始めた。
 ワイラーの握ったケインが一人掛けのソファの背もたれを指し示す。
「さあ、手をついて、お尻を出しなさい。今なら、たったの五十で済む」
「五十!? そ、そんなに・・・」
「五十一」
「ひっ!」
「十数える。その間に来られないなら・・・」
 五十で済まない。
 シュゼットはわんわんと子供のように泣き始めた。
 けれど、震える足は、ワイラーが指し示したソファに向かうしかなかったのだった。





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